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最高裁大法廷決定を受けて、改めて、民法750条を改正し選択的夫婦別氏制度の早期実現を求める会長声明


2021年(令和3年)7月21日
兵庫県弁護士会
会 長  津 久 井 進

 

 第1 声明の趣旨

 当会は、政府及び国会に対し、民法750条を改正し、選択的夫婦別氏制度を速やかに導入するよう強く求める。


 第2 声明の理由

1 2021年(令和3年)6月23日、最高裁判所大法廷は、民法750条及び戸籍法74条1号は、家族生活における個人の尊厳と両性の本質的平等を定めた憲法24条に違反しないと判断し、婚姻届に「夫は夫の氏、妻は妻の氏を称する」旨を記載した婚姻の届出を不受理とされた事実婚の夫婦の不服申立てを退けた。
 民法750条は、夫婦は婚姻の際、夫又は妻の氏を称するとして、夫婦同氏を規定しており、同規定を受けて戸籍法74条1号は、婚姻する夫婦は、届出に夫婦が称する氏を届け出なければならないと規定し、結論として、夫婦が同氏であることを法律婚の形式的要件とし、夫婦が別氏のまま法律婚を行うことを認めていない(婚姻時の夫婦同氏の強制)。

2 氏名は、個人にとって、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する1。
 しかし、婚姻の際、夫婦同氏を強制する現行法のもとでは、婚姻する二人のうちどちらか一人は、望まない場合でも自らの氏すなわち人格権を放棄することを余儀なくされ、いずれもがどうしても氏の放棄を受け容れられないという場合、本来なら両当事者の自由で平等な合意、意思決定によってのみ成立すべき婚姻をあきらめざるを得ないとの事態も生じさせる。
 また、婚姻の際、女性が氏を変更する夫婦の割合は約96%にのぼっており、女性側に氏を放棄することによる有形・無形の負担が集中し、事実上、性別による不平等が生じていることは明白である。
 このように、民法750条は、個人の尊厳(憲法13条及び24条2項)、婚姻の自由(憲法24条1項及び13条)、平等権(憲法14条1項及び24条2項)、並びに女性差別撤廃条約16条1項(b)が保障する「自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利」及び同項(g)が保障する「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)」を侵害するものである。

3 この点、最高裁判所が、あらためて氏名の個人における意味や権利性について十分な議論を尽くさないまま、2015年(平成27年)の大法廷判決の判断枠組みを支持し、夫婦の氏についての制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならないとして、国会に広範な立法裁量を認め合憲との結論を導いたことは、長年にわたる立法不作為を追認するもので極めて不当であり、憲法の番人としての司法の責任を放棄したとの批判は免れない。
 一方で今般、最高裁判所が「夫婦の氏についてどのような制度を採るのが立法政策として相当かという問題と、夫婦同氏制を定める現行法の規定が憲法24条に違反して無効であるか否か」の問題は「次元を異にする」とし、国民の意識の変化や社会の変化について、立法機関である国会が不断に目を配り、国会においてこれら変化を踏まえた真摯な議論がされるよう促したこと、また、4名の裁判官が、個人の氏名の権利性、婚姻の自由、社会情勢の変化に正面から向き合い、違憲との意見を表明し、国会での議論が長期にわたり放置され続けた現状を指摘して関連規定のすみやかな改正を強く求めた点は評価したい。

4 1991年(平成3年)以降、法制審議会民法部会において、婚姻制度の見 直し審議が行われ、1996年(平成8年)2月、法制審議会が「民法の一部 を改正する法律案要綱」を答申し、同要綱において選択的夫婦別氏制度の導入 が提言されてからすでに四半世紀が経過するが、国会において選択的夫婦別 氏制度の議論は遅々として進まず、それどころか、2020年(令和2年)1 2月25日に閣議決定された第5次男女共同参画基本計画では、第4次基本 計画まであった「選択的夫婦別氏」の文言が削除され、さらなる議論の後退が 懸念されている。
 この点、婚姻により氏を改める者が受ける不利益は、民法750条を改正せ ずとも婚姻前の氏を通称使用できる範囲を拡大することで、一定程度緩和され るとする意見がある。しかし、通称使用の拡大は、あくまで任意の便宜的な措 置であって、民法750条が個人の尊厳と平等権を侵害しているという本質的 な問題の解決策にはならない。

5 現在、夫婦同氏を法律で義務付けている国は世界的にみて日本だけであり、国連女性差別撤廃委員会から、同氏を強制する日本の規定を改正するよう2003年(平成15年)に最初の指摘を受け、2015年(平成27年)の大法廷判決後の2016年(平成28年)にも三度目の勧告を受けているにもかかわらず、日本は長年にわたって真摯にこの問題に向き合わず放置している。このような日本の現状はグローバル・スタンダードから大きく遅れをとっており、世界経済フォーラムが2021年(令和3年)3月に公表した「ジェンダー・ギャップ指数2021」2においても、日本の総合スコアは0.656、順位は156か国中120位であり、日本における男女平等、ジェンダー平等実現への道のりは極めて厳しい状況にある。

 6 以上の諸状況を踏まえ、政府と国会は、改めて、今回の最高裁決定を重く受け止め、現実に不利益を受けている人々や、国民の意識の変化に真摯に向き合い、すみやかに選択的夫婦別氏制度を導入すべきである。

以上

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1 最高裁昭和63年2月16日判決(民集第42巻2号27頁)。
2 世界経済フォーラムが定期的に調査をおこなっている各国における男女格差を測る指数のことで、この指数は、「経済」「政治」「教育」「医療」の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等と評価される。日本は経済分野が117位、政治分野は147位である。

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