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改正少年法の適正な運用を求める会長声明


2021年(令和3年)7月21日
兵庫県弁護士会
会 長  津 久 井 進

 

 第1 声明の趣旨

  1. 家庭裁判所は、検察官に事件を送致するか否かを判断するにあたっては、充実した調査及び審理の上、犯情の軽重及び要保護性を十分に考慮した運用をするべきである。
  2. 家庭裁判所は、改正少年法64条1項の適用においては、同項があくまで保護処分の上限を画するものであることを前提に、少年の要保護性をも十分に考慮した上で、適切な処分を選択するべきである。
  3. 報道機関は、起訴後に特定少年の事件を報道する際には、特定少年の健全育成及び更生の妨げにならないよう十分に配慮するべきである。
  4. 政府は、従来ぐ犯として保護処分の対象とされてきた18歳及び19歳の者に対する更生保護事業や福祉的支援を強化・充実させ、迅速に支援策を講じるべきである。
  5. 政府は、改正少年法の適用による特定少年及び社会への影響について、今後、継続して十分な調査を行い、何らかの具体的な課題が見いだされた場合には、施行5年後の検討(改正少年法附則第8条)において、躊躇なく見直しを行うべきである。

 第2 声明の理由

 1 はじめに
 本年5月21日、「少年法等の一部を改正する法律」(以下、「改正少年法」という。)が成立し、令和4年4月1日に施行されることとなった。
 改正少年法は、18歳及び19歳の者についても、未だ成長発達途上にあって可塑 性を有する存在であり、適切な教育や処遇による更生が期待できることから、従来ど おり同法を適用し、全件家裁送致を行って、成育歴・養育環境等を詳細に調査した上 で処分を決定するとの枠組みを維持した。
 その一方で、改正少年法では、18歳及び19歳の者が「特定少年」と位置付けら れ、18歳未満の少年とは異なる取り扱いがなされることとなった。具体的には@い わゆる「原則逆送事件」の対象拡大(改正少年法62条2項)A保護処分の決定にあ たっての犯情の重視(改正少年法64条1項)、B推知報道禁止の一部解除(改正少年 法68条)、Cぐ犯の適用対象からの除外(改正少年法65条1項)等が定められてい る。これらの特定少年に関する別異の取り扱いは、少年の健全育成という少年法の理 念を大きく後退させるものである。
 そこで、当会としては改正少年法の施行にあたり、法案審議の答弁及び附帯決議の 内容を十分に尊重し、少年法の理念を維持するともに、改正の弊害が生じないよう、 以下に述べるように慎重な運用及び適切な見直しを求める。

 2 「原則逆送事件」の範囲拡大(改正少年法62条2項)について
 改正少年法は、いわゆる「原則逆送事件」の対象範囲を、短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪にまで拡大した。これにより、強盗罪や放火罪等の犯罪も原則逆送の対象となるが、これらの犯罪は犯行の経緯、動機、態様、結果等の犯情の幅が極めて広い。このため、罪名のみを基準として一律に検察官に送致すると、逆送後に起訴猶予となり何らの教育効果も得られない場合すらあり得る。
 よって、家庭裁判所が検察官に事件を送致するか否かを判断するにあたっては、充実した調査及び審理の上、犯情の軽重及び要保護性を十分に考慮して行うよう、運用されなければならない。原則逆送対象事件においては、従来、このような運用が必ずしも行われてこなかったのが実情であるが、このような運用の必要性は、国会での法案審議における答弁及び参議院法務委員会附帯決議でも指摘されているのであるから、この度の改正を契機として、このような運用が徹底されなければならない。

 3 保護処分の決定にあたっての犯情の重視(改正少年法64条1項)について
 改正少年法においては、保護処分は犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において決定しなければならないとされた(改正少年法64条1項)。特定少年についても健全育成及び更生という少年法の目的は等しく妥当する以上、その保護処分は犯情のみならず要保護性をも十分に考慮してなされるべきである。このため、当該規定が犯情の軽重によって保護処分の上限を画することとした点は不当である。家庭裁判所においては、当該規定はあくまで保護処分の上限を画するものであることを前提に、その範囲内では十分に少年の要保護性をも考慮して、適切な処分を選択することを求める。

 4 推知報道禁止の適用除外(改正少年法68条)について
 改正少年法は、特定少年のときに犯した罪について公訴を提起された場合には、同法61条に規定する「氏名、年齢、職業、住所、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真」の掲載の禁止(以下、「推知報道の禁止」という)が適用されないものとしている。
 今日においては、インターネット等で誰もが情報を発信し、全世界に拡散することができる。そして、ひとたびインターネット上に拡散された情報は半永久的に検索可能な状態が続くことになる。このため、実名や写真の報道がされた場合には、少年の社会復帰や更生が決定的に妨げられることになりかねない。
 なお、改正少年法の成立後間もなく、週刊誌に、東京都立川市において本年6月1日に発生した死傷事件について、被疑者である19歳の少年の実名及び顔写真が掲載された。当然ながら、改正少年法はまだ施行されていない上、そもそも被疑者である当該少年はまだ公訴提起がなされていないため、改正少年法のもとでも当該報道は許されるものではない。
 当会は、東京都立川市の事件の実名等の報道に対して、厳重に抗議するとともに、今回の改正が特定少年について推知報道を一部容認したことをもって、特定少年については成人と同様の報道が許されるかのような誤った受け止め方をされることがないよう求める。衆参両院の法務委員会においては、推知報道については、改正少年法施行後も少年の健全育成及び更生の妨げにならないよう十分に配慮されなければならない旨の附帯決議がなされている。報道機関は、これらの附帯決議の趣旨を尊重し、今後も少年事件の報道にあたっては、その内容を慎重に検討すべきである。

 5 ぐ犯の適用対象からの除外(改正少年法65条1項)について
 改正少年法は、特定少年のぐ犯を、手続の対象には含めていない。
 しかし、ぐ犯少年は、補導歴や問題行動歴があり、要保護性の高い場合が多い。また、女子の比率が高いため、性犯罪や売春等に巻き込まれる危険も高い。このため、ぐ犯少年こそ、保護処分に付して改善更生の機会を与える必要が高く、保護処分がセーフティーネットとして機能している側面がある。
 特定少年についても、ぐ犯の場合にこれらの保護処分の必要性は変わらない。それどころか、児童福祉法上の一時保護や施設入所措置の対象とならない年齢であることから、17歳以下の少年に比して、少年法上の保護処分の必要性が高いとすらいえる。にもかかわらず、特定少年がぐ犯の対象から除外されたことにより、保護や支援の対象から漏れることとなりかねない。
 衆参両院の法務委員会の附帯決議においても、従来ぐ犯として保護処分の対象とされた18歳及び19歳の者について、「健全育成及び非行防止のために、早期の段階における働き掛けが有効である」とされているのであるから、これらの者に対する更生保護事業や福祉的支援を強化・充実させ、迅速に支援策を講じるべきである。

 6 結語
 以上のとおり、改正少年法には、様々な課題があると考えられる。当会は、政府、裁判所及び報道機関に対し、改正少年法の運用にあたり、各項で述べた通りの対応を行い、少年の健全育成及び更生という少年法の理念を損ねることがないよう、強く求める。
 加えて、改正少年法の適用による特定少年及び社会への影響については、今後、継続して十分な調査を行い、何らかの具体的な課題が見いだされた場合には、施行5年後の検討(改正少年法附則第8条)において、躊躇なく見直しを行うよう、政府に対して要請する。

以上

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