神戸新聞2018年8月1日掲載
執筆者:菱田 昌義弁護士
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マンションを借りて住んでいた父が先日、亡くなりました。相続人の私が、 そこを借りて住もうと思いましたが、賃貸人から「相続を認めない旨の特約がある」と拒否されました。私は住めないのでしょうか?
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相続人は相続放棄をしない限り、被相続人(亡くなった方)の全ての権利義務を引き継ぎます(民法896条)。借り主は貸主と賃貸借契約を結んでおり、借りている不動産を使用し収益を得る権利である「賃借権」を持っています。この賃借権は権利ですから、借り主が亡くなった場合、借り主の相続人が引き継ぐことになります。
それでは、賃貸借契約書に「相続を認めない」との特約がある場合はどうなのでしょうか。賃貸借契約は多くの場合、借り主を保護する借地借家法という法律の適用を受けます。相続を認めないという特約は借り主に不利なものですので、この借地借家法の規定によって無効になると考えられます。従って、相談の事例にある「相続を認めない特約」は無効になりますので、相続人は賃貸借契約を引き継ぐことができます。
なお、相談の事例とは異なり、不動産を無償で借りている場合(使用貸借契約) ですが、この契約は借り主の死亡で消滅します(民法599条)。ですからこの場合には、相続人は使用貸借契約を引き継ぐことはできません。
ところで、貸主の側からすると、賃貸借契約が相続人に引き継がれるのですから、高齢者に住宅を貸すことに消極的になるかもしれません。そこで、借り主が亡くなった際に契約が終了する「終身建物賃貸借契約」制度があります(高齢者の居住の安定確保に関する法律)。この契約をした場合、契約は借り主が亡くなった時に終了するので、相続人は引き継ぐことができません。なお、同契約を結ぶには、貸主が都道府県知事の認可を得ているなどの条件があります。
被相続人が不動産を借りていたといっても、①賃貸借契約②使用貸借契約③終身建物賃貸借契約-などのケースが考えられます。被相続人が交わしていた契約内容を契約書などで確認し、見つからなければ貸主に相談するといいでしょう。