来年4月1日に迫る民法の成年年齢引下げに伴う若年消費者被害の拡大防止に向けた
実効性ある施策を直ちに実現することを求める会長声明
2021年(令和3年)7月21日
兵庫県弁護士会
会 長 津 久 井 進
第1 声明の趣旨
民法の成年年齢引き下げに伴う若年消費者被害の拡大防止に向けた実効性ある施策を直ちに実現するべきである。
第2 声明の理由
民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げる「民法の一部を改正する法律」(平成30年法律第59号)の施行日である2022年(令和4年)4月1日まで、既に残り1年を切っている。
民法の成年年齢引下げについての2009年(平成21年)10月の法制審議会の意見1は、成年年齢の18歳への引下げを適当としつつも、その前提条件として、@若年者の自立を促すような施策や消費者被害の拡大のおそれを解決する施策が実現されること、A施策の効果が十分に発揮されること、B施策の効果が国民の意識として現れることを掲げていた。
また、本法律の成立に際し、参議院法務委員会において全会一致で附帯決議2がなされ、そこでは、本法律の施行にあたり、@若年者の消費者被害の拡大防止のために、知識、経験、判断力の不足など消費者が合理的な判断をすることができない事情を不当に利用して勧誘し契約を締結させた場合における消費者の取消権(いわゆるつけ込み型不当勧誘取消権)を創設すること(法成立後2年以内)、A若年者の消費者被害を防止し救済を図るために必要な法整備を行うこと(法成立後2年以内)、Bマルチ商法等への対策について検討し、必要な措置を講ずること、C質量共に充実させた消費者教育を実施すること、D18歳、19歳の若年者への周知徹底や社会的周知のための国民キャンペーン実施を検討することなどの施策について格別の配慮が求められた。
しかし、本法律が成立した2018年(平成30年)6月以降、若年者の消費者被害やその防止をめぐる状況は大きくは変わっておらず、成年年齢の引下げが1年を切った現時点においても、上記附帯決議が求める施策が十分に実施されているとは到底言い難い。
特に、18歳、19歳の若年者が未成年者取消権を喪失することによる消費者被害拡大に対応する施策は急務であるが、極めて不十分である。2018年(平成30年)に消費者契約法が一部改正されたが、上記附帯決議が求めるつけ込み型不当勧誘の取消権の創設は、参議院法務委員会の附帯決議で明記された2年以内という期限をすでに1年以上徒過しているにもかかわらず、その目途も立っていない。
また、消費者教育についても、「アクションプログラム」や「成年年齢引下げに伴う消費者教育全力キャンペーン」が実施されているものの3、消費者被害の予防に繋がる実践的な消費者教育が十分に行われているとは言えず、さらに成年年齢引下げ自体の周知はされても、未成年者取消権を18歳で失うことによる消費者被害拡大のおそれについての周知徹底も十分になされていない。
当会は、2018年(平成30年)3月13日に「若年者の消費者被害対策を欠いた民法の成年年齢引下げに反対する会長声明」4を、2015年(平成27年)7月27日に「民法上の成年年齢を18歳に引下げることについて慎重な検討を求める会長声明」5を公表し、仮に民法の成年年齢を引き下げるのであれば、これまで未成年者取消権が果たしてきた消費者保護機能を代替する新たな若年者の消費者被害対策を先に行うことにより、若年者への消費者被害拡大を防止し、若年者が安心して社会に出られるようにする環境整備が不可欠であることを指摘してきたところであるが、上記状況を踏まえ、1年を切った成年年齢の引き下げを前に、政府に対し、上記附帯決議に示されたような成年年齢引下げに伴う若年消費者被害の拡大防止に向けた実効性ある施策を直ちに実現するよう強く求める。
以上
1 法制審議会平成21年10月28日「民法の成年年齢の引下げについての意見」
http://www.moj.go.jp/content/000069850.pdf
2 民法の一部を改正する法律案に対する附帯決議
https://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/196/f065_061201.pdf
3 消費者庁ホームページ
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/consumer_education/basic_policy/#m04
4 http://www.hyogoben.or.jp/topics/iken/pdf/150727seimei.pdf
5 http://www.hyogoben.or.jp/topics/iken/pdf/180313seimei.pdf