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「重要土地等調査規制法案」の廃案を求める会長声明


2021年(令和3年)6月8日
兵庫県弁護士会
会 長  津 久 井 進

 

 第1 声明の趣旨

 重要土地等調査規制法案は、立法事実が十分でなく、政府によって「重要施設」及び「注視区域」に指定される県内の広範な地域の住民や施設利用者・関係者等に対する無限定な監視につながりかねず、基本的人権を侵害するおそれが極めて大きいことから、今国会での廃案を求める。


 第2 声明の理由

1 政府は、「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び規制等に関する法律案」(以下、「本法案」という。)の今国会での成立を目指す構えであり、既に2021年6月1日に衆議院本会議で可決され、今後、参議院で審議が進められるところである。
 当会は、わが国の安全保障のため、基地や国境離島の機能を確保するための立法の必要性そのものについて一切否定するところではなく、また、安全保障のあり方に関して政治的意見を述べるものではない。
 しかし、本法案は、以下に述べるとおり、必要な限度を超えて、一人ひとりの市民に対する無限定な監視につながりかねない内容を含み、基本的人権を侵害するおそれが極めて高い。当会は、弁護士の使命である基本的人権の擁護と法律制度の改善を図るため(弁護士法1条)、本声明を発出するものである。

2 本法案は、「重要施設」や「国境離島等」の機能を阻害する行為を防止する目的で、内閣総理大臣がこれらの存する地域で「注視区域」や「特別注視区域」を指定し、区域内の土地や建物(土地等)の利用状況を調査し、重要施設等の機能を阻害するおそれがあると認めたときには、その利用者に対して利用中止等の勧告や命令をし、土地等の買取りを可能とするものである。
 しかし、本法案の「重要施設」や「国境離島等」の機能を阻害する行為を防止するという立法目的があまりに広範かつ曖昧である。また、本法案は、自衛隊基地周辺の外国資本による土地取得の規制を目的としたものではあるが、これまで「重要施設」の周囲の土地取得などで自衛隊の運用等が阻害された事実がないというのが政府の公式見解であり(2021年(令和3年)5月21日衆院内閣委員会)、そもそも立法事実に疑義が生じている。

3 本法案は、2条2項で、対象となる「重要施設」を定義しているところ、自衛隊や米軍基地の施設(1号)、海上保安庁の施設(2号)は明確性を満たしているが、3号の「国民生活に関連を有する施設であって、その機能を阻害する行為が行われた場合に国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずるおそれがあると認められるもので政令で定めるもの」との定めは、対象となる施設を広汎かつ無限定に政令指定を可能とするものである。例えば、「重要施設」は、原発などの発電所はもとより、情報通信施設、金融、航空、鉄道、ガス、医療、水道など、ありとあらゆる重要インフラ施設は何でも指定しうる。また、「国境離島等」は離島そのものを対象としうる(2条3項)。
 そして、このような広汎な「重要施設」の「敷地の周囲おおむね千メートルの区域内」に「注視区域」が指定されると規定されているところ(5条1項)、「注視区域」にあっては、「土地等の利用者その他の関係者・・・の氏名又は名称、住所その他政令で定めるものの提供を求めることができ」る(7条1項)と規定されており、内閣総理大臣は、「注視区域」内に居住する者、「注視区域」内の施設の利用者や関係者の名簿等を、対象者の同意なく、収集しうることとなる。例えば、集合住宅の賃貸人、公民館を利用する市民集会の主催者や参加者にまで調査が及びうる。
 さらに、内閣総理大臣に対する情報提供義務は、関係行政機関や地方公共団体だけではなく、当該土地・施設の利用者や関係者自身にも及ぶ。そして、自らの利用関係に関する調査であっても刑事罰をもって報告が強制される(27条・8条)。すなわち、本法案は、「注視区域」内の不動産の所有者に対する財産権や居住移転の自由の制約となりうるだけでなく、例えば「注視区域」内の公民館等で開催される市民の集会等において、主催者(団体)に加え、集会の参加者や利用者と交流のある者も、それぞれ「利用者」・「関係者」として調査対象となる。したがって、市民のプライバシー権や思想・良心の自由、表現の自由、取材の自由等の重要な多くの基本的人権が侵害されるおそれが極めて高い。
 加えて、立法目的とされる「重要施設」や「国境離島等」の機能を阻害する行為が特定されていないため、内閣総理大臣が「機能を阻害する行為に供する明らかなおそれ」があると判断した場合、勧告した上で「注視区域」内の利用者に対し、罰則をもって必要な措置を命じることも規定されており(25条・9条2項)、「注視区域」における市民生活や市民活動に対し、重大な影響を及ぼすおそれがある。

4 兵庫県下には、陸上自衛隊中部方面総監部のある伊丹駐屯地(伊丹市)をはじめ、千僧駐屯地(伊丹市)、姫路駐屯地(姫路市)、青野原駐屯地(小野市)、川西駐屯地(川西市)などの陸上自衛隊の施設、及び、神戸市にある阪神基地隊の海上自衛隊の施設が存在する。本法案が成立した場合には、市民が知らないうちに、これらの自衛隊施設に加え、政令で指定される「国民生活関連施設」(2条2項3号)各施設の周囲1キロ以内の地域の住民のみならず、同地域における市民の活動も政府の監視下に置かれる懸念を禁じ得ない。
 当会は、基本的人権の尊重を重視する観点から、本法案については基本的人権を侵害するおそれがあることを指摘するものであるが、その重要性から十分な国民的議論を経る必要があると考え、今国会においては廃案とすることを求める次第である。

以上

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