トピックス

HOME > 公営住宅等における家具等の転倒防止措置の普及を求める会長声明
消費者問題判例検索
弁護士と司法書士の違い
弁護士の職務と行政書士の職務の違い
ヒマリオンの部屋
こんなときはこちら
アクセス連絡先はこちら

トピックス

公営住宅等における家具等の転倒防止措置の普及を求める会長声明


2021年(令和3年)4月28日
兵庫県弁護士会
会 長  津 久 井 進

 

1 阪神・淡路大震災では、犠牲者の死亡原因の8割以上が建物・家具等の下敷き等による圧死で1、負傷者の約半数が家具の転倒落下が原因でした2。地震が起きたときに、自らの命や身体を守り、確実に避難できるようにするために、効果的な家具の転倒防止措置をとることは、防災・減災対策の基本です。

 

2 家具の転倒防止措置には様々な方法がありますが、金具等で壁に固定する方法が最も効果があるとされています3。ところが、公営住宅や賃貸住宅では、壁にネジ穴等をあけることからこの方法を避けることが多いようです。
 これは、国土交通省住宅局の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(以下「国交省ガイドライン」といいます)が、壁等のネジ穴等を「賃借人の使い方次第で発生したりしなかったりするもの(明らかに通常の使用による結果とはいえないもの)」に分類し、「地震等に対する家具転倒防止の措置については、予め、賃貸人の承諾、または、くぎやネジを使用しない方法等の検討が考えられる」と消極的な記載をしていることが一因になっていると思われます。家具転倒防止措置によるネジ穴が退去時の原状回復義務の対象となり得るとされているので、賃借人が躊躇を覚えるのも当然のことと考えられます。
 しかし、国交省ガイドラインでは、「エアコン(賃借人所有)設置による壁のビス穴、跡」については、「エアコンについても、テレビ等と同様一般的な生活をしていくうえで必需品となってきており、その設置によって生じたビス穴等は通常の損耗と考えられる」として、原状回復義務の対象から除外しています。
 現在、日本は地震活動期にあって、防災・減災は全国に共通する喫緊の重要課題です。家具転倒防止措置は市民レベルで行うべき最も基本的な日常的な防災・減災の取り組みです。したがって、家具転倒防止措置に伴うネジ穴等についても、エアコン等と同様、通常損耗として原状回復義務の対象から除外されるべきことをきちんと明記すべきです。

 

3 内閣府(防災担当)と国土交通省は、それぞれ令和3年3月31日付の通知4で、「公営住宅等において、事前に地方公共団体の許可を得た上で実施する金具等を用いた家具の転倒防止措置に係る原状回復義務を免除するという取組が実施されて」いるとした上で、東京都港区が公営住宅入居者向けに「家具転倒防止を目的に、ねじ止め器具で壁等に穴を空けた場合、原形に戻す必要はない」旨の周知を行っている取り組みを具体例として紹介し5、家具の転倒防止措置の普及をはじめとする防災・減災対策を推進するよう求めました。
 この通知は、効果的な防災・減災対策を呼び掛けるものと評価されるべきことはもちろんのこと、国交省ガイドラインの記載による消極的な影響を克服するため、公営住宅を管理する各自治体において、金具等で壁に固定する家具転倒防止措置にかかるネジ穴等について原状回復義務を免除すべきことを入居者に積極的に周知するよう求めたものとして、高く評価されるべきものと考えます。

 

4 兵庫県は、阪神・淡路大震災で家具転倒の危険が現実化した苦い経験を持っており、率先して防災・減災の取り組みを行う社会的使命を負っています。住民の生命保護を最優先する目的を掲げ、入居マニュアル等を見直し、金具等で壁に固定する方法による家具転倒防止措置を積極的に推進するなど、全国の範となる仕組みを構築することが強く期待されます。
 ところが、現在、兵庫県及び県内市町において、公営住宅における原状回復義務の免除について、退去時の個別判断としている自治体が少なくありません。実質的に免除する運用をしている自治体もありますが、それを積極的に広報・周知している自治体は見当たりません。

 

5 以上の状況を踏まえ、兵庫県内の自治体におかれましては、国の通知の趣旨に鑑みて、家具転倒防止措置のためのネジ穴等を原則として通常損耗にあたるとして原状回復義務の対象から除外する方針を明確にして下さい。そして、その方針を入居マニュアルに明記するなどして一人ひとりの公営住宅入居者に分かりやすく広報・周知し、効果的な家具転倒防止措置を積極的に推進して下さい。
 一方、国土交通省は、民間賃貸住宅の賃借人の方々が効果的な防災・減災対策に取り組めるように、速やかに国交省ガイドラインを改訂し、地震等に対する家具転倒防止措置によるネジ穴等について「賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるもの」に分類する表記改定をして下さい。

以上

PDFファイルはこちら→



1 「神戸市内における検視統計」(平成 7 年、兵庫県監察医)、「阪神・淡路大震災の経験に学ぶ」(平成14年、国土交通省近畿地方整備局)等
2 総務省消防庁のホームページ「約6割の部屋で家具が転倒、散乱した」 https://www.fdma.go.jp/publication/database/kagu/post9.html
3 内閣府(防災)の防災情報のページ「誰にでもすぐできる家具転倒防止対策」
http://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h25/72/bousaitaisaku.html
4 内閣府政策統括官(防災担当)付参事官の政令指定都市の防災担当課長及び国土交通省住宅局総合整備課宛の「賃貸住宅における家具の転倒防止措置の促進について(周知依頼)」と題する通知、及び、国土交通局住宅整備課から同日付で賃貸住宅関係団体宛に上記文書の周知を依頼した通知。
5 東京都港区は、平成29年4月26日、条例や規則を新たに制定することなく、区営住宅において、家具転倒防止のためにねじ穴を開けた場合に借主に原状回復を求めないことを「入居のしおり」に記載するなどして明らかにしていた。

ページのトップへ
兵庫県弁護士会