環境の小窓(52)~第66回人権擁護大会の報告~
2024年(令和6年)11月28日
執筆者 青木良和 弁護士
本年10月3日に日本弁護士連合会主催、第66回人権擁護大会(以下「人権大会」といいます)のシンポジウムが、同月4日に人権大会が愛知県名古屋市の名古屋国際会議場で開催され、私は、第三分科会の実行委員として、シンポジウム及び人権大会に参加してきました。
第三分科会のテーマは「人権保護としての再生可能エネルギー選択~地球環境の保全と地域社会の持続的発展を目指して~」でした。
近年、気候変動による被害はますます深刻化しています。また、気候変動の原因が人間活動にあることも明らかとなっています。気候変動の悪化を防ぐためには、早期にエネルギーを脱炭素に移行する必要があり、国際社会が「脱炭素」に向けて邁進しています。
エネルギーを脱炭素に移行するにあたって重要になるのが、再生可能エネルギーの拡大です。環境省が公表している「我が国の再生可能エネルギー導入ポテンシャル」によれば、日本の再生可能エネルギーには、現在の電力供給量の最大2倍という十分なポテンシャルが存在するとされています。また、近年では再生可能エネルギーによる発電コストは低下しており、さらに、再生可能エネルギーを拡大することにより、化石燃料の輸入費用を減少させることができ、エネルギー安全保障の強化にもつながります。
ここまでの話ですと、「それではどんどん再生可能エネルギーを拡大しよう!」ということになりそうです。しかしながら、現実には、ご承知のように日本の各地で、乱開発と言わざるを得ないような再生可能エネルギー発電事業が行われ、紛争が生じています。
再生可能エネルギーは、地域の自然条件を活用して発電を行うものなので、本来であればその地域の財産となるはずです。第三分科会では、気候危機による深刻な人権侵害を防ぎ、再生可能エネルギーの一層の推進を図ることを目的として、再生可能エネルギーが地域の持続的な発展に資するものとして各地域に受け入れられるために何ができるのかを、今回の人権大会に向けて調査・研究してきました。詳しくは、是非基調報告書をご覧ください。
今回のシンポジウムの内容について少しだけご紹介すると、第一部では江守正多さん(東京大学未来ビジョンセンター教授、IPCC第5次、第6次評価報告書主執筆者)に登壇していただき、気候変動に関する科学的知見の基本的な内容について解説していただきたました。私自身は、これまでも何度か江守さんにお話を伺ったことがあり、毎度のことながら、聞いても端的にわかりやすい内容でした。
第2部では、安田陽さん(ストラスクライド大学アカデミックセンター、九州大学客員教授、環境エネルギー政策研究所主任研究員)に再生可能エネルギーの拡大や再生可能エネルギーのポテンシャルについて解説していただき、東光弘さん(市民エネルギーちば株式会社代表取締役)、近藤恵さん(二本松営農ソーラー株式会社代表取締役)にはそれぞれ、ソーラーシェアリングの実例等について解説していただきたました。どれも大変興味深い内容でしたが、特にソーラーシェアリングの実例については、再生可能エネルギー拡大のための実際の道筋が示され、再生可能エネルギーに対するマイナスイメージが覆されるような内容であったと思います。また、最後にはホルヘ・フェルナンデスさん(バスク競争力研究所エネルギー分野上級研究員)にも登壇してもらい、パネルディスカッションを行いました。ホルヘさんからは、スペインのバスク地方における実例を紹介してもらいながら、再生可能エネルギー事業が地域社会に受け入れられるためにはどのようなプロセスが重要であるのか等についてもご紹介いただきました。 近いうちにシンポジウムのアーカイブが視聴できるようになる予定ですので、(少し長いですが)是非ご覧ください。
環境の小窓(51)~人と環境と動物の関係~
2024年(令和6年)10月31日
執筆者 細川敦史 弁護士
去る9月21日、環境法サマースクールの講師として、東京・霞が関の日弁連に行ってきました。
所管委員会である公害対策・環境保全委員会の関係者や講師を除き、会場参加者は10数名程度でしたが、オンラインでの参加者は50名程度いました。
さて、当日の講義は、環境法総論にはじまり、気候変動・脱炭素、原発問題、再生エネルギーなど環境問題の王道というべき内容が続いていました。その最後に、「動物愛護管理法の概要と課題」「動物虐待事件のためのどうぶつ弁護団について」という、環境問題とは一見関係ない動物のテーマが入っていました。その意味について、私なりに考えてみました。
近年、「ワンヘルス」あるいは「ワンウェルフェア」というキーワードで、人の健康、動物の健康、環境保全はつながっているとの理念が、厚生労働省、医師会や獣医師会などを中心に推進されています。
わかりやすい例で説明すると、自然環境を悪化させると、回りまわって人の健康に悪影響を及ぼす、動物を不健康にしたら、食べたときに健康を害する、ということだろうと思います。
弁護士・弁護士会は、言葉を話せない自然環境を守るために活動してきた歴史があります。自然環境は、その背後に地域住民の権利・利益を守るという側面はありますが、まだ生まれていない将来世代の人の生活環境を保全するとの意味合いもあるはずです。これと同様に、言葉を話せない動物を守るために弁護士・弁護士会が組織的に活動することに、特段の支障はないと考えられます。
現在、動物の問題について、シンポジウムを開催するなど弁護士会として取り組んでいるところは、私の観測範囲では、東京弁護士会をはじめ、当会(兵庫県弁護士会)、福岡県弁護士会、和歌山弁護士会、千葉県弁護士会、愛知県弁護士会と、そして日弁連があります。全国には52の単位弁護士会がありますので、ぜひ弁護士会・委員会内での取り組みに向けて、前向きに検討していただければと思います。
環境の小窓(50)~第15回環境法に関するサマースクール~
日弁連では、環境法系の法曹を志す全国の法科大学院生をはじめとする学生・受験生のみなさんの学びの場として、 また、環境法に携わる実務家の知識・経験の共有の場として、今年も環境法サマースクールを開催します。
【開催日時】
2024年9月21日(土)9時55分~18時(開場時間:9時40分)
【参加対象】
法科大学院生・卒業生、司法修習生、司法試験受験生、弁護士、
研究者、法学部生、自治体および企業の環境部門担当者等
【場所】
弁護士会館2階クレオBC及びZoomによるハイブリッド開催
※会場定員50名
※全てオンラインで開催する可能性や会場定員数を変更する可能性があります。
○弁護士会館住所:東京都千代田区霞が関1-1-3
【プログラム】
9:55~ 開会挨拶
◆講義①10:00~11:20
「初めて/改めて学ぶ 環境法総論」
北村 喜宣氏(上智大学法学部地球環境法学科教授)
◆講義②11:30~12:50
「企業のサステナビリティ」
川崎 弓乃氏(株式会社AESCジャパン経営企画部カーボンニュートラル企画室室長)
山下 朝陽氏(第二東京弁護士会、一般社団法人クライアントアース理事)
コーディネーター:増本 志帆氏(大阪弁護士会)
~休憩~ ※昼食は各自御用意ください。
◆講義③13:40~15:00
「原発を止めた裁判官として司法試験受験生や環境問題実務家に伝えたいこと」
樋口 英明氏(元裁判官)
◆講義④15:10~16:30
「地域における再エネ発電事業~PPA契約の実務上の課題」
千葉 恒久氏(東京弁護士会)
折笠 哲也氏(会津電力株式会社常務取締役)
◆講義⑤16:40~18:00
「動物愛護管理法の概要と課題~特に、動物虐待事件のためのどうぶつ弁護団について~」
細川 敦史氏(兵庫県弁護士会、NPO法人どうぶつ弁護団理事長、動物の法と政策研究会会長)
【申込方法】
以下のURLからお申し込みください。
https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/15kankyosummer/kankyosama
・事前申込制・参加費無料
・申込期限:9月17日(火)
※申込状況によっては、申込締切前に募集を打ち切る場合があります。
※Zoomによる参加方法は、開催日が近づきましたら、申込みされた方宛てにメールでご案内いたします。
【主催・お問い合わせ先】
主催:日本弁護士連合会
お問い合わせ先:日本弁護士連合会 人権第二課
TEL:03-3580-9910
【備考】
個人情報取り扱いについて
提供いただいた個人情報は、日本弁護士連合会の個人情報保護方針に従い厳重に管理し、本サマースクールの運営のために利用します。
また、この個人情報に基づき、日本弁護士連合会または日本弁護士連合会が委託した第三者から、シンポジウム等のイベントの開催案内、
書籍のご案内その他当連合会が有益であると判断する情報をご案内させていただくことがあるほか、個人情報は、統計的に処理・分析し、
その結果を個人が特定されないよう統計情報として公表することがあります。
日本弁護士連合会では、本サマースクールの内容を記録し、また、成果普及に利用するため、会場での写真・映像撮影および録音を行っております。
撮影した写真・映像および録音した内容は、日本弁護士連合会の会員向けの書籍のほか、日本弁護士連合会のウェブサイト、パンフレット、
一般向けの書籍等にも使用させていただくことがあります。撮影されたくない参加者の方は担当者に申し出てください。
報道機関による取材も予定されており、撮影された映像・画像はテレビ、新聞等の各種媒体において利用されることがあります。
撮影されたくない参加者の方は担当者に申し出てください。
環境の小窓(49)~静岡県のブリーダー施設訪問~
2023年(令和5年)9月21日
執筆者 與語信也 弁護士
現在、当会公害対策・環境保全委員会が取り組んでいる動物愛護問題に関連し、現地調査のため静岡県浜松市の犬の繁殖業者(ブリーダー)の施設を訪問しましたので、その報告をします。
動物愛護の問題は、動物虐待、多頭飼育崩壊など多岐に渡りますが、ペットの流通も重要なテーマの一つです。
犬や猫などのペットを飼いたいと思った場合、最初に足を運ぶのは街中にあるいわゆるペットショップという人も多いのではないでしょうか。例えば、犬の場合、もちろん全てではないですが、ペットショップで販売されている犬の中には、劣悪な環境(室温湿度の調整や糞尿処理がなされていない狭いケージに複数頭を入れっぱなしにする等々)に置かれ、短期間に多数回の強制的繁殖により、物同然に大量生産され、業者の利益のための商品として販売されている個体も多くいます。動物福祉の視点に限らず、命を取り扱うという意味において、倫理的に極めて大きな問題です。この問題点についての詳細は、来る9月23日、女優の浅田美代子さんをお招きして開催する市民シンポジウム「ペットの流通問題を考える」で取り上げますので、ご興味のある方はぜひご参加下さい
(https://www.hyogoben.or.jp/news/topics/15717/)。
今回、私達は、静岡県浜松市の郊外の広い敷地で、ジャックラッセルテリア一犬種のみのブリーディングを行っているクランバーアップケンネルの露木氏、見市氏を訪問し、お話を伺い、施設見学もさせて頂きました。
まず驚いたのは、建物に入っても、鳴き声やにおいがほとんどしなかったことです。あれだけの犬が敷地内にいるのに不思議に感じましたが、露木氏がおっしゃるには、しっかり運動ができのびのび生活していると、犬は不必要に吠えることはないとのことでした。
露木氏らによると、ブリーディングにまず必要なのは、十分な敷地、ファシリティであり、犬が土を踏める環境が最重要であるとのことでした。十分に訓練を受けた犬でも、ケージに入っている時間は8時間が限度だろうとのことでした。同施設にいる犬は、2歳までは繁殖させず、5歳で引退、生涯の繁殖は2回までで、繁殖が終わった後は成犬として譲渡しているとのことで、子犬・成犬双方とも、購入希望があってもその飼い主の家族構成、住んでいる場所や家の広さ、動物を飼うことの経験や考え方等を聞いた上で、最終的に販売を断ることも多いそうです。平均的には、家に迎えるまでに6か月以上は待ってもらっているとのことでした。
広い敷地で、少数の個体しか販売しないやり方で経営的には成り立つのかお聞きしたところ、郊外で24時間体制の仕事であるため人材確保が大変で、当然簡単ではないことを前提に、一犬種のみにしていることで、その犬種への専門性を持つことができ、また販売後のケア(トリミングや餌の販売)などで長く飼い主と関係を継続することになるので、それが経営の安定化につながるなど、一犬種に絞っているが故の強みがあるとのことで、大量生産などをしなくても、創意工夫で成り立つとお話しされました。
また、同氏らが、販売・繁殖を含む悪質業者について述べていたのは、そもそもブリーディングに関する知識の低さ、利益に走り命を扱うことへのモラルの低さの問題です。また、日本の政策面も、不幸な動物を保護する施策・立法だけではなく、その上段の、動物の適切な供給という面をもっと充実させなければ、いつまでも変わらないとのことでした。
そして、飼い主に対しては、日本人はペットを飼い始めたらその可愛がり様や熱の入れ様は世界トップレベルだと思うが、繁殖・流通経路についての意識が非常に低いと指摘し、悪質繁殖業者をなくすためにも、ペットを選ぶ際には、繁殖・流通経路についても一緒に選んでいるのだという気持ちを持ってほしいとも述べておられました。
お話を伺って、命を提供する仕事への責任感と矜持、高い倫理観を求められる仕事だと感じました。また、動物に限らず、私達の日々の購買活動において、これがどのように生産されているのか、その流通経路に強い意識を向けることは、ますます重要性を増していると感じました。
環境の小窓(48)~第14回環境法に関するサマースクール~
日弁連では、環境法系の法曹を志す全国の法科大学院生をはじめとする学生・受験生のみなさんの学びの場として、また、環境法に携わる実務家の知識・経験の共有の場として、今年も環境法サマースクールを開催します。
【開催日時】
2023年7月29日(土) 10時55分~16時30分(開場時間:10時40分)
2023年8月19日(土) 10時55分~16時30分(開場時間:10時40分)
※いずれか一方の日程のみの参加も可能です。
【参加対象】
法科大学院生・卒業生、司法修習生、法学部生、司法試験受験生、弁護士、研究者、自治体および企業の環境部門担当者等
【場所】
7月29日(土):弁護士会館17階1701会議室及びZoomによるハイブリッド開催
8月19日(土):弁護士会館2階クレオBC及びZoomによるハイブリッド開催
※会場定員は各回50名
※感染状況によっては、会場参加を中止し全てオンラインで開催する可能性や会場定員数を変更する可能性があります。
○弁護士会館住所:東京都千代田区霞が関1-1-3
【プログラム】
<7月29日(土)>
10:55~ 開会挨拶
◆講義①11:00~12:30
気候変動対策としてのカーボン・クレジット取引の課題と展望
宮川 賢司氏(第二東京弁護士会)
~休憩~ ※昼食は各自御用意ください。
◆講義②13:15~14:45
日本の環境アセスメントの課題と解決策 -神宮外苑再開発計画アセスを事例に-(仮称)
原科 幸彦氏(千葉商科大学学長、東京工業大学名誉教授、国際影響評価学会(IAIA)元会長)
◆講義③15:00~16:30
メガソーラーや大規模風力発電施設による自然環境・生活環境破壊をどう解決するか
室谷 悠子氏(大阪弁護士会、一般財団法人日本熊森協会会長、全国再エネ問題連絡会共同代表)
<8/19(土)>
10:55~ 開会挨拶
◆講義①11:00~12:30
太陽光発電と自治体法務
北村 喜宣氏(上智大学法学部地球環境法学科教授)
~休憩~ ※昼食は各自御用意ください。
◆講義②13:15~14:45
鬼怒川水害訴訟・第1審判決 -最高裁判例分析の重要性-
鈴木 裕也氏(茨城県弁護士会、鬼怒川水害訴訟弁護団)
◆講義③15:00~16:30
環境法を扱う法律家のキャリア形成
一原 雅子氏(日本学術振興会特別研究員、総合地球環境学研究所京都気候変動適応センター外来研究員)
森田 浩輔氏(京都弁護士会)
嶋田 亜由美氏(オーストラリア・ニューサウスウェールズ州弁護士)
コーディネーター:中島 万里氏(愛知県弁護士会)
【申込方法】
以下のURLからお申し込みください。
https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/14smmrsch/summer/
・事前申込制・参加費無料
・申込期限:8月13日(日)(ただし、7月24日から7月29日までの期間は申込ができません。)
※申込状況によっては、申込締切前に募集を打ち切る場合があります。
※Zoomによる参加方法は、開催日が近づきましたら、申込みされた方宛てにメールでご案内いたします。
【主催・お問い合わせ先】
主催:日本弁護士連合会
お問い合わせ先:日本弁護士連合会 人権第二課
TEL:03-3580-9508
【備考】
個人情報取り扱いについて
提供いただいた個人情報は、日本弁護士連合会の個人情報保護方針に従い厳重に管理し、本サマースクールの運営のために利用します。
また、この個人情報に基づき、日本弁護士連合会または日本弁護士連合会が委託した第三者から、シンポジウム等のイベントの開催案内、書籍のご案内その他当連合会が有益であると判断する情報をご案内させていただくことがあるほか、個人情報は、統計的に処理・分析し、その結果を個人が特定されないよう統計情報として公表することがあります。
日本弁護士連合会では、本サマースクールの内容を記録し、また、成果普及に利用するため、会場での写真・映像撮影および録音を行っております。
撮影した写真・映像および録音した内容は、日本弁護士連合会の会員向けの書籍のほか、日本弁護士連合会のウェブサイト、パンフレット、一般向けの書籍等にも使用させていただくことがあります。撮影されたくない参加者の方は担当者に申し出てください。
報道機関による取材も予定されており、撮影された映像・画像はテレビ、新聞等の各種媒体において利用されることがあります。撮影されたくない参加者の方は担当者に申し出てください。
環境の小窓(47)~「どうぶつ弁護団」について~
2023年(令和5年)3月15日
執筆者 森 崇志 弁護士
環境問題とは、と聞かれるとどのような問題をイメージされますか。地球温暖化問題や公害問題、海洋汚染問題など、スケールの大きな問題をイメージされるかもしれません。でも、環境問題は全てスケールの大きな話ばかりではなく、私たちの身近にもいろいろな環境問題があります。例えば、マンションでの騒音問題や、隣の家の太陽光パネルの反射光の問題など。
では、動物愛護の問題はどうでしょうか。動物、特に犬や猫は今や私たち人間の生活にとって身近な存在となっています。その動物に対する虐待を防ぎ、動物にとって健康で安全な環境を築くことは、人々が他者の存在を尊重し、命を大切にする社会(環境)を築くことの助けとなると考えられ、そのような点から動物愛護の問題も環境問題の一つと捉えられようになってきました。
今も昔も心無い一部の人が犬や猫への虐待を行い、最近ではその様子を撮影し、Youtubeなどに流したりしています。虐待された犬や猫は自分で被害を訴えることができません。虐待問題に対し、犬や猫に代わり、組織的・継続的に対策に取り組んでいく組織として「どうぶつ弁護団」が組織されました。
まだまだ始まったばかりの組織ですが、「人と動物の共生する社会」を目指して活動していますので、温かく見守っていただければと思います。
環境の小窓(46)~第13回環境法に関するサマースクール~
日弁連では、環境法系の法曹を志す法科大学院生をはじめとする学生・受験生のみなさんの学びの場として、また、環境法に携わる実務家の知識・経験の共有の場として、今年も環境法サマースクールを開催します。
法科大学院生・卒業生、弁護士、研究者、自治体・企業の環境部門の担当者など環境問題に興味がある方であれば、どなたでも参加することができます。参加費は無料です。
是非、環境法サマースクールにお気軽にご参加下さい。
【開催日時】
2022年7月30日(土) 10時55分~16時30分(開場時間:10時40分)
2022年8月20日(土) 10時55分~16時30分(開場時間:10時40分)
※いずれか一方の日程のみの参加も可能です。
【参加対象】
法科大学院生・卒業生、司法修習生、法学部生、司法試験受験生、
弁護士、研究者、自治体および企業の環境部門担当者等
【場所】
弁護士会館(東京都千代田区霞が関1-1-3)2階クレオBC(会場定員各回20名)
及びZoomによるハイブリッド開催
※感染状況によっては、会場参加を中止し全てオンラインにて開催する可能性がありますので、ご了承ください。
【プログラム】
<7月30日(土)>
10:55~ 開会挨拶
◆講義①11:00~12:30
資源循環 ~プラスチック新法をはじめとした近時の動向について~
筑紫 圭一氏(上智大学法学部地球環境法学科教授)
~休憩~ ※昼食は各自御用意ください。
◆講義②13:15~14:45
気候変動訴訟と法の支配‐海外の動向
牛嶋 仁氏(中央大学法学部教授)
◆講義③15:00~16:30
系統連系をめぐる法制度・運用の現状と課題
~再生可能エネルギーのさらなる普及に向けて
安田 陽氏(京都大学大学院経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座 特任教授)
<8/20(土)>
10:55~ 開会挨拶
◆講義①11:00~12:30
初学者のための環境法の学び方
北村 喜宣氏(上智大学法学部地球環境法学科教授)
~休憩~ ※昼食は各自御用意ください。
◆講義②13:15~14:45
公害・環境法において理論と実務はどのように協働してきたか
‐建設アスベスト訴訟と福島原発事故賠償訴訟を例に
吉村 良一氏(立命館大学名誉教授)
◆講義③15:00~16:30
公害紛争処理制度について(仮)
松川 春佳氏(公害等調整委員会事務局 審査官)
【申込方法】
以下のURLからお申し込みください。
https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/13smmrsch/summer/
・事前申込制・参加費無料
・申込期限:8月14日(日)(ただし、7月25日から7月30日までの期間は申込ができません。)
※申込状況によっては、申込締切前に募集を打ち切る場合があります。
※Zoomによる参加方法は、開催日が近づきましたら、申込みされた方宛てにメールでご案内いたします。
【主催・お問い合わせ先】
主催:日本弁護士連合会
お問い合わせ先:日本弁護士連合会 人権第二課 TEL:03-3580-9508
【備考】
個人情報取り扱いについて
ご提供いただいた個人情報は、日本弁護士連合会の個人情報保護方針に従い厳重に管理し、本サマースクールの運営のために利用します。また、同個人情報は、参加者の方またはその他の関係者が新型コロナウイルス感染症の陽性診断を受けたことが判明した場合の対応業務に利用します。この場合、必要に応じて保健所等の公的機関に対して収集した個人情報を提供し、感染拡大防止策を講じることがありますので、同意の上でお申し込みください。なお、この個人情報に基づき、日本弁護士連合会または日本弁護士連合会が委託した第三者から、シンポジウム等のイベントの開催案内、書籍のご案内その他当連合会が有益であると判断する情報をご案内させていただくことがあるほか、個人情報は、統計的に処理・分析し、その結果を個人が特定されないよう統計情報として公表することがあります。
日本弁護士連合会では、本サマースクールの内容を記録し、また、成果普及に利用するため、会場での写真・映像撮影および録音を行っております。撮影した写真・映像および録音した内容は、日本弁護士連合会の会員向けの書籍のほか、日本弁護士連合会のウェブサイト、パンフレット、一般向けの書籍等にも使用させていただくことがあります。撮影されたくない参加者の方は担当者に申し出てください。報道機関による取材も予定されており、撮影された映像・画像はテレビ、新聞等の各種媒体において利用されることがあります。撮影されたくない参加者の方は担当者に申し出てください。
環境の小窓(45)~神戸市灘区小水力発電所視察~
2022年(令和4年)5月27日
執筆者 與語信也 弁護士
現在、世界的に再生可能エネルギーの拡充が進んでおり、日本でも喫緊の課題であることは周知のとおりです。日本では、再エネは太陽光発電が主力になっていますが、山林を切り開くことによる土砂災害など、新たな環境問題も生じてさせています。
水力発電は、水の流れを利用して動力を得るというもので、仕組自体は水車など古くからあるもので、現代では、環境負荷の少ない原始的な再エネといえます。日本は水資源が多く、規模を問わず水力発電所は存在しますが、大規模なものを新設するには適地は少なく、発電所が都市部から離れると送電ロスが大きくなるというデメリットもあり、大幅な拡大には難しさもあります。
今回、兵弁公害対策環境保全委員会有志メンバーで視察したのは、阪急六甲駅から車で北へ10数分ほどの場所にある、街を流れる六甲川を利用した小規模水力発電施設です。主に太陽光発電施設の設置の推進等をしていたNPO法人PVネット兵庫グローバルサービスが、六甲川を利用した水力発電と里山管理を目的に設置を進め、2021年4月から発電を開始しています。
仕組みは簡単で、標高224m地点にある砂防ダム下にある滝壺から取水し、パイプを通して標高194mの場所に設置した発電機の水車を回して発電し再び六甲川に放流するという、落差約30メートル(有効落差27m)を利用したものです。
今回、視察メンバー全員で山中の道なき道を取水部の滝壺まで登り、また全員で道なき道を発電部まで下りました。事前に聞いていたよりずっと険しく、思いがけないアウトドア体験となりました。里山を利用したまき割りやキノコ栽培体験もでき、川もあるので、子連れでも楽しめそうでした。
発電量は、フル回転で30戸の年間使用料分ということで、決して大きくはありませんが、街中の河川を利用した簡易なものとしては、他の場所にもまだまだ設置余地があるのではないかと感じました。もちろん、仕組みは簡易でも、費用と人手で維持は決して簡単ではありませんし、実際の設置についても、山林の権利関係や騒音等の近隣問題がネックだということで、苦労話もお聞きできました。
電力の地産地消、分散型エネルギーは、災害時、非常時でもエネルギーを確保し生活を守ることができる、一つの重要な考え方です。都市部の小規模水力発電所は、その実践的な手法の一つと言えます。その意味で、今回視察した小水力発電はその可能性を感じるものでした。
環境の小窓(44)~脱炭素社会を目指して~
2021年(令和3年)8月2日
執筆者 森 崇志 弁護士
- 2021年4月、米国主催の気候変動問題に関する首脳会議(サミット)が開催され、その会議で菅首相は2030年度までに温室効果ガスを13年度比で46%削減するとの新たな目標を表明しました。46%の削減目標はこれまでの目標(26%削減)を大きく上回るものであり、COP25で化石賞を受賞した日本として温暖化対策を積極的に進めていく姿勢を示したものといえます。
- 2015年、パリで開かれた「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」にてパリ協定が合意され、長期目標として、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」ことが定められました。パリ協定には先進国だけでなく途上国も参加しており、気候変動が世界的な問題であり、かつ、生態系だけでなく日常生活にも甚大な影響を与えていることから、世界全体でこの問題に取り組んでいくことが重要であることを示しており、世界各国は共通の目標を設定し、協力しながら温室効果ガスの削減に向けて取り組んでいくことになりました。
- 日本は、当初中期目標として2030年度の温室効果ガスの排出を2013年度の水準から26%削減することを目標として設定していました。しかし、日本が設定した目標では上記パリ協定の長期目標を達成できず、目標の再設定が求められていました。その中で、新たに設定されたのが46%の削減目標となります。
46%の削減目標は当初の目標からすると大幅に増加していますが、他国と比べるとまだまだ削減目標が低いとも評価されており、46%の削減目標で喜ぶことは出来ません。また、46%の目標達成のためには温室効果ガスの削減が必要となり、再生可能エネルギーの比率向上や石炭火力発電からの脱却がポイントとなってくると思われます。第5次エネルギー基本計画では、依然温室効果ガスの排出量が多い石炭火力の割合が高くなっておりましたが、脱石炭火力が世界のトレンドとなり、日本の企業も石炭火力から撤退する報道もあるなかで、今年夏頃に新たに策定されるであろう第6次エネルギー基本計画においてどのような電源構成となるのか、再生可能エネルギーの割合はどの程度か、石炭火力の割合はどうなるのかが注視されています。
環境の小窓(43)~第12回環境法に関するサマースクール~
日弁連では、環境法系の法曹を志す法科大学院生をはじめとする学生・受験生のみなさんの学びの場として、また、環境法に携わる実務家の知識・経験の共有の場として、今年も環境法サマースクールを開催します。
法科大学院生・卒業生、弁護士、研究者、自治体・企業の環境部門の担当者など環境問題に興味がある方であれば、どなたでも参加することができます。参加費は無料です。
是非、環境法サマースクールにお気軽にご参加下さい。
【開催日時】
2021年8月21日(土)9:55~18:00
【参加対象】
法科大学院生・卒業生、司法修習生、法学部生、司法試験受験生、弁護士、研究者、自治体及び企業の環境部門担当者 ほか
【場 所】
弁護士会館17階1701会議室
住所:東京都千代田区霞が関1-1-3
※会場定員20名 ※ZOOMを利用したWEB中継がございます
【プログラム】
9:55~ 開会挨拶
◆講義① 10:00~11:20
環境影響評価法と太陽光発電事業
北村 喜宣氏(上智大学大学院法学研究科長)
◆講義② 11:30~12:50
石炭火力発電所計画を裁判で争う~環境アセスと行政訴訟・CO2排出と民事責任~
和田 重太弁護士・杉田 峻介弁護士(大阪弁護士会、神戸製鋼石炭火力訴訟弁護団)
◆講義③ 13:40~15:00
ストップ・リニア訴訟の提訴と訴訟の現状
関島 保雄弁護士(東京弁護士会、ストップ・リニア訴訟弁護団共同代表、第二次新横田基地公害訴訟弁護団長、公害弁護団連絡会議代表委員)
◆講義④ 15:10~16:30
生物多様性の最前線:愛知・名古屋のCOP10から振り返る
香坂 玲氏(名古屋大学大学院 環境学研究科教授(国際資源管理・環境政策論))
◆講義⑤ 16:40~18:00
動物愛護の最前線 人間優先の社会から動物との共生社会へ
講師:植田 勝博弁護士(大阪弁護士会、THEペット法塾 代表)
進行:中島 万里弁護士(愛知県弁護士会)
【申込方法】
参加費無料・事前申込制 申込締切:8月10日(火)
下記のURLからお申し込みください。
https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/12smmrschl/summer12/
※詳しい内容は、以下の日本弁護士連合会のホームページをご覧下さい。
「第12回環境法に関するサマースクール」
https://www.nichibenren.or.jp/event/year/2021/210821.html
環境の小窓(42)~レジ袋有料化について~
2020年(令和2年)8月1日
執筆者 引野力 弁護士
皆様もご存じのとおり7月1日からプラスチック製レジ袋が有料化されました。マイクロプラスチック等による環境汚染が世界中で問題となる中、遅ればせながら日本もようやく欧米と肩を並べることになりました。
しかし、どのような袋が有料になるのかについては意外と知らない方も多いのではないでしょうか。まず、一口にプラスチック製レジ袋といっても、厚いもの薄いもの、持ち手のある物、無いもの等々、色々なものがあります。その中で、今回有料となるのは厚さが50μm未満のプラスチック製レジ袋です。また、海の微生物により分解されるプラスチックやバイオマス素材で作られたレジ袋は対象外になります。さらに、持ち手の無いものも対象外です。
次に、どんな場合にレジ袋が有料になるのでしょうか。これは、お店で商品を購入した時です。それでは、学園祭の出店で食べ物を購入すると、レジ袋は有料になるのでしょうか。この点、学園祭の出店は事業としての販売行為ではないことから、有料化の対象外となります。また、商店街の福引きで当たった物を入れる袋も対象外です。
以上は、容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(平成七年法律第百十二号)第七条の四第一項の規定に基づき、小売業に属する事業を行う者の容器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制の促進に関する判断の基準となるべき事項を定める省令の一部を改正する省令に規定されています。
おそらく、今回の規制によってプラスチック製レジ袋の消費量は減るでしょう。しかし紙製のレジ袋はどうでしょうか。紙製のレジ袋の多くは元をたどれば木材が原料です。プラスチック製のレジ袋が減ったからといって、代わりに紙製のレジ袋が増えては森林伐採が進むかもしれません。環境保護の観点から本末転倒になってしまいます。
これからは財布とスマホだけでなく小さなエコバッグもポケットに忍ばせて街を歩きたいものです。
環境の小窓(41)~ウミガメ調査②
2019年(令和元年)11月28日
執筆者 與語信也 弁護士
8月のウミガメレスキューに引き続き、ウミガメ調査の続編です。
前回も触れましたが、アカウミガメは、絶滅のおそれがある動植物に関するいわゆるレッドリストにおいて絶滅危惧種に指定されており、その危険度の高さは、有名なジャイアントパンダやシロナガスクジラと同じレベルにあります。
ウミガメはその一生のほとんどを海洋で暮らしますが、総じて寿命が長く、上陸して砂浜で産卵するため、上陸回数や産卵回数を調査することで個体数の推測ができる貴重な生物です。
アカウミガメの産卵地については、北太平洋ではなんと日本でしか確認されていません。日本での主な産卵地は、九州南部を中心とした西日本の太平洋側ですが、中には海流に乗って瀬戸内海までたどり着くものもあります。
今回は、アカウミガメの上陸が確認されている洲本市の成ヶ島と、2016年に産卵が確認された大浜海水浴場の砂浜を現地調査しました。
成ヶ島は、国立公園に指定されている淡路島東端にあり、その自然植生は兵庫県版レッドデータブックでAランクに指定されている自然豊かな小島です。成ヶ島では、従来から、海流の影響で流れ着く大量の漂着ゴミが問題となっていますが、現地でも、海岸沿いには多くのプラスチックゴミがあり、地元の人達による清掃もされていました。
アカウミガメの上陸が確認された砂浜にも多くのゴミや漂着物が上がっており、その光景から、よくウミガメも死因と指摘されるプラスチックゴミの誤飲が連想されました。しかし、地元の詳しい方にお話を伺ったところ、健康なカメは少々プラスチックゴミを誤飲してもちゃんと排出できるので、それが原因で死ぬということはほとんどないとのことで、ウミガメの個体数の減少は、混獲や産卵に適した砂浜の減少など別の要因であると思われるとのことでした。成ヶ島へは昨年も上陸はしているそうですが、残念ながら、産卵は確認できていないとのことでした。上陸したからといって必ずしも産卵に及ぶわけではないことがわかりました。
次に、2016年、2017年と2年連続で産卵が確認された大浜海水浴場も訪れました。成ヶ島に比べると、綺麗に整備されていますが人工的な砂浜で、周りには道路やホテルが立ち並んでおり、こんな場所にウミガメが産卵したのかと驚きました。砂浜で孵化した子ガメは明るい方に向かって歩き出す習性があるのですが(したがって、通常は月明りで明るい海に向かって歩き出します)、ここで孵化した子ガメは道路やホテルの明かりの方に向かって歩いてしまい、道路にいるのを地元の人が見つけ保護されたというのがニュースになっていました。
種類を問わずウミガメは個体数を減らしています。その原因は、混獲や砂浜の減少、海洋汚染、気候変動などが挙げられていますが、いずれも人間の活動に起因するものです。数少ない産卵地を守る方法はいろいろありますが、その関わり方には難しい問題を含んでいます。実際、地元の人のお話では、アカウミガメが産卵しに来るという情報を流すとそれを見に来る人が増え、結果カメは産卵しなくなるそうで、環境保護との関係が複雑であると感じざるを得ませんでした。
環境の小窓(40)~ウミガメ調査①
2019年(令和元年)11月28日
執筆者 與語信也 弁護士
兵庫県弁護士会公害対策環境保全委員会では、今年度、絶滅危惧種であるアカウミガメの調査を行っています。
浦島太郎でおなじみのウミガメですが、種類としては、オサガメ、アカウミガメ、タイマイ、アオウミガメ、ヒメウミガメ、ケンプヒメウミガメ、ヒラタウミガメの7種あり、そのうち、アカウミガメ、アオウミガメ、タイマイが、日本の砂浜を産卵地としています。中でもアカウミガメは、日本の太平洋側の広い範囲の砂浜で上陸、産卵が確認されており、淡路島や明石市などの瀬戸内海の砂浜で上陸、産卵していることがわかっています。瀬戸内海の砂浜はアカウミガメにとって重要な産卵地となっているのです。
アカウミガメは、絶滅のおそれがある動植物に関する、いわゆるレッドリストにおいて、絶滅危惧種に指定されており、その絶滅の危険度の高さは、なんと、かの有名なジャイアントパンダやシロナガスクジラと同じレベルにあります。そして、アカウミガメの日本における産卵地である瀬戸内海は、船の往来や漁船の操業も活発な海域でもあるため、多くのアカウミガメが、混獲や事故に遭って死んだり負傷したりすることで数を減らしているのです。
須磨海浜水族園は、実は日本でも有数のウミガメの研究機関であり、ウミガメの飼育もされていますが、同園では、瀬戸内海で保護したウミガメを神戸空港島西緑地の人工海水池で秋まで一時的に保護し、安全な時期を待って外洋で放流する瀬戸内海ウミガメレスキュープロジェクトを行っています。その一環として、保護しているウミガメの身体測定や甲羅洗いを体験できるイベントを毎年開催しており、今年8月にも開催されました。我々委員も参加し、多くの子供たちに交ざり、真夏の午後、アカウミガメの捕獲から身体測定などを間近で見学し、その生態に触れることが出来ました。砂浜に埋められたカメの卵(を模したピンポン玉)を探す企画などもありイベントは盛況でした。
アカウミガメは近年急速に数を減らしているとみられており、具体的な数値や生態系はわからない部分も多いですが、その背景には、人間の経済活動や地球温暖化があることは間違いありません。次回は、アカウミガメの産卵地になっている淡路島の砂浜を調査し、その現況をご報告致します。
環境の小窓(39)~【エレベーター】
2019年(令和元年)10月27日
執筆者 金﨑 正行
突然ですが、写真のエレベーターは、どこに設置されていると思いますか。
阪神尼崎駅から南に徒歩で5分ほど歩いた国道43号線に、このエレベーターは佇んでいます。何の変哲もないエレベーター。ただ、エレベーターの傍らには、尼崎公害訴訟の大阪高裁和解(平成12年12月8日)をふまえ、エレベーターが設置されたことが掲示されています。
かつて、尼崎市南部は、国道43号線を走行する自動車の排気ガスなどによって大気汚染が深刻でした。健康被害を受けた住民は、国などを相手に、損害賠償や一定濃度以上の大気汚染を形成してはならないとの差止めを求めて裁判を起こしました。これに対して、神戸地裁が下した判決(神戸地裁平成12年1月31日判時1726号20頁)は、画期的なものでした。
「浮遊粒子状物質につき1時間値の1日平均値0.15mg/立方メートルを超える数値が測定される大気汚染を形成してはならない」
裁判所は、住民の請求の一部を認め、国などに対する損害賠償、差止めを認めました。裁判の詳細は、割愛いたしますが、大阪高裁の段階で和解が成立し、様々な環境対策が実施され、エレベーターも設置されるに至りました。
兵庫県弁護士会でも、尼崎の大気汚染に関して、尼崎公害訴訟和解に関する会長談話(https://www.hyogoben.or.jp/archive/iken1998-2010/index-2000-1208.html)などを公表してきました。
今は、青空が広がっています。
環境の小窓(38)~【生物多様性ってなぁに?】
2019年(令和元年)9月30日
執筆者 吉江仁子 弁護士
■先月、当コーナーで、「生物多様性条約「ポスト2020年目標」に注目しています」という記事を掲載しましたが、「生物多様性って何ですか?」というご質問がありましたので、お答え致します。
■生物多様性については、生物多様性条約の第2条に、以下の様に定義されています(外務省訳)。
「”Biological diversity” means the variability among living organisms from all sources including, inter alia, terrestrial, marine and other aquatic ecosystems and the ecological complexes of which they are part; this includes diversity within species, between species and of ecosystems.
(訳:「生物の多様性」とは、すべての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系その他生息又は生育の場のいかんを問わない。)の間の変異性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む。)」
はっきり言って、かなり抽象的でわかりにくいですよね。
■生物多様性センターのHPでは、以下のように説明しています。
「生物多様性とは、生きものたちの豊かな個性とつながりのこと。地球上の生きものは40億年という長い歴史の中で、さまざまな環境に適応して進化し、3,000万種ともいわれる多様な生きものが生まれました。これらの生命は一つひとつに個性があり、全て直接に、間接的に支えあって生きています。生物多様性条約では、生態系の多様性・種の多様性・遺伝子の多様性という3つのレベルで多様性があるとしています。」
少し、わかりやすくなりましたでしょうか。
■生物多様性条約(採択1992年)は、「その種がその生態系の頂点に位置したり、頂点に位置する種を支えたりしている指標種であるとか、絶滅危惧種であるとか、人間にとって有用であるとか、人間がその存在を認知しているとかいう人間社会的なバイアス抜きに、「まるっと大事(生態系の多様性も、その中で生きている生物種の多様性も、同一種目に分類されるの各個体のもつ遺伝子レベルの多様性も)」と宣言したところが、画期的でした。
生物多様性は、「まるっと大事」ということだと覚えておいて下さいね。
■最近は、人間の価値すらともすればだれかにとっての生産性で判断されかねない風潮がありますが、今地球上に存在する生物がそのように存在することそのものに価値を見いだす生物多様性の概念が社会に浸透することによって、誰もが個性をもった価値ある個人として互いを認め合える社会へと成長していけることでしょう。
環境の小窓(37)~【生物多様性条約「ポスト2020年目標」に注目しています】
2019年7月30日
執筆者 吉江仁子 弁護士
2010年、名古屋でCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が開催され、世界193カ国から7000人以上の代表、11万人以上の市民が集まり、2020年までに達成すべき10の目標(愛知ターゲット)が策定されました。来年は、その目標年にあたります。
愛知ターゲットはどれほど達成できたのか、今年、各国から国連にレポートが出され、来年5月に、「地球規模生物多様性概況第5版」としてまとめられる予定です。そして、来年10月に中国で開催されるCOP15で、次の目標(ポスト2020年目標)が策定されます。
2010年には、「生物多様性」という言葉すら、日本ではあまり馴染みのない言葉でしたが、今では少しは市民権を得たように思います。しかし、具体的な政策で言えば、例えば2016年、COP13で、「政策と商慣行が、経済的・社会的な発展のための生物多様性の価値を認識するように、さらに、革新的なアプローチを採用する必要がある」等として、横断的な国の政策で、「生物多様性を主流化する」必要性が確認されていますが、私たちは、日々の生活の中で、「生物多様性の主流化」を実感することはないのではないでしょうか。
今や気候変動、プラスチック汚染等、生態系にとっての大きな脅威が実感されるようになっています。人間社会がこの地球上で持続可能に発展するために、国際社会がどう協力していくのか、当会公害対策・環境保全委員会は、2020年COP15に向けての議論を注視しています。また、それを受けて、我が国が2021年に改訂を予定している「生物多様性国家戦略」もフォローしていく予定です。
県民のみなさまも、ともに関心をお寄せ頂ければ幸いです。
環境の小窓(36)~第10回環境法に関するサマースクール
日本弁護士連合会では、毎年、環境法サマースクールを開催しています。
環境法サマースクールでは、研究者や弁護士を講師として招き、環境問題に関連した法律や裁判例等について学んでいます。
本年度も、2019年9月7日(土)に、東京の弁護士会館で環境法サマースクールが開催されます。京都弁護士会でも中継予定です。環境法サマースクールの詳細は、以下のとおりです。
法科大学院生・卒業生、弁護士、研究者、自治体・企業の環境部門の担当者など環境問題に興味がある方であれば、どなたでも参加することができます。参加費は無料です。
環境法サマースクールにお気軽にご参加下さい。
記
日時 2019年9月7日(土)午前9時55分~午後6時
場所 東京会場:弁護士会館2階クレオBC(ライブ会場)
(東京都千代田区霞が関1-1-3弁護士会館)
※サテライト会場:京都弁護士会
講師 北村 喜宣 氏(上智大学法科大学院教授)
乾 由布子 弁護士(第二東京弁護士会)
岡崎 行師 弁護士(東京弁護士会)
杉田峻介 弁護士(大阪弁護士会)
辻岡 信也 弁護士(大阪弁護士会・一級建築士)
芝田 麻里 弁護士(東京弁護士会)
内容 ・環境法を扱う弁護士のキャリア形成
・マンションの抱える環境問題~都市・建築・住環境~
・環境法体系とその学び方
・廃掃法を学ぶ
・弁護士と廃棄物処理案件とのかかわり方
※詳しい内容は、以下の日本弁護士連合会のホームページをご覧下さい。
「第10回環境法に関するサマースクール」
https://www.nichibenren.or.jp/event/year/2019/190907_2.html
環境の小窓(35)~ラムサール条約ドバイ会議に行ってきました
2019年2月28日
執筆者 永井光弘 弁護士
環境に関する国際条約はいろいろあります。例えば、気候変動枠組 条約、生物多様性保護条約そしてワシントン条約などです。ラムサール条約は渡り鳥の保護から始まり広く湿地の保護に取り組んでいる国際条約です。現在、日本を含め170の国と地域が参加しています。ラムサール条約では3年に1回締約国会議が開かれており、昨年2018年10月にはアラブ首長国連合のドバイで行われました。
ドバイ会議を機会にして、日本では宮城県南三陸町の志津川湾、東京都江戸川区の葛西海浜公園が新たにラムサール登録湿地に指定されました。兵庫県豊岡市の円山川河口域では従来のラムサール湿地の登録範囲が拡大されました。
私は、環境NGOの一員として1週間ほど参加してきましたので、今回はそのご報告です。ドバイ会議のポイントは次の3つでした。
1つ目は、「地球湿地概況(GWO Global Wetland Outlook)」が発表されたことです(今年夏までには環境省が邦訳予定)。これは条約事務局が地球規模の調査を行って湿地のタイプ別に現状とその傾向を分析した初の総合的報告書です。今後しばらくの間は湿地保護の最重要資料となるでしょう。この中で『1970年以降に湿地の35%が消滅し(森林消滅の3倍のスピード)、陸の湿地に住む種の81%、沿岸・海洋域の種の36%が減少した。』『湿地に依存する種の25%は絶滅の危機にある。』と湿地の危機的状況が報告されています。
2つ目は、2015年国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)や、気候変動枠組 条約など、他の環境条約などと協調を強めていく姿勢が示されたことです。気候変動を議論すると国際政治に関わらざるを得ず、従来の事務局は腰が引けていたのです。ただ、ここに踏みこまないと条約の目的である湿地の保全・再生、 賢明な利用が達成できないので、覚悟を決めたようです。
3つ目は、GWOに現れた湿地の危機(と依存する種の危機)や、気候変動に取り組むための多くの決議がされたことです。主なものとして、泥炭湿地の強力な炭素吸収力(世界の森林の2倍の炭素吸収量!)に着目し泥炭湿地の再生決議がされ、沿岸域のアマモやマングローブ等の炭素吸収力に着目したブルーカーボン生態系保全決議がされました。また、沿岸域湿地(主として砂浜)に依存するウミガメの保護のため、砂浜の保全の強化(ラムサール湿地への指定)を進める決議もされました。
今回ドバイ会議を受けて、次の3年間、さらに湿地の保全と再生、賢明な利用が世界的に進めてられていくことになります。
次の締約国会議(COP14)は、2021年にアフリカのセネガルで行われるようです。
その頃には、日本はもちろん、世界でも、もう少し湖沼、川、沿岸域など湿地の保護が進んでいることを心から願っています。
環境の小窓(34)~コウノトリ野生復帰の取り組み
2018年(平成30年)11月30日
執筆者 與語信也 弁護士
私は今年の4月まで約3年間、豊岡支部におりました。豊岡支部の管轄範囲は広く、兵庫県の北部但馬地方の全域、三市二町に渡ります。但馬地方は山や川、日本海に囲まれ、夏は暑く冬は雪が多い自然環境の厳しい場所です。しかし、動植物にとっては自然の多い豊かな場所と言えます。
豊岡市といえばコウノトリといわれるくらい、コウノトリの繁殖とPRに力を入れているのも有名です。コウノトリは鶴に似た大型の渡り鳥で、鶴と違い鳴くことはなく、木にとまります(鶴は木にとまれませんので「松に鶴」はコウノトリの間違いだと言われています)。コウノトリは昭和46年に豊岡で野生最後の一羽が死に、その後人工飼育が始められました。平成元年になってようやく繁殖に成功、平成17年に放鳥開始、平成19年に実に43年ぶりとなる野外でのヒナ誕生と、国内で姿を消してから不断の取り組みで現代に繋がりました。私が豊岡にいた時は、空を飛んでいたり、家の近くの田んぼで食事をしているコウノトリを見かけるのは特に珍しいことではありませんでしたが、見かけると何となく得をした気になりました。コウノトリは肉食性で湿地にいる生物を食べるため、冬場も田に水を張ったままにする冬期湛水を至る所でやっています(豊岡市ではコウノトリ育む農法と呼んでおり、その農法でできたお米がコウノトリ米です)。私もよくコウノトリ米は買ったりもらったりしましたが、とてもおいしいです。ただ冬期湛水は管理や費用などの面で大変であり、農家さんや地元の人の理解と協力が不可欠です。この他、コウノトリの野生復帰のため、様々な取り組みが行われており、豊岡市ではコウノトリの野生復帰活動にふれるコウノトリツーリズムなるものもやっているようです(参加したことはありませんが)。
人間が絶滅させた生物を同じ人間が蘇らせる矛盾を感じざるを得ませんが、絶滅させるより蘇らせる方がずっと多くの根気と熱意と費用がかかることは明白です。自然や動植物と共生できる持続可能な社会を構築することは、今を生きる私達の、未来の世代に対する責任であると痛感します。
環境の小窓(33)~なぜ,外部認証による環境マネジメントシステムなのか
2018年(平成30年)9月10日
執筆者 三木信善 弁護士
兵庫県弁護士会は,以前より紙ゴミ電気等の削減に取り組んでいましたが,昨年,環境マネジメントシステム規格KEMSに認証登録し,2年目の今年8月には審査登録機関による更新審査を受けました。
ところで,「環境保護はわかるけど,なんで第三者認証による環境マネジメントシステムを採用するの?」「認証取得により官公庁の許認可や資金調達,競争入札などが有利になる場合があるようだけど,弁護士会は関係ないじゃん!」「外部審査は負担が多そうだから,以前どおり自分たちで目標を掲げて紙ゴミ電気の管理をしてればいいんじゃない?」などのご質問,ご意見をいただくことがあります。
確かに,環境マネジメントシステムは必ずしも外部規格による必要はなく,独自の方針に基づく自主的な環境管理を行っている企業も多いようです。ISO14001のほか,エコアクション21,KES,KEMS等の第三者認証を取得・継続するには,企業規模に応じた手数料がかかります。また,登録審査,更新審査にあたっては,マニュアルをはじめ相当数の書類を作成・提出が必要で,日々のデータ管理を含めると相当の労力も要します。一旦認証取得したものの継続するための負担感から,認証を返上する企業もあると漏れ聞くところです。
では,人的物的負担をしてまでも第三者機関の規格を採用しその認証を得る動機やメリットがどこにあるのか,少し考えてみました。
① 他の弁護士会も採用している
日弁連,京都,第一東京,第二東京,沖縄などはKES,大阪はエコアクション21,複数の弁護士会が第三者認証による環境マネジメントを採用しています。ならば兵庫も,というのは動機の一つといえそうです。
② 環境問題への取り組みを見える化
JIS(日本工業規格)やJAS(日本農林規格)と同じく,外部規格をパスして認証取得したあかつきには認定証がもらえ,所定のマークを使用することが許されます。当会では会館玄関やホームページにこれを掲示しておりますが,これにより来館者や閲覧者に「真面目に環境問題に取り組んでいる弁護士会」とのイメージをわかりやすくアピールできます。法律相談に来られる方がそれで増えるかどうかは不明ですが。
③ 専門コンサルタントがいる
審査登録機関には,審査人兼コンサルタントが所属しており,審査時もしくは随時に相談に応じてもらえます。他企業の環境マネジメントの例,効率的なエネルギー管理方法や環境関連法の改正のポイントなど有益な情報も入手できます。
④ 緊張感の持続
内部監査のみではどうしても甘えが出てしまう。定期的な外部審査を受けることにより適度な緊張感を持続したほうが,効率的に環境管理を行うことができるというのはあるでしょう。
このように見てみると,決定的とはいえないものの,認証取得のメリットはある程度肯定できるように思います。しかし,外部規格を採用するにあたって,関係者の理解をえられなかったり,本来業務の効率を損なったりすれば本末転倒です。今後も,そういう点に留意して環境マネジメントシステムを進められればと思います。
環境の小窓(32)~第9回 環境法に関するサマースクール
日本弁護士連合会では、毎年、環境法サマースクールを開催しています。
環境法サマースクールでは、研究者や弁護士等を講師として招き、環境に関する法律や裁判例等について学んでいます。
本年も、9月1日(土)に、東京の弁護士会館で環境法サマースクールが開催されます。また、京都弁護士会にも中継される予定になっています。本年の環境法サマースクールの概要は、以下の通りです。
法科大学院生・卒業生、弁護士、研究者、自治体・企業の環境部門の担当者など環境問題に興味がある方であれば、どなたでも参加することができます。参加費は、無料です。
是非、環境法サマースクールにお気軽にご参加下さい。
記
日時 2018年9月1日(土)9時25分~18時15分
場所 弁護士会館17階 1701会議室(ライブ会場)※サテライト会場:京都弁護士会
東京都千代田区霞が関1-1-3弁護士会館
講師 北村 喜宣 氏(上智大学法科大学院教授)
市川 守弘 弁護士(札幌弁護士会)
岩城 裕 弁護士(大阪弁護士会)
福田 健治 弁護士(第二東京弁護士会)
内容 環境法体系とその学び方
個別環境法を学ぶ:土壌汚染対策法
具体的に考える環境(自然・生活)訴訟の問題点
豊島公害調停事件とは何であったか
気候変動を法廷で争う!~世界の気候変動訴訟の今
※詳しい内容は、以下の日本弁護士連合会のホームページをご覧下さい。
「第9回環境法に関するサマースクール」
https://www.nichibenren.or.jp/event/year/2018/180901.html
環境の小窓(31)~この生き物を守りたいシリーズ(ヘラシギ)~
2018年(平成30年)6月12日
執筆者:永井光弘 弁護士
ヘラシギはスズメより少し大きいくらいの渡り鳥です。そのヘラのようなくちばしの形に特徴があります。この特徴が無ければ、くちばしがまっすぐなトウネンと区別が難しい。ヘラシギは、カムチャッカ半島北部のロシアで繁殖し、東南アジアのミャンマーやバングラデシュなどで越冬します。ということは、この小さな鳥が、その間の8000㎞の距離を渡って旅しており(!)、その渡りのルートに日本、韓国、中国があります。九州で休む場合が多いのですが、過去には瀬戸内や大阪湾岸でも見かけられた記録があります。
2015年の調査では世界で約480羽しか生き残っていないと推定され、IUCN(世界自然保護連合)の格付けでは、いつ絶滅してもおかしくない=絶滅危惧種(IA)に指定されています。
繁殖地や越冬地を守ることももちろん重要ですが、長い渡りの途中でご飯を食べる中継地の干潟などの潮間帯湿地を守ることも大切です。日本にあっても中継地の干潟の状態を守ることで、このヘラシギを守ることができるのです。
本年10月にドバイで開催予定のラムサール条約締約国会議では、関係するより多くの国が協力してヘラシギの渡りのルートとなる干潟等の潮間帯湿地を保護しようという決議が、議論のうえ採択される予定です。
(写真は、福岡県古賀市花鶴川河口にて服部卓朗氏2011年撮影)。
環境の小窓(30)~エネルギーの転換~
2018年(平成30年)6月12日
執筆者:小沢秀造 弁護士
原子力は事故を考え、廃棄物を考えると未来のエネルギーとはいえない。石炭火力も大気汚染や地球温暖化のことを考えると未来のエネルギーとはいえない。
環境保護運動の第一人者ともいわれるレスター・ブラウン著の「大転換」という本のカバーは2030年加速する世界、逆行する日本とある。主に石炭や石油で動く経済から、太陽や風を動力源とする経済へと私たちを導く転換が大転換という意味である。その本の趣旨は環境問題という観点からだけでなく経済的な観点からのエネルギーを検討している。
最近の新聞報道では、ある英国の調査機関でも太陽光や風力の発電コストは2040年までに半減すると予想している。中国やインドなどでは21年までに発電コストが石炭火力に比べて太陽光の方が安くなるとしている。その調査機関は(残念ながら)日本は石炭火力への依存が続くと予想している。
日本は太陽光や風力発電のリーダーでありうるか、その技術を外国から購入する立場になるか、地球環境対策に成功するかも含め日本の将来を考えたい。
環境の小窓(29)~外来種問題について~
2018年(平成30年)1月23日
執筆者:森 崇志 弁護士
最近、テレビで池の水をぜんぶ抜くという企画の番組が放映されています。内容は池の水を全部抜いてみよう、というシンプルなものですが、身近な池から何が出てくるのかわからないドキドキ感もあり、既に何度も放送されています。
池の水を抜いてみると当然のことながら池に住む魚などが出てくるのですが、在来種だけでなく外来種もたくさん出てきます。外来種はもともとその地域に生息していなかったけれども、他の地域から持ち込まれ生息するようになった生物のことで、人や動物の移動にあわせて偶然移り住む外来種もいますが、人が意図的に持ち込んだりした外来種も多く、沖縄のマングースやブラックバスは有名な話かと思います。外来種の問題は単に持ち込まれた地域の生態系が破壊されるということに留まらず、私たち人間の生活にも影響(例えば、漁獲量が減少したり、新しい感染症が広がるなど)を及ぼす恐れがあることもあり、決して他人事ではありません。
このように外来種が問題となっていますが、外来種はもともといた地域では普通に生息していたのであり、存在自体が問題というわけではありません。そして、ほとんどの外来種は人が意図的に、もしくは問題であることを意識せずに持ち込んだことで問題となっていることからすると、人間の問題であるともいえます。
テレビの企画をきっかけに池の環境が改善されたというニュースや、継続的な「掻い掘り(かいぼり)」の結果外来種の数が減り、在来種の数が増えていったというニュースも最近聞いたりします。外来種の問題は昨日今日に始まったことではなく、一人ですぐにどうこうできるものではないかもしれませんが、継続的な活動によって問題を解決出来る可能性があること、身近にある池からでも取り組んでいけることをテレビの番組は示してくれたと思います。この番組をきっかけに多くの人が外来種問題、環境問題に関心を持ち、協力しあって身近な環境からでも変えていく運動が広がっていけばと願っています。
環境の小窓(28)~環境マネジメントシステム~
2017年(平成29年)9月28日
執筆者:三木信善 弁護士
8月26日に京都にて開催された「2017 全国弁護士会環境マネジメントシステム・サミット」に兵庫県弁護士会の副会長、公害対策・環境保全委員長らが出席されました。環境マネジメントシステムを導入済みもしくは導入検討中の13の弁護士会の間で活発な意見交換がなされたようです。
組織や事業者が、その運営や経営の中で自主的に環境保全に関する取組を進めるにあたり、環境に関する方針や目標を自ら設定し、これらの達成に向けて取り組んでいくことを「環境マネジメント」、このための工場や事業所内の体制・手続き等の仕組みを「環境マネジメントシステム」といいます。
この環境マネジメントシステムは独自のものを構築・運用しても良いのですが、外部機関の定めた規格に基づいたシステムを採用し、また外部機関からの審査・認証を受けることで、効果的なシステムを運用できるとともに、社会的な評価を得ることができます。既存規格としてよく知られているものに、ISO14001、エコアクション21などがあります。
従前より独自に環境マネジメントを行ってきた兵庫県弁護士会は、この度、地元規格であるKEMS(こうべ環境マネジメントシステム)を採用することにし、8月にそのステップ1(初級)の認証取得と登録完了ができました。私もそのお手伝いをさせて頂いていたのですが、ここに至るまでは、コンサルティングの受講、総会決議、マニュアルの作成、定期的な環境評価、実地審査対応等、手続が結構大変でした。ふらふらの状態でようやく認証取得にたどり着いたという感じです。しかし、先のサミットでも多くの弁護士会が会の社会的責任として環境保全に取り組んでいることが分かりましたので、こんなところで泣き言を言っていられません。引き続き工夫を重ねて、次はステップ2(中級)かな?
なお、下のマークは認証取得の際に交付されたものです。弁護士会館のどこかに掲示されているはずですので、会館にお越しになることがあれば、捜してみてください。
環境の小窓(27)~2017年(平成29年)10月5日生物多様性シンポジウムのご案内~
「琵琶湖がつなぐ人と生きものたち」
日弁連 人権擁護大会シンポジウム@滋賀県大津市
日本弁護士連合会では、毎年、人権擁護大会を開催し、各テーマ毎に3つの分科会に分かれてシンポジウムを開催しています。
今年は、その第3分科会で、「琵琶湖がつなぐ人と生きものたち」をテーマに、市民による生物多様性の保全と地域社会の実現について考え合うシンポジウムを開催します。
身近な自然、地域固有の生物多様性の保全を実践しながら、地域社会を豊かに発展させる取組みが国内外で始まっています。琵琶湖での取り組みを含むその実践と制度的枠組みを紹介しながら、私たちの社会が、持続可能に豊かに発展していくための法制度について考え合えたらと思っています。シンポジウムの概略は下記の通りです。どなたでもご参加頂けますので、どうぞ、お気軽にお越し下さい。
記
日 時 2017年10月5日(木) 12時30分~18時
場 所 びわ湖大津プリンスホテル(滋賀県大津市におの浜4-7-7)
第Ⅰ部 講演と対談
滋賀県知事 三日月大造氏
びわこ成蹊スポーツ大学教授 西野麻知子氏
第Ⅱ部 パネルディスカッション
パネリスト 吉田正人氏(筑波大学大学院教授、日本自然保護協会専務理事)
大久保規子氏(大阪大学大学院法学研究科教授)
宮本博司氏(元国交省近畿地方整備局淀川河川事務所長、
元淀川水系流域委員会委員長)
※詳しくは「日弁連 人権大会 滋賀」で検索!
https://www.nichibenren.or.jp/jfba_info/organization/event/jinken_taikai/gyoji_jinken2017.html
環境の小窓(26)~エネルギー基本計画について~
2017年(平成29年)8月29日
執筆者:木野達夫 弁護士
エネルギー基本計画とは、エネルギー政策の基本的な方向性を示すためにエネルギー政策基本法に基づいて政府が策定するものです。 2003年10月に最初の計画が策定され、すでに、第4次計画まで策定されています。
2014年4月に策定された第4次計画では、原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、2012年9月に策定された「原発ゼロ」計画を撤回しています。 これを受けて、2015年7月に政府が閣議決定した「長期エネルギー需給見通し」においては、2030年度の電源構成における原発比率を20~22%にすると決められました。
今回、第5次計画の策定にあたって、経済産業省は原発の新増設を想定せず既存原発の再稼働により、上記「20~22%」を実現しようと考えているようです。 しかしながら、原発比率「20~22%」を実現するには、既存原発のすべてを稼働してようやく達成できる数字であると言われています。 原発再稼働については厳格な要件が課せられているにもかかわらず、すべての原発を稼働することを前提としていることについては、「再稼働のための厳格な要件が骨抜きになるのでは」という危惧を払拭できません。
なお、原発関連業界からは原発の新増設を計画に盛り込むことを期待する声が出ていますが、福島第1原子力発電所の事故を受けて、原発のコストが決して安価でないことが明らかになった現在、原発の新増設は現実的ではありません。 可能な限り、再生可能エネルギーを普及し、原発依存の社会を改めるべきでしょう。
環境の小窓(25)~だれが法廷に立てるのか~
2017年(平成29年)5月29日
執筆者:関根孝道 弁護士
アマミノクロウサギ事件をご存じでしょうか。とある県知事が林地の開発を許可しましたところ,特別天然記念物のアマミノクロウサギがこの許可の取消しを求めて知事を訴えた「自然の権利訴訟」といわれるものです。訴訟の真のねらいは、一般市民が自然環境保護のための訴訟を提起できるように、従来の判例の考え方に変更を迫ることでした。
環境保全のために提起される訴訟を環境訴訟といいます。さまざまな訴訟があります。とくに困難なのが自然環境保護のための訴訟です。何が困難なのかといいますと,自然環境の保護を目的として訴訟を提起しても、「あなたには訴訟を提起する資格がありません」として、門前払いされるからです。これはどういうことでしょうか。
訴えを起こす原告は、「法律上の利益を有する者」である必要があるとされ、誰でも自由に訴えを起こすことができる訳ではありません。このような利益が自然環境保護のための訴訟において、「人」(自然人や法人)に認められるのでしょうか。裁判所は、自然保護の法規定(たとえば、絶滅のおそれのある種を保護したり、自然保護区の開発を規制する規定など)は、公益保護の規定だと解釈します。その結果、「人」が自然保護法違反を理由に訴えを提起しても、その人は法律上の利益を有していないという理由で、訴えは斥けられます。つまり、自然環境保護を目的とした訴訟をだれも提起できず、たとえ法律違反があっても訴訟で是正できない可能性があるのです。
このような事態を避けるため、先述の事件では、「法律上の利益を有する者」として「動物」であるアマミノクロウサギを原告にしました。それでも、訴訟は却下されました。ただ、裁判所は「自然の権利という観念は、人(自然人)及び法人の個人的利益の救済を念頭に置いた従来の現行法の枠組みのままで今後もよいのかどうかという極めて困難で、かつ、避けては通れない問題を我々に提起した」と述べ、自然の権利訴訟への一定の理解を示しました。
消費者保護の世界では、一定の要件を満たす消費者団体が被害者に代わって訴訟を起こすことができる消費者団体訴訟制度が設けられています。環境法の世界でも、環境団体などが自然環境保護のための訴訟を提起できるような制度の導入が望まれるところです。
環境の小窓(24)~築地市場移転問題と土壌汚染対策法~
2017年(平成29年)1月22日
執筆者:金﨑正行 弁護士
築地市場の移転予定地から高濃度の有害物質が検出されたことがメディアで報道されています。
そこで、今回は、土壌汚染に関する法律である土壌汚染対策法について考えてみたいと思います。
土壌汚染は、地中で発生し、目には見えないことから、簡単には気付きません。そこで、土壌汚染の有無を調査することが望ましいといえます。ただし、すべての土地を調査することは、費用や時間がかかり大変です。そのため、土壌汚染対策法では、有害物質を使用していた施設を廃止する場合や大規模な土地の堀削をする場合など一定の場合に限定して、土地所有者等に土壌の調査を義務付けています。
調査の結果、土壌汚染が一定の基準を超えていた場合には、その区域は、要措置区域や形質変更時要届出区域に指定されます。形質変更時要届出区域に指定された場合には、土壌を掘削する際に、届出が必要となります。
東京都や東京都中央卸売市場のホームページによれば、築地市場の移転予定地の一部は、形質変更時要届出区域に指定されているそうです。指定解除に向けて地下水のモニタリングを行なってきていた中で、報道さている有害物質の検出が問題となりました。
土壌汚染は、築地市場だけの問題でなく、日本全国どこででも起こりえる環境問題です。私たちも、特に不動産の取引をする際には、土壌汚染に注意しておく必要があるでしょう。
環境の小窓(23)~ラムサール条約関連の湿地フォーラムに参加して~
2016年(平成28年)12月20日
執筆者:小沢秀造 弁護士
湿地の保全のためのラムサール条約締結国会議が2018年にアラブ首長国連合のドバイで開催が予定されています。13回目の会議となります(COP13)。現在日本で重要な湿地として登録されているところが50カ所ありますが、順次登録湿地がふえていく予定です。 兵庫県の登録湿地としてはコウノトリが生息する豊岡で登録されています。
ラムサール条約に関連して、湿地保全のNGOなどがあつまり、今年の10月29日30日と第11回の日韓NGO湿地フォーラム(略称)が岐阜市で開催され、参加してきました。湿地の保全のための日韓共同湿地調査が2000年にはじまっていますから日韓には非常にながい協力の歴史があるようです。湿地としての水田の役割の見直し、長良川と韓国4大河川という土木工事的な河川の破壊については水門を開けさせる地道な努力が必要であることなどが指摘されていました。
開門などによる自然再生事例として、日本の中海、荒瀬ダム、英虞湾など、韓国のシファ湖の例が挙がっていました。自然環境の保全とともに自然再生も今後の課題となりそうです。
環境の小窓(22)~IoT~モノのインターネット~
2016年(平成28年)12月20日
執筆者:大田悠記 弁護士
皆さまは、「IoT」という言葉をご存知でしょうか。「IoT」とは、Intrernet of Thingsの略で、「モノのインターネット」、つまり、日常生活のあらゆるモノがインターネットにつながるという考え方です。エアコン、冷蔵庫、テレビ、照明などを連携させ、利便性・快適性の向上、省エネ・低コスト化に応用しようというものです。
「IoT」の考え方は、既に多くのモノに導入されています。外出先からスマートフォンの遠隔操作でエアコンの電源を入れることができるというのも、「IoT」を体現するものです。
もっとも、遠隔操作でエアコンの電源を入れることは、当初は、電気用品安全法違反とされていました。平成24年にこの機能が目玉だった新製品のエアコンが、発売前に経産省からストップがかかり、この機能を外されるといったこともありました。
しかし、同法の規制対象は、あくまで家電そのもので、例えば、「HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)」のような家電の制御システムは規制対象外なため、遠隔操作が家電の一部機能だと規制対象になるが、別売りのシステムであれば規制対象にはならないと指摘されていました。50年以上前に施行された同法の規制は、「時代遅れ」とも批判されました。
結局、同法の技術基準の解釈は平成25年に改正され、現在では、スマートフォンの遠隔操作でエアコンの電源を入れられる機能を搭載したエアコンが、広く販売されております。
電力自由化もなされ、エネルギーの新時代に突入した現在、「IoT」による技術の進化は、私たちの暮らしにより一層の利便性・快適性をもたらしてくれるのだと思います。今後は、異なるメーカー間での家電の連携なども、望まれるところです。
環境の小窓(21)~日弁連と環境問題~
2016年(平成28年)10月19日
執筆者:筧宗憲 弁護士
日頃から環境問題に関心をお持ちの皆さんに、一度、「日弁連のホームページ」にある意見書等をご覧いただくことをお勧めします。
トップページの「会長声明・意見書等」「人権擁護大会宣言・決議集」の項目をクリックすると、「人権」「刑事・少年」「消費者」「労働問題」などと並んで、「環境・公害」に関する意見書や決議を、60年以上遡って見ることができます。
思想信条や政治的立場も様々な弁護士会員から成る会が、社会に向かって、時の政治的課題ともなっている問題についてコメントすることについては、強制加入団体としては問題があるとの意見もあると思われます。
しかし、意見書は、ダム建設中止問題、リニア新幹線問題、原発再稼働や原発輸出政策反対、地球温暖化防止やエネルギー政策、沖縄基地移転問題など、重要な政治課題についても、人権や環境の視点から検討を加えながら提言をしています。
これは、弁護士法に規定される「人権擁護」と「社会正義の実現」という弁護士の使命から、現在および将来の国民が、安全で良好な環境のもとで生活する権利を守るために活動し発言するのは、当然であるという考えによるものです。
具体例として、2000年10月の日弁連人権擁護大会の「エネルギー政策の転換を求める決議」を紹介します。
提案理由の中で、日弁連の基本的立場について、「当連合会は、基本的人権の擁護と地球環境の保全の立場から、原子力の開発と利用について関心を持ち、原子力施設の安全性について検討を加え、原子力行政及びエネルギー政策のあり方について、次のような提言を行ってきた。稼働中の原子力施設の運転、建設について中止を含む抜本的再検討を行うこと、使用済燃料の再処理を止め、プルトニウムをエネルギー源とする政策を放棄すべきであること、エネルギー政策の立案過程における民主化・透明化を図り、エネルギー政策基本法を制定すべきであることなどである。」と、人権擁護と環境保全の観点から、脱原発の提言をしています。
そこでは、東海村JCOでの臨界事故(作業員2名の死亡と多数の作業員と住民が被曝)、高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故、動燃東海再処理工場の火災・爆発事故等の続発の事実から、安全性、環境保護の面で原子力利用の問題点は明確になってきているとしていました。
さらに、わが国の原子力安全規制行政は「主として通産省など原子力の推進のための官庁内部におかれ、総理府に置かれる原子力安全委員会は単なる諮問機関に過ぎず、その機能を十分果たしていない。このことが重大事故の続発を防げない原因の一つである。」と、安全対策の不備を指摘しています。
2011年3月11日の福島原発事故のはるか以前から、日弁連がこのような提言をしていたことにもご注目いただき、また、その他の、多くの環境問題にも、時機に応じて積極的な提言をしてきたことをご参照いただけたら幸いです。
環境の小窓(20)~温暖化対策が熱い~
執筆者:金﨑正行 弁護士
「パリ協定」という言葉を聞いたことがありますか。
2015年12月、フランスのパリにおいて、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(略して「COP21」と呼ばれています。)が開催されました。
この会議には、世界各国の代表が参加し、地球温暖化を防止するため、温暖化の原因とされる温室効果ガスの排出を削減することで合意しました。この合意のことを、会議が開催されたパリの地名をとって、「パリ協定」といいます。
「パリ協定」では、世界の平均気温の上昇を2℃未満に抑えることや、世界各国が温室効果ガスの削減目標を作成して5年ごとに見直しすることなどが合意されました。
パリ協定をうけて、2016年5月、日本政府は、地球温暖化対策計画を閣議決定しました。同計画で、日本は、2050年までに、現在よりも温室効果ガスの排出を80%削減することを目指すことになりました。
「パリ協定」と言われると遠い世界のことのように思えますが、地球温暖化は私たちの日常生活にも関係してきます。一度、パリの地に想いをはせながら、身近な地球温暖化対策を考えてみませんか。
環境の小窓(19)~能勢ダイオキシン問題に思う~
執筆者:伊藤明子 弁護士
大阪府能勢町・豊能町のごみ焼却施設から排出されたダイオキシン廃棄物が、神戸市に無断で西区神出町の産業廃棄物最終処分場に違法に埋立処分されていたことが問題になっています。2016年8月26日の報道によれば、廃棄物は掘り起こし・撤去され、豊能町内に2ヵ月間仮置きされることが決まったようです。しかし、能勢町のごみ焼却施設からの高濃度ダイオキシン汚染が発覚したのは1997年。2000年には公害調停が成立しましたが、20年近く経っても、最終処分について何の目処も立っていないのが現状です。
こうしたダイオキシン廃棄物と比べるまでもなく、膨大な量の放射能廃棄物の行方を考えると、茫然自失してしまいます。一方、増え続ける高濃度放射能汚染水の漏出から連想するのは水俣湾の水銀ヘドロ埋立地です。1956年の公式確認から60年を迎えた水俣病ですが、寿命50年と言われる鋼矢板は老朽化(すでに30年以上経過)しており、地震時の液状化で水銀を含んだ埋め立て土砂が噴出する危険性も指摘されています。
身近なところでは、建材に大量に使用されたアスベスト。ずさんな工事による建物改修・解体時の飛散事故報道が後を絶ちません。
便利さや目先の経済性を追求した結果、取り返しの付かない被害を生むだけでなく、有毒物・危険物の処理のために莫大なコストと時間を要する場合がある……繰り返しの苦い経験を教訓として、私たちの社会は、変わっていけるのでしょうか。
環境の小窓(18)~ワシントン条約について~
執筆者:西川達也 弁護士
日本が1980年に加盟したワシントン条約においては、野生生物のもつ多様な価値を認め、「特定の種が過度に国際取引の対象にならないように」種を保護することが謳われています(同条約前文)。これにより、日本では、国内法として種の保存法(正式名「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」)が制定されました。
ワシントン条約の3つの附属書には、「絶滅のおそれのある種」が記載され、実際に規制対象となるのは、(1)生死を問わず、絶滅のおそれのある種の個体、及び(2)それら個体の部分や派生物であって、容易に識別できるもの、です。
附属書Iは、特に絶滅のおそれが高いもので、取引により影響を受ける種を掲載しています(約950種)。これらの種については原則として国際取引が禁止され、学術研究などのための輸出入には、輸出入国双方の許可が必要となります。
附属書IIは、現在は必ずしも絶滅のおそれはないが、取引に厳重な規制がなければ絶滅のおそれのある種を掲載しています(3万3000種)。附属書IIIは、締約国が自国領域内で規制が必要であると認め、かつ取引規制のために他の締約国の協力が必要と認める種を掲載しています。附属書II及び附属書IIIに記載の種については、原則として国際取引可能ですが、輸出許可書を輸出国当局及び輸入 国当局に提出する必要があります。したがって、附属書II及び附属書IIIに列記された種についても、輸出許可書がなければ税関で差し止められることになります。
過去に日本の税関で実際に輸入を差し止められたものには、以下のようなものがあります。
・漢方薬・塗り薬・酒類
クマの胆のう、トラ、ジャコウシカ、コブラなどの成分を含んだもの
・はく製等
ワニ、ヘビ、トカゲなどの革を使用したハンドバッグ、財布、ヘビ革を使用した胡弓等
・その他の製品
象牙の印材・彫刻品、べっこう製品、クジャクの羽、サンゴ、ダチョウの卵等
・植物
サボテン、ラン、トウダイグサ、ソテツ、アロエ等
野生生物の国際取引は、年間1億米ドルのビッグビジネスであり、うち約3割は違法な取引です。野生生物を大量輸入している日本にとって、ワシントン条約の国内実施、そしてその実効性の確保は生物の多様性確保のために非常に重要な
問題です。
環境の小窓(17)~風力発電所等の視察~
執筆者:木野達夫 弁護士
平成27年6月12日~13日、高知県大月町にある大月ウインドファーム(風力発電施設)の視察に行ってきました。
近畿弁護士会連合会公害環境委員会の夏期研修会の準備のための視察です。
1日目、高知空港から車を3時間走らせて大月ウインドファームに着きました。
大月ウインドファームは株式会社大月ウインドパワーが所有する風力発電施設で、1機1000KWの風力発電機を山の尾根伝いに12機並べています。
民間の企業と町おこしを真剣に考える有志の方達が数々の困難を乗り越えて実現した事業です。
風車はコンピュータ制御されており、風の吹いてくる方向へ羽を向け、風の強さによって羽の角度を変えます(風が強すぎるときは安全のため羽を立てて風を受けにくくします)。
風力発電機を真下から見上げたのは今回が初めてでした。
2日目は、小水力発電所予定地を視察しました。事業者である地域小水力発電株式会社の担当者に案内してもらい現地に行きました。
着工はされていませんでしたが、清流が勢いよく流れ出る貯水池の建設予定地と高低差を利用して発電するための発電設備予定地を教えてもらいました。
今回の視察では、風力発電も小水力発電も、開発する土地の問題(名義人が不明である、地権者との交渉が難航など)の解決が大変であることを学びました。
環境の小窓(16)~バイオマスツアー真庭~
執筆者:大田悠記 弁護士
平成26(2014)年11月21日・22日の2日間、岡山県真庭市で開催されている「バイオマスツアー真庭」に、公害対策・環境保全委員会の委員6名で参加してきました。
真庭市は、平成17(2005)年、9町村の合併により誕生し、人口は約5万人、岡山県の北部に位置し、市内の森林面積が約79%を占める森林資源の豊富な林業・木材業のまちです(市内には、西日本屈指の温泉地の一つである湯原
温泉もあります)。
真庭地域では、平成12(2000)年の時点で、年間7万8000トンもの木質副産物(木くず、廃材など)が発生していました。そこで、それらの副産物を有効活用できるよう、林業・木材産業と周辺産業が連携し、木質資源の循環系を創り出すことを目指した取組みがなされるようになりました(木質資源活用産業クラスター構想)。
その後、平成18(2006)年には、国からバイオマスタウンの認定を受け、木質バイオマスの活用に向けた実験・取組みが重ねられてきました。その成果として、現在では、木質副産物を集積基地に集めて効率よく収集し、それをチップやペレットなど用途別に加工し、ボイラーや発電のエネルギーとして利用するという木質バイオマスの流通体制が構築されるようになりました。これにより、年間1万6000キロリットル(約14億円分)もの石油代替エネルギーを創り出すことができ、CO2の大幅な削減にも成功しています。
真庭市のバイオマスは、あくまで真庭の地域にもともと根付いていた林業・木材業を復活・強化しようとして始められたものです。バイオマスの活動が地域の産業を盛り上げ、ツアーなどの形で観光面でも波及効果を及ぼしている点は、注目すべき点です。
地域内でエネルギーを創り出し循環させていく「バイオマスタウン真庭市」は、21世紀の持続可能な産業地域の一つのモデルとして、大いに参考にすべきものといえるでしょう。
環境の小窓(15)~東北地方の防潮堤問題について~
執筆者:永井光弘 弁護士
東日本大震災の巨大津波をうけて、東北地方では防潮堤が建築されつつある。
中央防災会議の方針は、東日本と同様の最大クラスの津波(1000年に一度;L2)については高台移転等の土地利用も含めた総合対策を行い、他方でより頻度の高い津波(数十年から百数十年に一度;L1)に対しては基本的に防潮堤で対応するという考え方を示した。
後者L1津波への対応として、東北地方では従来のものより相当に高い防潮堤の建築が計画されている(気仙沼中島海岸では14.7mもの防潮堤!)。大きな問題は、既存の防潮堤が存在したところでは災害復旧事業として、そうでないところは海岸法に基づいて、それぞれ防潮堤が建築されるが、いずれにしても環境影響評価法の対象ではないという点だ。沿岸域はもともとデリケートな生態系であり、そこに巨大な防潮堤ができることは環境への大きなインパクトは避けられず、まず環境影響評価を行うことは不可欠だと思う。
また、防潮堤の建設手続においてはそこに住む住民の民意が十分に反映される手続きがない。津波被災後の状況を受けて、まずは、そこでどのようなまちづくりをするかが十分議論されるべきであり、その後、そのためにはどの程度の防潮堤を必要とされるのかが議論されるべきだ。そうでないと、巨大な防潮堤は完成したものの、それで守られるべき後背地に住む人はいなかった、というちぐはぐなまちづくりとなってしまう。
私は2012年に日弁連の調査でイギリスの沿岸政策を視察した。そこでは、限られた財政のもとでは全ての海岸線を防護することは不可能との政策判断のもと、沿岸住民にどの海岸線を防護するか徹底的に議論して決めてもらうという政策がとられていた(地域住民の議論で守らないと決めた北海沿いのヘイズバラでは民家がまさに海に沈んでいるところも目の当たりにした)。
そこまで極端でなくても、東北地方でも海岸防護をどうするかは基本的にそこに住む住民に決めてもらうべきであって、防護の方法を防潮堤のみに限るべきではない。高台移転や避難施設の充実に十分な復興費用をつかい、(1000年に一度のL2津波にはそもそも対応できない)防潮堤にたよらず、子孫に対し海が見える豊かな海岸を残すという選択肢もあるはずだ。
環境の小窓(14)~湖をながめながら~
執筆者:亀若浩幸 弁護士
夏になると、子供たちを連れて琵琶湖の畔でキャンプをしています。
琵琶湖で、泳いだり、魚や昆虫を捕って遊び、湖畔で飯ごう炊さんをして、夜は湖の波を音を聞きながらテントの中で眠ります。昼間は、山々の緑や野鳥を、夜には星空を眺めながら、自然の心地よさを堪能できます。
琵琶湖の四方の山々ではいくつもの清流が生まれ琵琶湖に注ぎ続けています。琵琶湖は、その流れをしっかりため込んだ巨大な水瓶です。琵琶湖に流れ込む川はいくつもありますが、流れ出す川は、瀬田川ただ一つです。流れ出た水は、淀川を流れ、大阪湾に注いでいます。私たちは、その流れの中から浄水を作り、神戸の町中までパイプを引いて飲み水を確保しています。
阪神・淡路大震災の際、私たちは、阪神間の水道水がどれほど淀川の水に頼っているかを知らされました。私たちの飲み水の多くは琵琶湖が源なのです。
琵琶湖のすぐ北側には、たくさんの原子力発電所があります。万が一、福島県の様な事故が起き、放射性物質が放出されれば、私たちの水瓶はあっという間に放射能に汚染され、我々の飲み水もたちまち汚染されてしまう運命にあります。
自然環境を守るということは、私たちの命や健康を守ることなのです。
環境の小窓(13)~IPCC横浜会議について~
執筆者:木野達夫 弁護士
3月25日より横浜で開催されていたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の会議が3月31日に閉幕し、地球温暖化の「影響と適応」に関する報告書が発表されました。
報道によりますと、報告書では、温度上昇についての複数のシナリオに基づいて社会が受ける影響と対策について報告がなされたとのことです。
20世紀末に比べて気温が2度上昇すると、各地域の農作物の生産や水資源などに影響を与える、3度上昇すると、生物多様性が広範囲で損なわれる、4度以上の上昇なら世界レベルで主食の栽培が難しくなり、貧困を悪化させ、紛争などにつながりかねない、などと分析されているそうです。
また、今後十分な対策を取っても気温は上がり続け、2030年頃には1900年比で1度以上上昇するとしています。
なお、IPCCは、気候変動をもたらす原因となる二酸化炭素などの排出増加に加えて、途上国の人口増や先進国の少子高齢化現象なども検証に反映させているそうです。
温暖化の問題は、二酸化炭素などの排出だけでなく、貧困問題や人口問題など、人類が抱える大きな難題も絡む複雑な問題のようです。
これからも研究の推移を注意深く見守っていく必要がありそうです。
このような複雑な問題に対する答えは簡単に出るものではないと思いますが、一人一人が関心を持ち続けることが大切ではないでしょうか。
環境の小窓(12)~日本の森について~
執筆者:森 崇志 弁護士
突然ですが、「森」と「林」の違い、ご存じですか。
辞書などでは生えている木の多さの違いとされていたりもしますが、林業の世界では、自然に生えているのが「森」、人の手が入っているのが「林」だそうです。
日本には多くの森林が存在し、日本の森林は国土の約66%を占め、森林面積のうち約40%(国土の約27%)は人工林だそうです。戦後の拡大造林政策のもと、多くの山で植林がなされ、60年経過した現在では、山には緑が生い茂り、綺麗な風景の一部となっています。
しかし、戦後に植林された木は、木材価格の下落などの影響を受け、人の手が入らなくなり、間伐が十分になされなかった結果、木の上部あたりにしか枝葉はなく、また、木1本1本ももやしのようなやせ細った木となってしまっています。森林は、土砂災害防止機能や水源かん養機能など、私たちの生活にとっても欠かせない存在となっていますが、その森林がやせ細っていけば、森林の有する機能の低下を招き、ひいては私たちの生活も脅かされることになるかも知れません。
最近、森林・林業について議論されるようになってきましたが、単に木を間伐すれば解決できることではなく、間伐した木をどのように搬出するのか、さらに、搬出した木をどのように利用するのか、など、様々な問題を解決していかなければなりません。問題の解決には、森林自体の再生が第一ですが、FSC認証(※1)を受けた製品などを選択することで森林保全、再生に貢献することも出来たりします。スターバックスの袋もFSC認証を受けているなど、FSC認証の商品は他にもいろいろとあるみたいですので、また探してみてください。
(※1)FSC認証とは、FSC(森林管理協議会)が、適切な森林管理が行われているか、適切な管理が行われている森林からの資源で製品がつくられているかどうかなどの基準から製品等を審査し、基準をクリアした製品等に対して認証するという制度です。認証取得者は、FSCロゴマークを製品等に使用出来るようになります。
環境の小窓(11)~被災地での田んぼの復興~
執筆者:小沢秀造 弁護士
最近湿地保全の集会に参加しました。田を湿地として位置付けることは、ラムサール会議、生物多様性会議でなされています。
ふゆみずたんぼと言いまして、冬に田に水をはることによって、渡り鳥などが餌をとる場などにいかし、有機農業などをするすばらしい実績のある運動が有名です。
東北の震災で田んぼが塩を残してしまいました。そのままでは生物が育ちません。除塩のために化学物質をつかったり、土壌の大幅な入れ替えを行うと、土壌の性質や周辺の生態系に大きく影響があるという問題意識があります。そこで、水をはることによって塩を作土層より深く押し下げることができました。宮城県、岩手県などで複数個所で田んぼの復興が成功したようです。私も参加しましたが、日弁連でも2002年バレンシア第8回ラムサール会議の際訪問したスペインのエブロデルタで実績があります。
最初は、表層の小さなガラスを取り除く作業から始まり、多くのボランティアも活躍しているそうです。ボランティアの助けを借りて東北大学、NPO田んぼによる継続的なモリタニングがなされています。
すばらしい取り組みだと思います。
環境の小窓(10)~広がるアスベスト被害~
執筆者:伊藤明子 弁護士
2013年12月25日、大阪高裁は、泉南アスベスト国賠2陣訴訟において、3度目の原告勝訴判決を言い渡しました。大阪・泉南地域は、100年にわたるアスベスト産業の集積地であり、戦前から現在まで深刻な被害が続いています。判決は、実に55年も前の1958年から95年まで、約38年間にわたる国の不作為責任を認めました。
国は、抽象的な規制や一片の通達を出して事足れりとするのではなく、採った措置が実際に健康被害を防止する効果を上げているかどうかを絶えず検証しなければならない。不十分であればその時々の最新の知見に基づいて健康被害を防止すべく、速やかに新たな規制を行わなければならない。判決は、こうした当たり前のことを指摘しています。アスベスト被害に限らず、国民の命や健康に関わる行政全般について言えることではないでしょうか。
2005年6月のいわゆるクボタショックから9年近くが経過し、アスベスト問題は既に解決済みと思われている方もいるかもしれません。
しかし、アスベストによる病気は、今やわが国最大の職業病であり、毎年1000人以上が労災等の行政認定を受けています。ばく露から発症まで20~50年もの長い潜伏期間があるうえ、アスベストが様々な産業で広く用いられていることから、今後ますます被害者が増えることが予想されています。
また、日本に輸入された約1000万トンのアスベストの多くは建材に利用されており、建物の解体に伴う新たなアスベストばく露も懸念されています。昨年3月には大気汚染防止法が改正され、建物解体時のアスベスト飛散防止対策が強化されましたが、現実にはずさんな手抜き工事も報道されています。
さらに、阪神・淡路大震災から19年が経過し、震災がれきの処理にあたった方のアスベスト被害も明らかになりつつあり ます。東日本大震災では放射線被害が注目されがちですが、「静かな時限爆弾」であるアスベスト被害の教訓を活かすことも重要と思われます。
参考:日弁連「大阪・泉南アスベスト国家賠償請求第2陣訴訟大阪高等裁判所判決に関する会長声明」http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2013/131225_2.html
環境の小窓(9)~ジュゴンと辺野古埋め立て~
執筆者:永井光弘 弁護士
ジュゴン(DUGONG)という生き物を知っていますか?
成長したジュゴンは、体長3m、体重400㎏ぐらいになります。インド洋や太平洋西部の熱帯沿岸域に生息しており、沖縄本島はその生息域の北限にあたります。マナティーと似ていますが、ジュゴンはしっぽがイルカのように三日月形で、海にしか住めません。生態について詳しくわかっていませんが、親戚のマナティーとおなじくらいだとすればその寿命は約70年、人間と同じくらいです。
名前の由来はいろいろな説がありますが、DUYUNG(インドネシア語;きれいなお姉さん)、儒良(中国語)と言われています。なお、沖縄本島では「ざん」(犀魚)と呼ばれています。
文化財保護法では天然記念物に指定され、環境省レッドデーターブック絶滅危惧1A類、国際自然保護連合(IUCN)レッドデータブックでも「危急種」に分類されています。
その昔、海の生き物は住み場所を求め、陸に上がって生活を始めました。ジュゴンは、いったん陸に上がってからもう一度海に戻って生活することにした生き物です。だから、食べ物もワカメなどのいわゆる海藻ではなくて、(ジュゴンと同じように)陸から海に住処を移した「海草」なのです(リュウキュウスガモなど)。
日本では、わずかに一頭だけ、鳥羽水族館で飼育されており、会うことができます(世界の水族館でも飼育例は4例ほど)。沖縄本島付近のジュゴンはわずか3頭しか生息が確認されていません。
さて、政府は普天間基地の代替の米軍基地を作るため、沖縄名護市の東海岸側にある辺野古岬及び大浦湾を埋め立てようとしています。
埋め立て予定地には、ジュゴンのえさとなる「海草」が豊富で、ジュゴンの食み跡も多く観察されることからジュゴンの保全のうえで最も重要な海域です。また、湿地としてみても埋め立て予定地は環境省が平成13年に選定した日本の湿地500に2つも該当しており、また、沖縄県の「自然環境の保全に関する指針」で自然環境の厳正な保護を図る区域とされている、重要な湿地です。
辺野古埋め立てに関する環境アセスメントにおいても3500通を超える意見が寄せられ、多くが埋め立て反対の意見だったようです。
今年の末頃には、名護市の意見が表明され、これも受けて来年初めには沖縄県の意見が埋め立てに「同意」するか否かが明らかになります。沖縄県は基本的には普天間の県内移設に反対しており、環境アセスも厳しめに行っていますが政治判断でどうなるかわかりません。
しかし、ジュゴンが生息できる豊かな海を守ることは、沖縄県のみならず日本国民の利益になるものですから、沖縄県の判断に注目したいと思います。
環境の小窓(8)~都市環境について~
執筆者:木野達夫 弁護士
環境といっても様々なものがあります。
一般的に思いつくのは「自然環境」ですね。美しい山、川、海、多様な生態系、できることなら最大限守りたいものですね。
このように環境というと、一般的には「自然環境」のことを思い浮かべますよね。
しかし、環境には、自然環境の他にも、「都市環境」「職場環境」「家庭環境」などいろいろなものがあります。
自然環境を守りたいという気持ちは、ほとんどの方がお持ちだと思います。では、「都市環境」はどうでしょうか?
一口に都市環境といっても様々ですが、例えば、町並みの美しさ、家の窓から見える風景、というような美観に関するものや、歩道や自転車道が整備されていて歩行者や自転車に優しい、というのも都市環境といえるでしょう。
このような「都市環境」については、多くの人は日常生活において、「守りたい」と意識していないかもしれませんね。
一度、みなさまの町をじっくりと眺めてみてはいかがでしょうか。守りたい「都市環境」が見えてくるかもしれませんよ。
環境の小窓(7)~日弁連「電磁波問題に関する意見書」について~
執筆者:伊藤明子 弁護士
2011年5月にIARC(国際がん研究機関)が、携帯電話から発せられる電磁波等が含まれる高周波の発がん性リスクを2Bとランク付けしたこと等を受け、電磁波の健康被害に関する国民の関心が高まっています。
携帯電話や電子レンジなどから出る電磁波は、私たちの身の回りに溢れていますが、その健康影響はまだ詳しくわかっていません。ただ、電磁波と一定の疾患との関連性を指摘する多くの研究や報告があること、また、電磁波過敏症と呼ばれる症状に苦しんでいる人々がいることは事実です。さらに、日本の電磁波の基準値よりもはるかに厳しい基準値をとっている国々があり、日本が準拠する基準が緩すぎると指摘する欧州議会の決議等が存在することも事実です。
こうした中、日本弁護士連合会は、2012年10月、「電磁波問題に関する意見書」をとりまとめ、総務、経済産業、環境、厚生労働の各大臣に提出しました。
意見書では、予防原則に基づいて幼稚園、小学校、病院などがある地域では他の地域より厳しい基準を設けること、携帯電話中継基地局などを新設する場合、住民に説明し協議する制度の実現、基地局の位置情報の公開等のほか、電磁波の健康被害に関する公正な研究を進めること、高圧電線、基地局周辺の住民の健康被害や職業曝露と健康被害についての実態調査、電磁波過敏症対策として、人権保障の観点から公共施設や公共交通機関にオフエリアをつくること等の検討を求めています。
今後も、私たちの身の回りの電磁波は増え続けるでしょう。しかし、便利さを優先し、危険性を軽視したツケが、取り返しのつかない健康被害となって現れる場合があることを、私たちは水俣病やアスベスト問題から学んでいるはずです。手遅れになる前に、予防原則の観点から、今できること、今やっておくべきことを、一緒に考えてみませんか。
*日弁連「電磁波問題に関する意見書」はこちらから*
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2012/120913_4.html
環境の小窓(6)~まとめておこう放射能~
執筆者:永井光弘 弁護士
放射能についてはいろんな単位が出てきます。代表的なものがシーベルトとベクレルです。今回は、まず、シーベルトについてまとめておきましょう。
ベクレルは「放射能を出す能力」を示す単位です。これに対して、シーベルトは、「放射能の人体への影響」を示す単位です。
さて、今回はまず、外部被曝(放射能が外から飛んできて皮膚などにあたる状態)に関してまとめていきます。いろいろ意見はありますが、この段階ではICRP(国際放射線防護委員会;注1)の見解(2007年勧告)を前提とします。
まず、ICRPは一般の人が浴びても差し支えない1年間の被曝の基準を1ミリシーベルトとされます。
また、よく引用されるのが、年間100ミリシーベルトであり、これを超えるとガンのリスクが0.5%上昇するとされます。その他の人体に対する影響と数値は、下記の表1を見てください。
では、外部被曝が100ミリシーベルト以下ではどうなのでしょうか?浴びて差し支えない量が年間1ミリシーベルトなのですから、当然に1を超え100ミリシーベルトまでの間はどうなんだという疑問が出ます。「低線量被曝」の問題です。実は、研究者の中でも意見が分かれ、ガンのリスクが上がるというはっきりした証拠はありません。
しかし、IPCPは「必要のない放射能はできるだけ浴びない方が良い」という考えに基づいて、100ミリシーベルト以下でも被曝量に応じてガンの確率が上がっていくという仮説を採っています(しきい値なし仮説=LNT仮説)。
ただ、ICRPは、平時の基準こそ年間1ミリシーベルトとしますが、緊急時(原発事故とかを想定)には、被曝量が年間20~100ミリシーベルトの範囲にとどまるように対策を講じるべきだとし、事故からの復旧期は20ミリシーベルト以下にとどめるべきだとしています。
これを受けて、日本の原子力安全委員会が作成した「原子力施設等の防災対策について」では、全身に50ミリシーベルト以上被曝する場合は「コンクリート建屋の屋内に退避するか、または避難すること」、10~50ミリシーベルトの場合は「屋内退避」すること、と定めています。ちなみに、これは放射性物質の雲(プルーム)が通り過ぎるまでの一時的措置で、例えばIAEAでは「避難」は7日間、「屋内退避」は2日間しか想定していないことに注意すべきです。
そこで、政府は、4月22日に年20ミリシーベルトを超えるおそれのある区域を「計画的避難区域」と指定し、住民に避難を求めています。
なお、テレビを見ていると、放射能の単位として、一時間あたりの被曝量の計測をしている場合が多いです。
本来なら、20ミリシーベルトを前提とすると、
20ミリシーベルト(年間)÷365(日)÷24(時間)=0.00228ミリシーベルト(※1ミリシーベルトは1000マイクロシーベルトだから2.28マイクロシーベルト)となりそうです。
しかし、政府の計算では、屋外8時間・屋内16時間とし、屋内の被曝量は屋外の0.4倍という操作を経て(1日を14.4時間として)、年間20ミリシーベルトを前提としながらもこれに対応するのは毎時3.8マイクロシーベルトという基準を出しています。
政府の計算でいっても3.8マイクロシーベルト毎時は、年間20ミリシーベルトに相当すると覚えておくべきでしょう。
次回は、論争の多い内部被曝の問題を取りあげます。
【表1】
外部被曝量(左)に対する人体への影響(右)
100ミリシーベルト ・・・ 精巣に影響、一時的不妊
300ミリシーベルト ・・・ 胎児に重篤な精神遅滞
6000ミリシーベルト ・・・ 精巣に影響、永久不妊
7000ミリシーベルト ・・・ 致死 │
【注1】
ICRP(国際放射線防護委員会)とは
放射線に関する専門家でつくる政府とは独立した非営利組織。その勧告は、この分野では最も権威あるものとされ、WHO(世界保健機関)、IAEA(国際原子力機関)等の国際機関も基準作りの参考としている。
参考資料;「緊急解説 福島第一原発事故と放射線」(NHK出版新書)
「原発と放射能 緊急特集第2弾」(ニュートン2011年7月号)
環境の小窓(5)~遠くて近い、温暖化問題~
執筆者:森 崇志 弁護士
2010年の漢字は「暑」でした。
記録的な猛暑が続き、熱中症で倒れる人が続出し、異常気象が叫ばれました。
しかし、この温暖化は、科学者による国際的な研究によって、人為的な温室効果ガス(主に二酸化炭素)によって引き起こされていることはほぼ明らかとなりました。
そして、今後も現在と同じように、経済発展重視の社会で進んでいくと、21世紀末には最大で6.4度の平均気温上昇が引き起こされるそうです。
地球温暖化問題は、これまでの公害問題と異なり、私たちは被害者でもあり、加害者でもあります。そして、今生きている人だけでなく、将来生まれてくる子ども達にも関連する問題です。
地球温暖化問題解決のために、大規模排出源はさらなる削減を進めていかなければならないことはもちろんですが、私たちも身近なことから取り組んでいく必要があります。
将来生まれてくる子ども達のためにも、今から始めませんか?
環境の小窓(4)~じゃがバター塩辛つき~
執筆者:伊東香保 弁護士
仕事と観光を兼ねて、札幌プリンスホテルに3泊した。
ここでのエコ活動を紹介する。
その1。シーツやタオルの取り替えをしないと1泊につき500円の商品券(ホテル内でのみ通用)を提供する。多くの宿泊施設で、「交換しなくていい」といえば翌日も再使用する制度を採用しているが、対価が頂けるというのは初めてであった。そこで、じゃがいも大好き人間の私は貰った金券でじゃがいものスープを買った。
その2。ペットボトル等の資源ゴミとその他のゴミの分別は当然としても、「キャップ」だけを別途集めており、テーブルの上の印刷物の上に載せておくようにとの指示である。
神戸市中央区では「キャップ」は燃えないゴミに分別されている。ところが「キャップ」を集めて車椅子に替えた話などを見聞きするので、かねてよりこれも資源ゴミなのにな、と思っていた私は喜んで協力した。とはいえペットボトル自体も再使用したので結局溜まった「キャップ」はふたりで5~6個だけだった。
少しずつではあるが、世の中は変わっているようだ。
それにしても「すすきの」の高級料亭?で食べた「じゃがバター塩辛つき」は、おいしかったなぁ。
環境の小窓(3)~路面電車~
執筆者:佐伯雄三 弁護士
最近、かって神戸市街地を縦横に走っていた神戸市電の本を見た。
神戸市内に市電が走っていたことは私の年代のものは知っているが、神戸は坂の多い町にもかかわらず、東西方向を中心に市電(15系統も)が走っていたのである。裁判所と湊川神社の間のあの道にも市電が走っていた。
しかし、昭和46年3月に神戸市内からは市電は姿を消した。
かって大都市では一斉に自動車走行のじゃまになるとして撤去されてしまった。
そのツケを今、払わされようとしているのではないか。
市電のような路面電車は、今、環境にやさしい乗り物として全世界的に注目を集めている。
新しい乗り物として路面電車を誘致しようという動きもある。
単に公共事業投資という観点ではいただけないが、自動車に代替できるなら、環境の面でも寄与が期待できる。
世界各地には美しい路面電車が走っている。
私が一番好きなのはフランス、ストラスブールの路面電車(LRTという)である。
無駄な公共事業としてではなく、市民の足、弱者の足として地域交通をになえる路面電車の再登場は夢なのだろうか。
環境の小窓(2)~生物多様性~
執筆者:小沢秀造 弁護士
今年10月名古屋市において、生物多様性条約第10回締約国会議が開催されます。
一昔前まで、自然保護、開発反対の根拠として貴重な動植物が生存し、その生存が危機にさらされるからという理由が多くの人を引きつけてきたと思います。
1993年に生物多様性条約が発効しました。
最近は貴重な動植物の生存を含めた生物多様性という考えかたが脚光を浴びています。
兵庫県では豊岡の「コウノトリ育む農業」が注目を集めています。
減農薬、無農薬で、安全・安心なお米の生産と多様な生き物を同時に育むというものです。農協、NGO、行政が連携しうまくいっている例として、平成22年版環境白書にも取り上げられています。
景観権は裁判所で認める法的な概念になっていますが、生物多様性も今後、開発に反対する際の有力は法的な概念になることが期待されます。
環境の小窓(1)~あなたは、私は、大丈夫?-アスベストは「静かな時限爆弾」~
執筆者:伊藤明子 弁護士
日本では、1960~90年代にかけて1,000万トンを超えるアスベストが輸入され、3000種類もの用途に使用されてきました。建物の耐火被覆としての吹き付け石綿、天井材などの建材のほか、水道管や自動車ブレーキ…身近なところでは、魚焼きの網やトースター、ヘアドライヤーなどにも使われていました。
学校教員や文具店経営者、パン職人、杜氏など、一見アスベストとは何の関係もなさそうな人もアスベストの病気で亡くなっています。
知らないうちに吸い込んだ後、何十年も経ってから恐ろしい病気を発症するのが「静かな時限爆弾」アスベストの被害なのです。
アスベストを使った建物の解体は2020年~40年にピークを迎えますが、解体時に作業者や周辺住民などの新たなアスベスト曝露の可能性があると言われています。
中皮腫による死亡者数は、今後40年間で10万人に達するとも予想されています。
史上最大の労災・公害と言われるアスベスト被害は、あなたにとっても、思いの外、身近な問題です。
アスベスト被害の根絶は、国民みんなの課題なのです。