意見表明

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地方消費者行政の維持・強化を求める意見書

2025年(令和7年)3月4日

兵庫県弁護士会

 会長 中 川 勘 太

第1 意見の趣旨

 当会は、国会及び政府に対して、消費者被害を防止・救済するため、地方消費者行政に関し国が必要な財源措置を行うよう、次のことを要請する。

1 消費者が全国どこにいても消費者問題専門家による消費生活相談を受けられる体制の維持・整備をはかるため、地方消費者行政推進事業に対する地方消費者行政強化交付金の交付期限を相当期間延長するか、少なくとも、同交付金と同様に消費生活相談員の人件費にも充てることができる交付金等の財政支援を早急に措置すること。

2 消費生活相談窓口で相談を担う専門家である消費生活相談員につき、専門性に見合った待遇のもとで安定して勤務できるよう、国が予算措置を講じて専門職任用制度の創設や整備を行うこと。

3 国が進める地方消費者行政のDX化にかかる予算、特にPIO-NETの刷新・消費生活相談のデジタル化により地方公共団体に生じる費用を国において措置すること。

4 国全体の消費者被害防止の意義を有する事務として円滑な運営を推進する必要があるものに対し、地方財政法第10条を改正して国の恒常的な財政措置を検討すること。

第2 意見の理由

1 強化交付金について(意見の趣旨第1項)

 消費者被害・トラブル額は、令和5年1年間で約8.8兆円と言われている。これらの消費者被害を防止・救済するためには、相談体制を確保することをはじめとした地方消費者行政の継続・強化が非常に重要である。全ての地域において専門の相談員による相談を受けられる体制を確保するためにも、地方公共団体が消費者行政を推進していくことが喫緊の課題となっている。

 このため、国は、自治体の消費者行政、特に消費生活相談の充実強化に向け、2009年度から地方消費者行政活性化交付金、2012年度から地方消費者行政推進交付金を設け、2018年度から現行の地方消費者行政強化交付金[1](以下「強化交付金」という。)に移行し、財政支援を続けてきた。しかし、この強化交付金が2025年度末をもって、一部の例外的措置を除いて基本的に終了となる。相談員人件費に充てることができる強化交付金が途切れてしまうと、財政力の弱い自治体では一般財源で消費生活相談員を任用する財政基盤がなく、消費生活相談員の任用をすることができず、専門的な相談体制を維持することができなくなる恐れがある。

 消費者被害防止・救済の施策は国民が安心して暮らすため不可欠である以上、国は、強化交付金の交付期限を相当期間延長するか、少なくとも、同交付金と同様に消費生活相談員の人件費にも充てることができる交付金等の財政支援を早急に措置するべきである。

2 相談員の待遇について(意見の趣旨第2項)

 消費生活相談窓口で相談を担う専門家である消費生活相談員は、近年、高齢化が指摘されている[2]

 高齢化による相談員の退職が今後予想される中、新規・若手の相談員の成り手が少ない状況にあり、担い手不足の深刻化が始まっている。消費生活相談員の成り手不足の原因として、消費生活相談員の雇用に用いられている会計年度任用職員制度では、専門性が高い業種に見合う処遇が得られず、また、任期制で安定雇用が確保されていないことを指摘しうる。国が予算措置を講じて専門職任用制度の創設・整備をすることにより、消費生活相談員の担い手不足の解消を図るべきである。

3 DX化の費用について(意見の趣旨第3項)

 消費者庁は、現在、PIO-NETシステム[3]を刷新し、消費者向けウェブサイトや相談支援システム、相談分析、情報提供システム等のシステム基盤の整備を行うというDX化計画を進めている。国は新たなPIO-NETシステムを地方公共団体共通のLGWANシステムの中に位置づけ、端末機の配備等につき何らかの財政支援措置を講ずる方針を示している。しかし、新システムの運用において、各地方公共団体に新たな財政負担が生じることが危惧されている。

 PIO-NETに登録される情報は、相談現場における助言・あっせんのための情報としての役割以外に、法執行の端緒や立法政策の根拠ともなるものであり、全国的に被害情報収集・集約をすることが国の消費者行政施策に不可欠である。

 PIO-NETのシステムにより、消費生活相談情報を全国一律に一元的に集約し活用する仕組みが維持できるよう、地方消費者行政のDX化にかかる導入・運用の費用は、国において負担するべきである。

4 国による恒常的財政負担の必要性について(意見の趣旨第4項)

 地方財政法第10条は、「地方公共団体が法令に基づいて実施しなければならない事務であって、国と地方公共団体相互の利害に関係がある事務のうち、その円滑な運営を期するためには、なお、国が進んで経費を負担する必要がある次に掲げるものについては、国が、その経費の全部又は一部を負担する。」として、全国的に影響する事項や地域格差を解消し最低限の水準を確保すべき事項を同条各号に列挙している。しかし、現在、消費者行政費用はこれに規定されていない。

 前述のとおり、消費者被害防止・救済の施策は国を挙げて取り組むべき課題であり、地方公共団体が担っている事務のうち、消費生活相談(その成果は法執行の端緒や立法政策の根拠となる。)、PIO-NET登録事務、重大事故情報の国への通知事務、法令違反業者に対する行政処分事務、適格消費者団体の活動支援事務等については、そもそも、国の事務と言っても差し支えのない性質を有する。

 そこで、実質的に国の事務の性質を有する消費者行政に係る経費の全部又は相当部分について、地方財政法第10条を改正し、国による恒久的な財政負担を検討するよう求めるものである。

以 上


[1] 地方消費者行政強化交付金は、地方公共団体の消費者行政の強化・推進のために交付される補助率原則50%の国からの交付金であり、地方公共団体において消費生活相談体制の維持・充実に使用することができる。

[2] 消費者庁「令和5年度地方消費者行政の現況調査」24頁「消費生活相談員の年代」によれば、60歳以上48.2%、50歳以上84.5%である。

[3] PIO-NETシステム(全国消費生活情報ネットワークシステム)は、国民生活センターと全国の消費生活センターをネットワークで結び、消費者から各地の消費生活センターに寄せられる消費生活に関する苦情相談情報の収集を行っているシステムであり、そこで集約された情報が、消費者へ悪質商法に関する啓発、法違反を犯した事業者への指導・規制の端緒、消費者法制度の見直しのための立法事実等に利用されている。

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