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令和6年能登半島地震被災者に対する応急仮設住宅供与期間延長を求める会長声明

2025年(令和7年)3月4日
兵庫県弁護士会
会 長 中 川 勘 太

第1 声明の趣旨

1 国及び石川県は、令和6年能登半島地震及び奥能登豪雨災害の被災者に対する応急仮設住宅の供与期間に関し、被災時の居住形態を理由として供与期間に差を設ける取り扱いを早急に是正すべきである。
2 国及び石川県は、応急仮設住宅の被災者に対し、供与期間を2年以内に限定せず、被災者の希望に適した恒久的な住まいが確保できるまでの十分な供与期間を設定すべきである。

第2 声明の理由
1 石川県による応急仮設住宅供与期間の設定
 石川県は、2024年(令和6年)1月に発生した能登半島地震及び同年9月に発生した奥能登豪雨災害に関し、内閣府と協議の上、応急仮設住宅の供与期間について、災害時に持ち家に居住していた被災者については入居日から2年以内、賃貸住宅・公営住宅に居住していた被災者については入居日から1年以内として、災害時の居住形態により被災者が応急仮設住宅に入居できる期間に差を設けている。その後、令和6年1月から3月までに応急仮設住宅に入居した、災害時に賃貸住宅・公営住宅に居住していた被災者のうちの一部について、退去期限を本年3月末日まで延長する措置をとったが、その退去期限が迫っている状況にある。
 入居期間に差を設けた背景には、災害時に賃貸住宅・公営住宅に居住していた被災者については、別の賃貸住宅を確保する等、災害後の住まいの再建にかかる期間が持ち家に居住していた被災者よりも短くて済むとの想定があると考えられる。

2 能登半島地域の被災後の状況及び差別的取扱いの不合理性  
 しかし、持ち家、賃貸住宅・公営住宅のいずれであっても、同じエリア内であれば等しく被災しているため、被災者が住み慣れた居住地において新たな住まいを確保しようとする場合、被災時に賃貸住宅・公営住宅に居住していた被災者の方が持ち家に居住していた被災者よりも早く住まいの確保ができるとは限らない。そのため、上記のような想定の下、一律に応急仮設住宅に入居できる期間に差を設けることに合理的な根拠があるとはいえない。
 さらに、能登半島地震及び奥能登豪雨災害に関しては、上記のような想定がより一層妥当しない。もともと能登半島、特に奥能登地域は、都市部などと比べて賃貸住宅の数が少ない上、能登半島地震及び奥能登豪雨災害により、数が少ない賃貸住宅自体も甚大な被害を受け、多くの住宅が居住できない状態となった。また、被害を免れ居住可能な状態で残った賃貸住宅についても、被災地の復旧、復興に携わる関係者に提供されるなどした結果、被災者が従来居住していた被災地の周辺で新たに賃貸住宅を確保することは極めて難しい状況にある。今後も能登半島の復旧復興事業はますます本格化することが想定されるため、被災者にとって、被災地域での賃貸物件の確保が困難な状況が続く可能性は高い。
 にもかかわらず、被災地の実情を考慮することなく、都市部を想定して短く設定された期限を理由に応急仮設住宅からの退去を迫ることは、個人の生命・身体の安全の観点から問題があるだけでなく、被災者にとって住み慣れた居住地、コミュニティからの転居を余儀なくさせるものであり、個人の尊厳や幸福追求権(憲法13条)、居住移転の自由(憲法22条)への大きな制約となり得るものである。
 石川県は、「1年以内に新たな物件に入居することが困難な場合には、県と市町の協議・同意により、1年の範囲内で延長ができます。」と発信しており、延長の余地があることは示している。しかし、前記のとおり、被災地の実情からすれば、元の居住地において「1年以内に新たな物件に入居することが困難な」状況にあることは明らかである。「1年」という期限には現実的な合理性がないだけではなく、被災者にとって、大きな心理的負担を生じさせ、元の居住地における生活再建をあきらめる要因となっていることからすれば、そもそもそのような差異を設けるべきではない。
 したがって、能登半島の被災地の現状に鑑みれば、少なくとも、令和6年能登半島地震及び奥能登豪雨災害の被災者において、被災時に持ち家に居住していたか、賃貸住宅・公営住宅に居住していたかにより取扱いに差を設けるべきではなく、声明の趣旨1記載の通り、国及び石川県は、早急に供与期間に差を設ける取扱いを是正すべきである。
3 応急仮設住宅の供与期間の延長
 応急仮設住宅の供与期間は2年以内とされているが(災害救助法施行令5条に基づく大臣告示、建築基準法85条4項等)、能登半島地震は特定非常災害に指定されていることから、制度上、供与期間を更に1年延長することができる(建築基準法85条5項)。
 しかし、建設型応急住宅については現代の技術水準に照らすと長期の使用に耐え得る性能を備えているため供与期間を2年以内とする理由が乏しいし、賃貸型応急住宅については建築基準法85条4項の期間制限を受けないから、原則としての供与期間である2年以内に限定する必要はない。
 そもそも、仮設住宅は被災者の生活再建が進み恒久的な住まいが確保できるまでは供与されるべきであり、被災地の実情に即した運用がなされなければならない。
 実際、同様の地震被害である阪神・淡路大震災では、合計で4万8300戸の応急仮設住宅が建設されたが、恒久的な住まいの建設に期間を要し、約5年まで供用期間が延長された。その後の平成28年熊本地震でも約7年まで仮設住宅の供与期間が延長されている。
 したがって、声明の趣旨2記載の通り、国及び石川県は、能登半島地震及び奥能登豪雨災害の被災者が、被災地の復興状況等を考慮しながら、自身の希望に適した生活再建の住まいを検討・確保することができるようになるまで、2年以内に限定せずに応急仮設住宅供与期間を延長すべきである。

                           以上

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