2025年(令和7年)1月17日
兵庫県弁護士会
会 長 中 川 勘 太
1995年(平成7年)1月17日午前5時46分に発生した阪神・淡路大震災から30年を迎えました。当時、大地震をほとんど想定していない中、震度7を記録する都市直下型地震により、死者6434名、行方不明者3名、重軽傷者約7万7000人、住家の全半壊約25万棟など、極めて深刻な被害が生じました。
当会会員の多くも被災しましたが、当会は、地震直後から弁護士会館を避難所として開放し、1月26日から、近畿弁護士会連合会、岡山弁護士会、徳島弁護士会等のほかボランティアの弁護士から支援を受け、全国から義援金をいただき、当会会館や被災自治体の庁舎において法律相談を実施するなど、被災者に対する継続的支援を行ってきました。また、1996年(平成8年)9月には、大阪弁護士会、近畿司法書士会連合会、近畿税理士会をはじめとする6職種9団体(現:賛助会員含め10職種12団体)で全国初の士業連絡会である「阪神・淡路まちづくり支援機構」(現:近畿災害対策まちづくり支援機構)を創設し、ワンパック相談会やまちづくり事業への専門家派遣による支援活動に取り組んできました。
さらに、多数の相談結果を立法事実として集約し、罹災都市借地借家臨時処理法の運用改善及び廃止、被災マンション法の制定及び改正についても積極的に提言を行ってきました。一方、長年問題となっていた災害援護資金貸付償還免除問題については、30年近く経って解決の見通しが立ったものの、二重ローンなど震災をきっかけに困窮し救済されなかった人々の問題、震災障がい者問題、借上げ復興住宅問題、被災者を置き去りにした都市再開発問題など、未だに個々人の復興がなされていない現状があります。
阪神・淡路大震災後には、被災者への支援制度の乏しさが教訓となり、住家被害を受けた方に支援金を給付する被災者生活再建支援法などの制度が創設されました。近年では、自然災害債務整理ガイドライン、高齢被災者向けリバースモゲージなど、30年前と比較すると被災者の生活再建を支援する制度が拡充しています。
しかし、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、そして、昨年の能登半島地震をはじめとする近年の被災地の状況をみますと、災害救助法の硬直的な運用、被災者生活再建支援法の不十分な支援内容、罹災証明をめぐる混乱、災害関連死の発生、在宅被災者の増加など、被災者一人ひとりに目を向けた生活基盤の再建のための制度が依然として不十分です。また、災害のたびに、現場尊重に反する緊急事態条項の議論が起きますが、阪神・淡路大震災における復興まちづくりの教訓は、トップダウンよりも地域住民の意向の反映こそが重要であるということであり、被災者の声に耳を傾けていく必要があります。
昨今、被災者一人ひとりの被災状況や生活状況の課題等を個別に把握し、その人の支援にかかわる関係者と官民問わず連携しながら、課題解決に向けて寄り添った支援をする「災害ケースマネジメント」の考え方が浸透し、国の防災基本計画にも明記されましたが、まだまだその担い手とつなぎ手が不足しているのが現状です。
当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を目的とする団体として、一人ひとりの被災者の人権を回復することこそ復興であるとの阪神・淡路大震災の教訓を活かし、まさに災害ケースマネジメントを実践するための活動や提言を続けてきました。近年では、兵庫県及び県内41市町のうち35市町との災害連携協定を締結し、県内での迅速な災害支援が実現できるよう努めています。今後とも引き続き、他の被災地域の弁護士会、弁護士会連合会、日本弁護士連合会、士業団体、行政との連携を通じて、阪神・淡路大震災の被災者、及び、他の被災地域の被災者の「人間の復興」のために尽力して取り組む所存です。
以上