1 法制審議会が「選択的夫婦別氏制度」を導入する「民法の一部を改正する法律案要綱」を答申したのは1
996年2月であり、同制度は実現を見ないまま、既に30年近くが経とうとしています。
2 現行の民法第750条によれば、婚姻に際し、夫婦のいずれかが氏を変えなければなりませんが、婚姻し
た夫婦のうち、氏を変更したのが妻である割合は95%です。
そして婚姻による氏の変更について、夫婦ともそれを望まない場合、氏を変更せざるを得なかった当事者
は、生来の氏名を使い続けることができないという人格的利益の喪失とそれによる様々な不利益を被って、
苦しんできました。加えて、その配偶者も、法律に従った婚姻をしたことにより、氏の変更を望まない当事
者が婚姻により氏を変更せざるを得なかったその結果に苦しんでいることに痛みを感じ続けています。
現行法は、⑴人格権の一内容である「氏」を婚姻の際に変更するよう強制している点において、人格権を
保障した憲法第13条に違反し、⑵氏を変更したくない者は婚姻できないという不利益を甘受しなければな
らない点において、不合理な差別を禁止した憲法第14条に違反し、⑶婚姻に両性の合意以外の要件を付し
ている点において、婚姻が両性の合意のみに基づいて成立するものと定めた憲法第24条に違反していると
言わざるを得ません。
3 国は、生来の氏に関して、通称使用の使用範囲が拡大されることにより、婚姻による氏の変更による不利
益を回避できるとしてきましたが、生来の氏の通称使用は、婚姻した妻(あるいは夫)にダブルネームを認
めることであり、ダブルネームである限り人格的利益の喪失がなかったことになるわけではなく、氏の変更
によって生じた本質的な問題は解決されませんし、むしろ、旧姓の通称使用を認めるということは、夫婦同
氏制自体に不合理性があることを認めることにほかなりません(最高裁決定令和3年6月23日宇賀克也、
宮崎裕子両裁判官の意見34頁参照)。
さらに経済活動上、通称使用にはダブルネームによる弊害や課題が多いことが、今年6月、経団連が詳細
な資料を付けて、政府に対し、選択的夫婦別氏制度の早期実現を求めたことに示されています(「選択肢の
ある社会の実現を目指して~女性活躍に対する制度の壁を乗り越える~」2024年6月18日一般社団法
人日本経済団体連合会)。
4 「夫婦同氏」のみしか選択肢がない国は、現在、世界で日本だけとなっています。
女性差別撤廃委員会からは、日本政府に対し、2003年以降、4度にわたり、女性が婚姻前の氏を保持
することを可能にする法整備が勧告される、という不名誉な現状も見過ごせません。
最高裁は今日まで2度にわたり民法第750条を合憲としましたが、これは「選択的夫婦別氏制度」の導
入を否定したものではなく、夫婦の氏について、国会で論じられ判断されるべきことであるとして、国会で
の議論を促したものです。
5 以上の理由から、「夫婦同氏」を義務付ける民法第750条を速やかに改正し、「夫婦別氏」も選択できる
よう、「選択的夫婦別氏制度」を速やかに導入すべきです。当会は、2016年2月29日付けで、「夫婦同
姓の強制及び再婚禁止期間についての最高裁判所大法廷判決を受けて民法における差別的規定の改正を求め
る会長声明」を、2021年7月21日付けで、「最高裁大法廷決定を受けて、改めて、民法第750条を
改正し選択的夫婦別氏制度の早期実現を求める会長声明」をそれぞれ発表し、選択的夫婦別氏制度の導入を
繰り返し求めてきましたが、改めて国に対し、夫婦同氏を義務付ける民法第750条を改正し、選択的夫婦
別氏制度を導入するよう求めます。そして、その早期実現のため、全力を挙げて取り組む決意です。
以上のとおり決議する。
2024年(令和6年)12月18日
兵 庫 県 弁 護 士 会
【提案の理由】
当会は、前記決議案5記載の通り、これまで2016年2月29日付け、2021年7月21日付けの2度にわたって会長声明を発表し、選択的夫婦別氏制度の導入を繰り返し求めてきましたが、未だ、選択的夫婦別氏制度を導入する民法第750条の改正は実現されていません。
本年は、日本弁護士連合会が6月14日の定期総会において「誰もが改姓するかどうかを自ら決定して婚姻できるよう、選択的夫婦別姓制度の導入を求める決議」を行ったことに加えて、経済界からも、選択的夫婦別氏制度の早期導入を求める意見も出されており、早期導入への意見の高まりも認められるところであり、当会、全国の単位会、そして日本弁護士連合会が長年求めてきた国会での議論が今度こそ進められるべきであることから、改めて、兵庫県弁護士会の意見を明確にし、国に対し、夫婦同氏を義務付ける民法第750条を改正し、選択的夫婦別氏制度を導入するよう求めるべく、決議を求めるものです。
以 上