2024年(令和6年)11月27日
兵庫県弁護士会
会長 中 川 勘 太
第1 意見の趣旨
神戸市が、消費生活条例(現在の名称:神戸市民のくらしをまもる条例)について、市長に消費者基本計画の策定を義務づけている規定を削除する条例改正をすることに反対し、今後とも神戸市において神戸市独自の消費者基本計画の策定を続けるよう求める。
第2 意見の理由
1 神戸市は、このたび、消費生活条例(現在の名称:神戸市民のくらしをまもる条例)を改正し、その第9条に定められている、市長に消費者基本計画の策定を義務づけている規定の削除をするとの提案をパブリックコメントに付した。
2 地方消費者行政は自治事務であり、消費者の安全・安心を確保し、持続可能な社会を推進していくという消費者行政の目的の実現のために目標を設定し、その目標達成のための現実的な手段を総合的に考慮し、施策の達成状況を適切に評価し、次の消費者施策に反映させるプロセスは、不可欠なものであるから、地方消費者行政に取り組む地方公共団体が消費者基本計画を策定して行政を執行するのは、いわば当然であるともいえる。
神戸市も、平成18年3月以降、消費者基本計画の策定をしてきており、現在は、第4次神戸市消費者基本計画が令和3年度~令和7年度までの5年間の計画期間で実施されている。
また、このような消費者行政に関する計画は、消費者教育の推進に関する法律10条2項[1]や消費者安全法4条4項[2]でも要請されており、消費者庁が定めた「地方消費者行政強化作戦2020」においても、「地方消費者行政の充実・強化を図るため、都道府県、政令市を始めとする各地方公共団体において、国が策定する消費者基本計画等を参考に、地域版の消費者基本計画を策定し、計画的・安定的に取組を進めることが期待される。」とされている。
現状では、政令指定都市20都市すべてが消費生活条例を制定し[3]、そのうち19都市が消費者基本計画を策定している。
3 このたびの神戸市からの提案は、消費者行政は、基本計画がなくても、国や都道府県の基本計画に準じて進めていくことができるので、神戸市独自の基本計画の策定は行政事務の簡素化の観点から省略するほうがよいとの見解に基づくものと考えられる。
しかし、消費者基本計画には、消費者行政の課題を総括したうえ、対外的に公表し可視化を図る意味合いがある。これからの消費者行政は、福祉、保健医療、警察、教育等関連する他の行政分野と連携し、現場レベルの対応を総合的に行う体制を構築することが望ましいとされ、また、地域の消費者団体、学生、民生委員・児童委員、自治会、生活協同組合や地域の課題に取り組む事業者等とつながり、公共私の連携を一層深める方向で進めなければならないと考えられている[4]。他の行政分野や連携するべき関係者に対し、消費者行政の実情と目標をわかりやすく示す意味は、決して軽視することはできない。また、市民の目から見て、消費生活の安全・安心が確保されることは、治安維持・防災と並ぶ生活に直結する重要な施策であり、消費者基本計画の策定は、消費生活の分野で神戸市が責任をもって自治事務としての行政を推進していることを評価検討する機会でもある。
4 神戸市は、昭和49年5月に全国の自治体に先駆けて「神戸市民のくらしをまもる条例」を制定した。この条例は、消費者主権の確立を目的として明記したうえで、危害の防止及び広告・表示・包装の適正化を図るための事業者への行為規制、苦情処理体制の整備、訴訟援助等を規定した画期的な内容のものであり、その後制定された各自治体の消費生活条例は、いずれもこの神戸市の条例に影響を受けたと言われている。
神戸市は、以後今日に至るまで、消費者行政において、全国有数の先進自治体である。消費者基本計画の策定をしないというような条例改正は、このような輝かしい歴史に反して凋落し、神戸市が自治事務としての消費者行政には消極的であることを、示すことになりかねない。
5 ICT・AI技術がめざましく進展し、グローバル化が一層進み、人口減少・高齢化が急速に深刻化していく中、消費者行政は、限られた資源を最大限に生かして消費者の安全・安心を維持確保していく必要があるところ、神戸市の実情に照らして適切な消費者基本計画を策定することは、不可欠である。
よって、意見の趣旨のとおり、求めるものである。
以 上
[1] 「市町村は、基本方針(都道府県消費者教育推進計画が定められているときは、基本方針及び都道府県消費者教育推進計画)を踏まえ、その市町村の区域における消費者教育の推進に関する施策についての計画を定めるよう努めなければならない。」と定めている。
[2] 「国及び地方公共団体は、消費者安全の確保に関する施策の推進に当たっては、基本理念にのっとり、施策効果(当該施策に基づき実施し、又は実施しようとしている行政上の一連の行為が消費者の消費生活、社会経済及び行政運営に及ぼし、又は及ぼすことが見込まれる影響をいう。第六条第二項第四号において同じ。)の把握及びこれを基礎とする評価を行った上で、適時に、かつ、適切な方法により検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるよう努めなければならない。」と定めている。
[3] 一般財団法人地方自治研究機構「消費生活条例」法制執務支援・条例の動きhttp://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/075_consumer_life.htm
[4] 令和2年8月内閣府消費者委員会「地方消費者行政専門調査会報告書」15頁参照。https://www.cao.go.jp/consumer/iinkaikouhyou/2020/doc/202008_houkoku.pdf