意見表明

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いまこそ、子どもの権利条約の理念を根付かせるための施策の推進を求める会長声明

                       2024年(令和6年)11月5日

                          兵庫県弁護士会

                            会 長  中 川 勘 太

1 今年は、国連で子どもの権利条約が採択されて35年目、日本が同条約を批准してから30年目です。子どもの権利条約は、保護の対象とみなされがちの子どもが、権利を享受する主体であり、かつ、権利を実際に行使する主体として、尊重されるべき存在であることを明確にしました。とりわけ、子どもの権利条約12条が定める、いわゆる子どもの意見表明権が重要です。これは、差別の禁止、子どもの最善の利益、生命・生存及び発達に対する権利と並ぶ、子どもの権利条約の4つの一般原則のうちの1つです。

 日本では、令和5年4月に、ようやく子どもの権利に関する基本的な法律として、こども基本法が施行されました。

2 現状として、児童虐待の認知件数やいじめの認知件数の増加傾向に歯止めがかかる兆しは見えず、また、不登校の子どもも増加傾向にあります。このような課題に取り組むために、こども基本法が制定された経緯がありますが、効果的な施策が講じられているとは限らないと思われます。

 兵庫県内の状況について見ると、文部科学省の統計では、令和4年度のいじめの認知件数は2万9136件であり、令和3年度との比較で約2600件増加しています。また、いじめ重大事態の件数は過去最大の74件にのぼりました。不登校児童生徒数についても、令和4年度は県内小中学校及び高等学校で合計1万5577人と、令和3年度との比較で約3000人増加しています。学校が必ずしも子どもたちにとって安心安全な場所とはなっていないのではないかと考えられます。

 また、令和5年度における虐待相談受付件数は、兵庫県で5846件と過去最多であり、神戸市及び明石市での受付件数をも合わせると9429件にのぼります。家庭さえも安心安全な場所となっていない子どもが相当数いることが推測されます。

3 児童虐待やいじめ、不登校という社会課題に取り組んでいくためには、子どもの権利条約やこども基本法の理念に基づく社会を作っていく必要があると考えます。このような社会を作り上げるためには、一人ひとりの子どもが、冒頭で触れました意見表明権――気持ちや意見を聴かれる権利――を行使できることが何よりも重要です。私たち大人は、一人ひとりの子どもの気持ちや声に耳を傾け、その気持ちが表明されることをサポートし、子どもたちが、自分たちに関係する手続やプロセスに参画できる環境を作っていく責務を負っていると考えられます(こども基本法11条参照)。

 このような意味での子ども参画を実現する仕組みとして、子どもの意見表明支援員や子どもオンブズパーソンが挙げられます。

 兵庫県の子どもの意見表明支援員は、弁護士が担っている点に特徴があります。令和3年10月1日から始まっており、社会的養護下にある子どもを対象に、子どもの声を聴き、受け止め、ときに代弁するなどして、子どもの自己決定を側面支援しています。これまでの利用件数は、令和6年8月末現在で267件となっており活用されています。

 子どもオンブズパーソンは、条例を根拠にした第三者機関であり、兵庫県では平成10年に川西市において全国初の子どもオンブズパーソンが設置され、その後、平成26年には宝塚市で、令和3年には尼崎市でも設置されています。子どもオンブズパーソンでは、子どもの悩みごとであればなんでも相談を受けており、その中で、いじめや教員による不適切指導等の比較的権利侵害性が認められる事案等の場合に、独立した立場から、その子どもの権利擁護のための調整活動をします。

 これらの仕組みは、私たち大人が、直接子どもの気持ちや声を聴き、その気持ちの表出をサポートするものであり、まさに、子どもの権利条約の理念に基づく実践と言えます。子どもの声が、児童相談所や児童福祉施設、学校、地域の子ども支援の団体等に届けられることを通じて、子どもの権利が保障される社会が構築されることを目指すものです。

4 当会は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする団体として、子どもの権利条約の理念が、国や自治体、地域社会に根付くことを目指しています。冒頭述べましたように、今年は、日本が子どもの権利条約を批准してから30年目です。前述の社会課題に対して効果的な施策が講じられてきたのかが問われなければならないと思われます。

 そこで、国に対しては、引き続き、少子化、児童虐待、いじめ、貧困、自殺、ヤングケアラー等の子どもを巡る社会課題に関する施策を推進するよう求めるとともに、これらの施策が、真に子どもの権利条約の理念に基づいて実施・運用されているかをモニタリングするため、子どもコミッショナー等人権を促進し擁護する権限を付与された政府から独立した第三者機関の設置を求めたいと考えます。また、各自治体に対しては、こども基本法11条に基づき、子どもに関係する諸施策が、子ども参画のもとで行われるための具体的な方策を検討するよう求めるとともに、川西市、宝塚市及び尼崎市が設置している子どもオンブズパーソンと同様の機関を設置するよう求めます。

 当会も、今後とも、少年非行、いじめ、虐待等の社会課題について積極的に関与することを通じて、子どもの権利が保障される社会の実現を目指し邁進いたします。

PDFファイル

https://www.hyogoben.or.jp/wp-content/uploads/2024/11/20241105子どもの権利条約批准30年会長声明.pdf

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