2024年(令和6年)6月27日
兵庫県弁護士会
会 長 中 川 勘 太
第1 声明の趣旨
1 中央最低賃金審議会に対し、目安制度によることなく地域別最低賃金の大幅な引上げを促すことを求める
2 兵庫県地方最低賃金審議会に対し、兵庫県地方最低賃金の大幅な引上げを答申することを求める
3 厚生労働省に対し、最低賃金引上げに伴う中小企業への充分な支援を直ちに講じるように求める
第2 声明の理由
1 2011年における兵庫県の最低賃金は739円、東京都の最低賃金は837円であり、最低賃金格差は98円であったが、2023年の兵庫県の最低賃金は1001円、東京都の最低賃金は1113円となったことから、最低賃金格差は112円となって1.14倍へと拡大している。また、2011年における兵庫県の最低賃金は739円と大阪府の最低賃金は786円であり、最低賃金格差は47円であったが、2023年には兵庫県の最低賃金は1001円、大阪府の最低賃金は1064円となったことから最低賃金格差は63円となって1.34倍へと拡大している。
このような地域格差の拡大が継続すると、高い賃金を求めて兵庫県から東京都へと転居し、あるいは転居せずとも高い賃金を求めて兵庫県に隣接する大阪府で就労すること等により兵庫県の労働力が県外へと流れ、兵庫県の労働力不足につながることが懸念される。
また、現在の地域別最低賃金の目安制度では、県北地域と隣接する最低賃金900円の鳥取県の目安がCランクであるのに対し、淡路地域と隣接する最低賃金896円の徳島県の目安が兵庫県と同じくBランクである。 このように、ランクと最低賃金が逆転することで目安制度が実質的に考慮されていない地域もある。一方、先に指摘したとおり、Bランクとされる兵庫県の最低賃金は全国加重平均である1004円を下回り、Aランクの大阪との地域格差が拡大する状態も続いており、目安制度の存在する意義自体が不明確である。
さらに、最近の調査では、地方では、自動車保有による維持費用の支払を余儀なくされることもあり、都市部と地方との間で、地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費にはほとんど差がないことが確認されている。したがって、兵庫県においても、県北・淡路等の地域と神戸・阪神・播州等の地域を考慮することなく、全ての地域において等しく大幅な最低賃金の引上げが必要である。
よって、地域格差の解消のためには、目安制度によることなく、全ての地域に対し、Aランクと同等の地域別最低賃金の大幅な引上げを促すべきである。
2 昨今の為替の影響により、食料品や光熱費など生活関連商品やサービス の価格が一斉に上昇し続けている。2020年(令和2年)基準の消費者物価指数の2024年(令和6年)5月分の総合指数は108.1(生鮮食品の指数は123.1)であり、前年同月比2.8%の上昇が確認されている。
現在の兵庫県の最低賃金額は1001円であり、この賃金では、フルタイム(1日8時間、週40時間、月173時間)で働いたとしても、月収約17万3173円、年収約207万円程度に止まり、物価高の現在では、単身者の生活費としても十分とはいえず、ましてや、賃金のみで子どもを育てることは到底困難であって、大幅引上げは必須である。そもそも、最低賃金は、「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されず、全ての労働者の生活を保障するため、今年度の兵庫県地方最低賃金については、消費者物価指数の上昇率を大きく超える引上げの答申がこれまで以上に求められている。
3 一方で、最低賃金の引上げにあたっては、現実に労働者に賃金を支払っている事業者、特に中小企業に対する手厚い支援が必要不可欠である。
厚生労働省が実施する最低賃金引上げのための支援策である事業者に対する業務改善助成金の制度は、実際に支援されるか不透明なまま、事業者が設備投資を行わなければならず、利用数が伸びない状況が続いている。我が国の経済を支えている中小企業が、最低賃金を引き上げながら、円滑に事業を継続できるように、現在の「業務改善助成金」制度に加え、社会保険料の事業主負担部分の免除・軽減を始めとした社会保険料や税の負担軽減策などの支援策が直ちに必要である。
4 以上のとおり、当会は、中央最低賃金審議会に対し、目安制度によらない地域別最低賃金の大幅な引上げを地方最低賃金審議会に促すこと、兵庫県地方最低賃金審議会に対し、大幅な最低賃金の引上げを行うことをそれぞれ求めるとともに、厚生労働省に対し、最低賃金引上げに伴う中小企業に対する充分な支援を直ちに講じるように求める次第である。
以 上