2024年(令和6年)5月30日
兵庫県弁護士会
会 長 中 川 勘 太
声明の趣旨
最高裁判所は、「弁護士となる資格を有する者、民事もしくは家事の紛争の解決に有用な専門的知識を有する者または社会生活の上で豊富な知識経験を有する者で、人格識見の高い年齢四十年以上七十年未満の者」(民事調停委員及び家事調停委員規則1条)であれば、日本国籍の有無にかかわらず、等しく民事調停委員及び家事調停委員に任命するよう、速やかに従来の運用を改めることを求める。
声明の理由
1 当会は、神戸家庭裁判所からの令和6年10月期任命の家事調停委員候補者の推薦依頼を受け、外国籍である当会会員1名を含む家事調停委員の候補者を推薦した。これに対し、令和6年5月21日付で、神戸家庭裁判所から、上記外国籍会員は日本国籍を有しないという理由により、家事調停委員として最高裁判所に任命上申しないことを決定した旨の通知があった。
2 しかしながら、家事事件手続法にも民事調停委員及び家事調停委員規則にも、調停委員の資格要件や欠格事由として日本国籍の有無に関する規定はなく、法令上、調停委員に関する国籍要件は存しない。外国籍であることのみを理由に調停委員の候補者としない最高裁判所の対応は、法令に根拠のない基準を新たに創設するものであるだけでなく、調停委員の具体的な職務内容を勘案することなく、日本国籍の有無で異なる取り扱いをするものであり、国籍を理由とする不合理な差別であって、憲法第14条に違反する。
3 しかも、この度推薦した会員は、日弁連の副会長や当会の会長・副会長を歴任し、法テラス兵庫地方事務所の所長に就任するなど公益的役職を務めており、資質・経験ともに調停委員候補として申し分ないものとして当会が自信をもって推薦したものである。にもかかわらず、明確な法的根拠なくその推薦を無にする対応には到底納得できない。
4 国際的にみても、国連人種差別撤廃委員会は、総括意見において、2010年(平成22年)3月と2014年(平成26年)8月の2度にわたり、人種差別撤廃条約第5条との関係で、外国籍者が、資質があるにもかかわらず調停委員として調停処理に参加できないという事実に懸念を表明し、能力を有する日本国籍でない者が家庭裁判所における調停委員として行動することを認めるよう、締約国である日本の立場を見直すことを勧告している。2018年(平成30年)8月30日には、「数世代にわたり日本に在留する韓国・朝鮮人に対し、・・・公権力の行使または公の意思の形成への参画にも携わる国家公務員として勤務することを認めること」(22項)、「市民でない者、特に外国人長期在留者及びその子孫に対して、公権力の行使または公の意思の形成への参画に携わる公職へのアクセスを認めること」(34項(e))との勧告をした。
5 そもそも、日本には300万人以上の外国籍者が定住していること、近年は外国人就労者が増加していることからすると、調停の場に外国籍者が調停委員として参画することは、多様な当事者の実情に即した紛争解決という観点において調停制度を充実させ、多民族・多文化共生社会の実現に資するものである。
過去には、1974年(昭和49年)から1988年(同63年)まで中国(台湾)籍の大阪弁護士会会員が民事調停委員として任命されていた先例もある。
6 この問題は、2003年(平成15年)に当会が家事調停委員候補者として推薦した韓国籍の弁護士について、国籍を理由に神戸家庭裁判所から推薦の撤回を求められたことに端を発している。それ以降も当会は、複数回にわたり外国籍の会員を調停委員に推薦しているが、いずれも同様の理由により最高裁判所への任命上申を拒絶されており、そのたび毎に抗議の会長声明を発し、2016年(平成28年)の臨時総会では本声明の趣旨と同一の決議をしたところである。にもかかわらず、依然として従前の運用が維持されているので、改めて強く抗議するとともに重ねて声明を行うものである。
以 上