2024年(令和6年)4月26日
兵庫県弁護士会 会 長 中 川 勘 太
2024年(令和6年)4月26日、大阪高等裁判所第8民事部(森崎英二裁判長)は、2013年(平成25年)8月から3回に分けて国が実施した生活保護基準の引下げは生存権を保障した憲法25条に反するなどとして、兵庫県内の生活保護利用者らが、保護費を減額した決定の取消しなどを求めた訴訟において、生活保護基準における厚生労働大臣の判断過程において過誤・欠落があったとしても、現実の生活条件を無視した著しく低い保護基準を設定したとはいえない場合や、改定された生活保護基準が最低限度の生活の需要を満たすと認められる場合には、厚生労働大臣に広範な裁量を認めると判断する一方で、物価高に苦しむ生活保護を利用する者らの厳しい生活実態を無視して、各引下げ処分を追認する判決を言い渡した。本判決は、生活保護を利用する者の生活実態などに実質的な検討を加えることなく、健康で文化的な最低限度の生活の需要を満たすと判断したものであり、司法の役割を放棄したものである。
生活保護基準は国民の生活を支える「最後のセーフティネット」として、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって、地方税の非課税基準、国民健康保険の保険料・一部負担金の減免基準、介護保険の利用料・保険料の減額基準、障害者自立支援法による利用料の減額基準、生活福祉資金の貸付対象基準、就学援助の給付対象基準など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策などにも影響を及ぼすものである。そのため、当会は、かねてより、生活保護基準の引下げは、生活保護を利用している者や今後生活保護の利用可能性がある者のみならず、これらの施策を利用している低所得層の人の生活にも重大な影響を与えるとして、保護基準の引下げに反対してきた(2012年(平成24年)11月5日「生活保護基準の引き下げに強く反対する会長声明」)。
当会は、改めて、現在の生活保護基準を見直し、2013年(平成25年)8月以前の生活保護基準に戻すことを求めるとともに、当会としても、生活保護制度の改善と充実のための相談・提言活動を今後とも積極的に行っていく決意を改めて表明する。
以上