意見表明

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令和4年司法試験最終合格発表に関する会長声明

2022年(令和4年)9月27日
兵庫県弁護士会   
会 長  中 上 幹 雄

第1 声明の趣旨

 政府に対し,司法試験合格者を1500人程度輩出すべきとした法曹養成制度改革推進会議の平成27年6月決定を見直し,速やかに適正な合格者数に減員することを可能とする政策を採ることを求める。

第2 声明の理由

1 本年9月6日,令和4年司法試験の合格発表があり,最終合格者は1403人となった。
 受験者数は,本年は3082人であり,平成23年の8765人から減少し続けている。
 合格率は,平成28年の22.9%から上昇を続け,本年は45.5%に達している(なお,予備試験合格者の本試験合格率は,97.5%である。)。
 今回の合格最低点は750点であるのに対し,総合点の平均点は802.22点である。
 本年は,新司法試験に完全移行した平成24年以降で受験者,合格者とも最少となり,政府が,平成27年6月の法曹養成制度改革推進会議決定(以下「推進会議決定」という。)で掲げた合格者数の数値目標「1500人程度」を,3年連続で下回ることとなった。

2 当会は,平成29年以来,毎年,司法試験の選抜機能を保ち,合格水準の維持向上を図ることは,国民に対する国家の責務であるとの観点から,会長声明として,1500人程度という数値目標を前提にすることのない厳正・適正な合格判定を行うことを求めてきた。   
 この点,ここ数年,合格者は1500人を下回るようになったものの,受験生の減少には歯止めがかかっておらず,合格最低点が総合点の平均点を下回るという状況が続いている。特に本年は,合格率が45.5%となり,総合点平均点と合格最低点との差が52点にも達するなど,司法試験の選抜機能の低下が顕著となっている。「1500人程度」という政府の数値目標は,司法試験が持つ選抜機能,合格水準維持機能を保持しようとする限り,ますます,現実的ではなくなりつつある。

3 推進会議決定は,法曹人口の在り方について,「引き続き法科大学院を中核とする法曹養成制度の改革を推進するとともに ,法曹ないし法曹有資格者の活動領域の拡大や司法アクセスの容易化等に必要な取組を進め,より多くの有為な人材が法曹を志望し,多くの質の高い法曹が,前記司法制度改革の理念に沿って社会の様々な分野で活躍する状況になることを目指すべきである」とした。
 1500人という人数は,平成27年当時,政府が,こうした司法基盤の整備への取り組みを進めることによって,増員数に相応しい現実の需要が十分喚起できることを前提にしていたと思われる。

4 この点,推進会議決定以降,弁護士人口は,平成27年の3万6415人から令和3年の4万3206人へと6791人増加した。しかしながら,

① 法曹有資格者の活動領域の拡大については ,企業内弁護士の人数は平成27年以降,毎年200人程度ずつ増加してきたものの,令和3年6月現在で1378人増であり,全体の弁護士増員数の5分の1を吸収するに止まり,かつ近時伸びが鈍化している。国や自治体における弁護士需要も,常勤ではなく任期付公務員としての採用がほとんどを占める上,任期付公務員としての就業数も平成27年の187人から令和3年の252人と大きな伸びはない。海外展開支援事業における需要も低調である。
 このように,法曹有資格者の活動領域の拡大の規模やペースは,弁護士人口の増加に見合うものとなっているとは言いがたい。

② 司法アクセスの容易化については,平成27年10月当時には既にゼロ支部0カ所・ワン支部1か所になっていた。日弁連ひまわり基金による公設事務所は平成27年の115事務所から令和3年の122事務所へと7事務所の増加に止まっている,一方日本司法支援センターの司法支援過疎地域事務所は平成27年以降35件か34件と横ばいである。これらの状況からすると,弁護士過疎の問題はほぼ解消している。法律相談件数については,この間,日本司法支援センターの無料法律相談件数が増加してきたものの令和2年には減少に転じた。弁護士会による有料・無料相談を含めた全体の相談件数は平成27年度の60万6928件から令和2年度の54万5635件へと減少傾向にある。
 司法アクセスの容易化という課題については,推進会議決定当時において想定された政策目標は,ほぼ達成されたと評価でき,わが国が本格的な人口減少社会に突入している中,これ以上の大幅な拡大を見込む要因はない。

③ 従来からの職域である訴訟業務については,平成27年以降の裁判所での民事事件,家事事件の新規受入事件数をみると,第一審民事通常事件の新受件数は,平成21年をピークとして減少を続けている。なお,簡裁での事件数は微増傾向にあったが,令和2年には減少に転じた。家事事件のうち別表第一審判事件は増加傾向にあるが,弁護士のサポートを必要としない審判事件が相当数を占めるものであり,弁護士の関与を必要とする事件の増加に伴うものとはなっていない。
 本年,裁判所職員定員法が改正され,判事補の定員が40人削減されたが,これは,こうした裁判需要の減少傾向を反映したものである。
 以上に鑑みれば,政府が司法制度改革の理念に従って喚起できると想定したような1500人程度という合格者増員に見合う程度の法的需要の拡大は,現実のものとなっていないといわざるを得ない。

5 加えて,日本弁護士連合会の試算によると,1500人の合格者数を維持した場合,弁護士人口は,2019年(令和元年)の4万1118人から2048年(令和30年)の6万4431人まで増加し続けると予測されている。弁護士1人あたりの国民数も2020年(令和2年)は2994人であるのに対し,2048年(令和30年)には1610人に減少すると予測されている(弁護士白書2021年版)。
 既に人口減少社会に突入しているわが国において,今後,政府が平成27年に想定していたような法的需要の増加や法曹志願者の増加は期待できない。
 当会は,弁護士人口が急増することによる弊害を取り除くため,平成22年3月に,司法試験合格者は年間1000人程度とすべきであるとの「適正な法曹人口に関する総会決議」を行っている。ここでは,司法制度改革審議会が想定しているような法的需要が見込めないこと,弁護士数が急増することにより市民に不利益が生じることを指摘した。上述の状況からすると,当会が平成22年に危惧した点は,平成27年以降も,未だ解消されていないと言わざるを得ない。

6 そこで,当会は,政府に対し,司法試験合格者を1500人程度輩出すべきとした法曹養成制度改革推進会議の平成27年6月決定を見直し,速やかに適正な合格者数に減員することを可能とする政策を採ることを求める。

以 上

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