2021年(令和3年)12月23日
兵庫県弁護士会
会 長 津 久 井 進
<声明の趣旨>
当会は、令和3年12月21日の3名の死刑囚に対する死刑の執行に強く抗議し、改めて死刑制度の存廃を含む刑罰制度全体の見直しについて速やかな検討と国民的議論を始めるとともに、その議論が尽くされるまで、死刑の執行を停止することを求める。
<声明の理由>
去る令和3年12月21日、東京拘置所において2名、大阪拘置所において1名の死刑囚に対する死刑がそれぞれ執行された。
そもそも死刑制度については、その存置に賛成する立場、反対する立場の双方から、様々な論拠が示されている。当会の会員においても、死刑制度を廃止するべきとの意見、将来的には廃止するべきではあるが時期尚早であるとの意見、死刑制度は存置されるべきであるとの意見など、様々な意見を有する会員があり、会内の議論も十分尽くされたとは言えず、死刑制度の是非について意見の一致を見るに至ってはいない。
このように様々な意見が存するとしても、死刑が人間の存在の根元である生命そのものを奪い去る最も厳しい刑罰であって、誤判による死刑執行が、憲法の保障する個人の尊厳に対する究極的な侵害であることに異論はない。
いわゆる袴田事件において、静岡地方裁判所の再審開始と死刑及び拘置執行停止決定を取り消した東京高等裁判所の決定について、最高裁判所が再度取り消して差し戻したことは記憶に新しい。戦後の刑事裁判における死刑判決における誤判のおそれは払拭されていない。近時の科学捜査技術の向上等を考慮しても、刑事裁判において誤判による死刑判決のおそれが存しないと評することはできない。
国際社会においては、世界の3分の2以上の144の国において法律上ないし事実上、死刑が廃止されており、2020年12月の国連総会では、8回目の死刑執行停止決議が採択され、日本に対して死刑執行停止を求める勧告がなされた。OECD加盟国の中でも、死刑存置国である米国は、バイデン政権下において死刑廃止に向けた議論を始め、連邦レベルでの死刑執行を一時停止させている。
一方、死刑廃止国である豪州との関係では、日本が死刑制度を存置していることが両国間の安全保障・防衛協力に関する協定締結の障害になっていたとされ、南アフリカとの関係では、日本が死刑制度を存置していることを理由に被疑者の引渡を拒まれる事案があったと報じられている。我が国の死刑制度のあり方が、外交関係における重要な課題になっているところである。
遺族を含む犯罪被害者の中には、加害者に対する死刑判決及びその執行を望む声があるのも確かである。最愛の家族等を殺害されるなどした犯罪被害者の思いは、人間として自然な心情であって、十分に理解・尊重されなければならないし、犯罪被害者に対する精神的なケア等を含めた支援施策は積極的に講じられなければならない。
もっとも、犯罪被害者の心情が一人ひとり異なっていることへの配慮も欠いてはならないし、死刑制度を含む国家の刑罰制度のあり方が専ら犯罪被害者の心情によって決定されることは必ずしも相当ではない。
内閣府が令和元年度に実施した世論調査では、「死刑もやむを得ない」との回答が80.8%であったが、そのうち39.9%の者は「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止しても良い」と回答している。また、仮釈放のない終身刑が新たに導入されるならば「死刑を廃止する方が良い」と回答した者が、回答者全体の35.1%にのぼっており、前提となる刑罰制度の内容等によって意見が大きく左右されることが明らかである。
この点、日本弁護士連合会は、2016年11月開催の人権擁護大会において「2020年までに死刑制度の廃止を目指し、凶悪犯罪に対しては死刑に代わる代替刑を検討すべき」とする宣言を採択した。裁判員裁判による事例も集積しつつある今日、我が国の歴史・文化・宗教的背景も踏まえ、死刑制度の是非を改めて議論することは時宜に適うものである。
今まさに、死刑に代わる代替刑の導入の是非、死刑制度の存廃を含めた刑罰制度全体のあり方について、政府は死刑制度を含めた刑罰制度の幅広い情報公開を行い、それを踏まえた国民的議論が速やかに行われるべきである。
当会は、これまで死刑制度の存廃を含む刑罰制度全体の見直しについて、その議論が十分尽くされるまで死刑執行を停止すべきであることを何度も繰り返し求めてきた。それにもかかわらず、今回、再び3名に対する死刑の執行が行われたことは極めて遺憾であり、強く抗議せざるを得ない。
そして、改めて、死刑制度の存廃を含む刑罰制度全体の見直しについて、速やかな検討と国民的議論を始めるとともに、その議論が尽くされるまで、死刑の執行を停止することを求めるものである。
以上