2021年(令和3年)12月17日
兵庫県弁護士会
会 長 津 久 井 進
2021年(令和3年)12月16日、神戸地方裁判所第2民事部(小池明善裁判長)は、2013年(平成25年)8月から3回に分けて国が実施した生活保護基準の引下げは生存権を保障した憲法25条に反するなどとして、兵庫県内の生活保護利用者らが、保護費を減額した決定の取消しなどを求めた訴訟において、原告らの実態を全く無視し、生活保護基準の決定に関する厚生労働大臣に広範な裁量を認めたうえで、本件各引下げ処分は裁量の範囲内であると認定し、原告らの請求を退ける判決を言い渡した。本判決は、原告らの生活実態など引下げの内容に実質的な検討を加えることなく、厚生労働大臣の無限定な裁量を認めており、行政を追認して、司法の役割を放棄したものである。
生活保護基準は国民の生活を支える「最後のセーフティネット」として、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって、地方税の非課税基準、国民健康保険の保険料・一部負担金の減免基準、介護保険の利用料・保険料の減額基準、障害者自立支援法による利用料の減額基準、生活福祉資金の貸付対象基準、就学援助の給付対象基準など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策などにも影響を及ぼすものである。そのため、当会は、かねてより、生活保護基準の引下げは、生活保護を利用している者や今後生活保護の利用可能性がある者のみならず、これらの施策を利用している低所得層の人の生活にも重大な影響を与えるとして、保護基準の引下げに反対してきた(2012年(平成24年)11月5日「生活保護基準の引き下げに強く反対する会長声明」)。
昨年来の新型コロナウィルス感染症の流行により、失業や所得が減少した市民のセーフティネットとして、生活保護の利用を政府が積極的に提唱するなど、コロナ禍における生活保護制度の重要性が確認されていることもふまえ、当会は、改めて、現在の生活保護基準を見直し、2013年(平成25年)8月以前の生活保護基準に戻すことを求めるとともに、当会としても、生活保護制度の改善と充実のための相談・提言活動を今後とも積極的に行っていく決意を改めて表明する。
以上