神戸新聞2024年10月16日掲載
執筆者:桂 典之 弁護士
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交通事故に遭ってけがをしました。知人から「健康保険を使用した方がいい」と助言されましたが、別の知人は「交通事故では健康保険を使えない」と言います。本当はどうなのでしょうか。
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突然の交通事故に遭われてお困りのことかと存じます。交通事故の治療に健康保険を使えるのか。この点に関しては1968年に旧厚生省(現在の厚生労働省) から「いうまでもなく、自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変わりなく、保険給付の対象となるものであるので、この点について誤解のないよう住民、医療機関等に周知を図るとともに、保険者が被保険者に対して十分理解させるよう指導されたい」との通達が出されています。つまり、健康保険は使用できないとの助言は誤りです。
ただし、全ての交通事故の治療に健康保険が使用できる、との助言も不正確です。通勤中や業務での移動中に事故に遭ったケースは、労災事故となりますので健康保険は使えず、労災保険を使用することになります。
では、健康保険を使用することにメリットはあるのでしょうか。交通事故の被害者の中には、被害者であるにもかかわらず、自身の保険を使用することに違和感を覚え、使用をちゅうちょされる方もいます。しかし、健康保険を使用することは交通事故の被害者にとって基本的に有利に働きます。特に被害者にも過失のある事案では、治療費の一部、すなわち被害者の過失に相当する部分については、加害者や加害者加入の保険会社の負担にはならず、自己負担となるため、健康保険を使用することで治療費の総額を抑えれば、自己負担額が低くなるというメリットが生まれます。 被害者にも過失のある事案では健康保険の使用を積極的にお考えください。
交通事故はさまざまな制度が複雑に絡み合っています。健康保険に関してだけでも、実際に使用できる事案なのか判断がつかなかったり、使用した後の対応でお困りになったりするケースがあります。お悩みの場合、弁護士会や身近な法律事務所に相談することも一つの選択肢ですので、気軽に問い合わせてみてください。