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2024年

1人暮らし 認知症に備えるために -「任意後見制度」も選択肢

 神戸新聞2024年7月3日掲載
執筆者:佐長 すみれ 弁護士

1人暮らしで、子供のいない60代の女性です。できれば住み慣れた家でずっと生活したいのですが、認知症などになったときが心配です。何か対策はないでしょうか。

 将来、認知症等になった時の備えとして、「任意後見制度」の利用が考えられます。判断能力がしっかりしている間に、自分が選んだ人(ここでは「Aさん」)と、将来行ってもらう事柄を契約しておく制度です。   

 判断能力が衰えた後で家庭裁判所に申し立てる「法定後見制度」もありますが、「任意後見制度」は、家庭裁判所を介さずに、ご本人とAさんの契約(任意後見契約)で行います。

 ご本人が病気や障害などで判断能力が衰えた時に、契約に基づいてAさんが「任意後見人」に就任します。Aさんは契約の範囲内で、ご本人の生活や療養看護、財産管理などの行為を、本人を代理して行います。

 任意後見契約の利点は、任意後見人をご本人が決められる▽契約内容を自由にカスタマイズできる-ことなどです。このため、自宅に住み続けたいことなどをAさんに伝え、在宅介護サービスの利用など希望する内容を契約に盛り込むことができます。またAさんに自宅を売却する代理権限を与えないことも可能です。任意後見人は契約の範囲内のことしかできないので、ご本人の意向を尊重できるといえます。

 一方、契約内容以外に代理などの必要性が生じた場合、法定後見制度へ移行し、施設入所の可能性はあります。

 任意後見人の報酬額は、ご本人とAさんとで決めることができます。また、任意後見人が就任する場合、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任の上、報酬(通常は年10~30万円程度)も決めます。ご本人は任意後見人と任意後見監督人の2人に報酬を支払うことになります。

 なお、任意後見契約を結ぶときは、公証役場で「公正証書」を作成しなければなりません。任意後見人には、ご親族をはじめ、どなたでもなれますが、契約の締結には、専門的な法律などの知識が必要です。ご自身の将来を託す大切な契約ですので、弁護士などへご相談の上、じっくり検討されることをお勧めします。

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