神戸新聞2024年6月19日掲載
執筆者:衣川 直子 弁護士
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夫が亡くなりました。夫は生前、自分の没後に私が困らぬよう、私名義の口座に預金し、管理してくれていましたが、他の相続人からこの預金は夫の遺産だと言われました。私名義なのに夫の遺産なのでしょうか。
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配偶者の方が亡くなり、お辛い上にお困りのことと存じます。
さて、今回は「夫の遺産とは何か」という問題に関するご相談です。実は、亡くなった方以外の名義の預金口座(今回のケースではご相談者名義の口座)でも亡くなった方の遺産 (今回のケースでは夫の遺産)に該当することがあるのです。これは、口座内のお金を出資した人が本当の預金の持ち主であると考えられているためです。このような、お金を出資した人が自分名義の口座以外に預けたお金を「名義預金」といいます。
名義預金が問題となるのは、主に遺産分割協議と相続税申告の場面です。もし、ある預金が名義預金、すなわち亡くなった方の財産に該当する場合には、その預金は遺産分割協議や相続税の課税対象になります。
名義預金に該当するかどうかは、①口座内にあるお金の出資者は誰か②口座の管理および運用の状況③口座内にあるお金から生じる利益が誰に帰属するか④亡くなった方と口座名義人ならびに口座の管理および運用をする者との関係⑤口座名義人がその名義を有することになった経緯-などを総合考慮して判断されることになります。このうち、最も重要な要素は①であると考えられています。
例えば、亡くなった方が自分のお金を出資して第三者名義で預金していた▽その第三者名義の口座の通帳や届け出印は亡くなった方が管理していた-といった事情があれば、その口座のお金は名義預金であると認定される可能性が高くなります。
ご相談者の夫が自らのお金をご相談者名義の口座に預金し、かつ口座の管理も夫が行っていたとのことですので、夫の遺産であると認められる可能性が高いと考えられます。
名義預金については、ご相談のケースのように、名義人以外の相続人は亡くなった方の遺産であると主張し、他方で名義人は自らの財産であると主張するなど、相続人の間でその遺産性を巡って争いになることがあります。名義預金についてご不安がある方は一度弁護士にご相談ください。