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2024年

賃貸物件退去時 床の傷に高額請求 -原状回復義務の範囲で負担

 神戸新聞2024年3月20日掲載
執筆者:木下 雄大 弁護士

賃貸マンションから退去する際、フローリングの一部に傷があり、「全面を張り替える必要がある」 と言われました。張り替え費用として高額な費用を請求されたのですが、支払う必要はあるのでしょうか。

賃貸物件から退去する際、自分の落ち度で発生した傷や汚れがあった場合は、原状回復をする義務があります。他方で、通常損耗や経年劣化、つまり、普通に生活していれば発生する傷や汚れについては、原状回復義務はありません。

例えば、タバコの不始末によるフローリングの焦げ跡、引っ越しや模様替えの際に家具を引きずったり落としたりしてできた傷については、原状回復義務があります。他方、ただ家具を置いていただけで生じたへこみや設置跡については、原状回復義務はないと言えます。

今回の相談の場合、傷が自分の落ち度で発生したものであれば、原状回復義務を負います。他方で、普通に生活していて発生したような傷であれば、原状回復義務を負いません。

また、原状回復義務を負う場合でも、傷がある部分の張り替え費用を負担すればいいので、全面張り替えの費用まで負担する必要はありません。ただし、フローリングの張り替えについては、枚数ではなく立方メートル単位で負担部分を考えるのが原則とされていますので、傷がある枚数分の張り替え費用だけでは済まない可能性もあります(畳の場合は、傷がある枚数分だけというのが原則です)。

ほかに注意すべき点として、本来であれば賃借人が費用を負担しない傷であっても、賃借人に費用を負担させる内容の特約が存在することがあります。しかし、賃借人が費用を負担する傷の範囲や内容が、賃貸借契約書で具体的に明記されている場合などでないと、特約は無効となる可能性が高いです。

ちなみに、自分の落ち度でつけた傷であっても、入居中であれば、火災保険を使って直せる場合がありますので、加入している火災保険の補償内容も確認してみてください。

原状回復の詳細については、国土交通省のホームページで公開されている「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」の第1章で確認することができます。知識を身に付け、不当な高額請求に対処してください。交渉が難しければ、弁護士に相談してください。

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