神戸新聞2024年1月17日掲載
執筆者:兵庫県弁護士会広報委員会
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夫と小学生の子ども2人と暮らす専業主婦です。夫名義でローンを組んだ夫の所有名義の時価額3千万円の住居があり、ローン残高は1千万円です。離婚し、この住居に、子ども2人と住み続けるのは可能でしょうか。
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登記上は夫名義の不動産であっても、財産分与の際は妻にも通常2分の1の権利があります。ただ、ローンが残る場合、住み続けるには難しい間題があります。
まずは、相談者が住居の所有権を取得する(所有権の分与を受ける)方法が考えられます。そのためには、相談者がローンの残額を負担し、かつ、住居の実質的な価値の清算をする必要があります。ローンを負担するには、ローン残高を一括で支払うか、ローンの名義人を相談者に変更しなければなりません。しかし、ローンを組んでいる金融機関側が、収入のない妻への名義人変更を了承する可能性は低いでしょう。
また、住居の実質的価値とは、離婚時における住居の評価額からローンの残高を控除した残余部分をいいます。質間の場合、3千万円から1手万円を引いた2千万円が実質的な価値となります。通常、財産形成への寄与度は2分の1なので、相談者が住居を取得するには、1千万円を夫に支払う必要があります。経済的負担が大きいため、相応の資産や収入がない場合、現実的ではありません。
次に、財産分与として夫との間で住居の賃貸借契約を締結することが考えられます。夫が1千万円を相談者に支払って住居の所有権を取得し、夫が住宅ローンを支払い続けて、相談者が夫に賃料を支払う方法です。この場合、夫が住宅ローンを滞納する危険性があります。滞納すれば抵当権が実行されて第三者が住居を取得し、相談者家族が住めなくなる恐れがありますが、賃借権の登記をしておけば6力月間は明け渡しが猶予されます。相応の資産や収入がない状況であればこちらの方法が現実的と思われます。
離婚後もお子さんと一緒に住み慣れた住居に住み続けたいというのは当然の気持ちです。ただ、住宅ローンの支払いが残っている不動産の財産分与は説明した以外にも複雑な間題をはらんでおり、希望が必ずしもかなうわけではありません。早めに弁護士に相談されることをお勧めします。