神戸新聞2023年12月6日掲載
執筆者:氏平 啓介 弁護士
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先日、従業員が勤務中に会社の車で事故を起こしてしまいました。 会社はどこまで責任を負わなければいけないのでしょうか?
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従業員が交通事故を起こした場合、会社が被害者に対して負う民事上の責任は、「使用者責任」と「運行供用者責任」の二つが考えられます。
まず、会社に発生する責任で考えられるのは、民法第715条の「使用者責任」です。被用者(今回のケースは「事故を起こした従業員」)が事業執行で第三者に加えた損害について、その被用者の使用者(同「会社」)が賠償する責任をいいます。業務中の交通事故であれば会社はこの責任を負います。そして、被害者との関係では、従業員と会社の連帯責任となり、被害者の損害を会社が負担します。会社が負う責任は、車両の修理費といった物的損害、他人の生命または身体の損害など人的損害のいずれも含みます。
会社としては、事故原因は従業員の過失にあるので従業員にも責任を負担させることはできないかと考えるかもしれません。これは会社と従業員との間の「求償」の問題です。この点、会社が損害を賠償した場合、従業員への賠償額の請求は可能ですが、会社は従業員を利用することで利益を得ているため、信義則上、賠償額全額の求償は認められず制限されます。
なお、被害者に人的損害が発生している場合、人的損害について会社が運行供用者責任(自動車損害賠償保障法第3条)を負う可能性があります。これは他人に自動車を運転させて利益を得ている運行供用者(車の所有者も含む)に損害賠償責任を負わせるものです。一定の要件を証明しない限り責任を免れないため、運行供用者に該当すると、ほぼ責任が認められます。
結論として、従業員が業務中に会社の車で交通事故を起こしたとき、会社は被害者に生じた損害を全額負担する方向で対応せざるを得ないでしょう。従業員の負担については、基本的には、会社が賠償した全額を従業員に求償することは難しいです。交通事故の損害額は高額になりやすく、会社の負担も大きくなるため、一度、加入している自動車保険の契約内容の確認をお勧めします。