神戸新聞2023年11月1日掲載
執筆者:大星 勝紀 弁護士
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所有するマンションの一室を貸していますが、 家賃の支払いが滞るようになりました。 力ギを開け、荷物を撤去してもいいのでしょうか。撤去できないのなら、どう対応すべきか教えてください。
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賃貸借契約の成立によって、契約が終了するまでの間、賃貸人には、目的物を使用収益させる義務、賃借人には、賃料を支払う義務が発生します(民法第601条)。
仮に、賃借人が賃料の支払い義務を履行しない場合であっても、契約が続いている限り、当然、賃貸人の使用させる義務がなくなるわけではありません。
そのため、賃貸している建物の力ギを無断で開けて、荷物を撤去することは違法となります(自力救済の禁止)。賃借人に無断での立ち入りや室内の物品の処分は、民事上の責任だけではなく、刑事罰の対象にもなります。
賃料を支払わない賃借人に対して、建物の明け渡しを求める場合、まず賃貸借契約を解除する必要があります。方法としては、期限を定めて賃料の支払いを請求し、支払いがなければ契約を解除する旨の通知を送ることが考えられます。
通知後も賃借人が期限内に支払いをせず、建物を明け渡さないときは、裁判所に建物明け渡し請求訴訟を提起することになります。
もっとも、解除が認められるのは、信頼関係が破壊されたと認められる場合です。そのため、軽微な賃料の滞納のケースでは、信頼関係が破壊されていないとして、訴訟で解除が認められないこともあり得ます。
訴訟で解除が認められれば、賃借人に対し、建物の明け渡しを命じる判決が出されます。賃借人が判決の内容に従わない場合は、管轄の執行官室に対し、強制執行の申し立てを行うことになります。
強制執行の大まかな流れとしては、執行官による明け渡しの「催告」と「断行」の手続きになります。催告では、建物の明け渡しを命じられた賃借人に対し、実際に家具などの物品を搬出する断行日を決めて、任意退去を促します。それでも応じない場合には、断行日に、建物から荷物を搬出し、賃貸人に建物の占有を取得させ、執行を完了することになります。