神戸新聞2023年10月4日掲載
執筆者:中木 基裕 弁護士
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実家の土地建物の名義が、数年前に亡くなった親のままになっています。 放置しておくと何か問題がありますか。また、今後、誰も実家に住まないため、所有権を放棄することはできないでしょうか。
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登記名義を長期間放置しておくと、登記名義が変わらないまま一部の相続人が亡くなることで、その相続人の子や孫にまで相続が生じます。これを数次相続といい、相続人が多数となって遺産分割協議が円滑にまとまらない事態に陥りがちです。
地方を中心とした土地の所有意識の希薄化などを原因として、相続登記が行われずに長期間経過してしまい、不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない「所有者不明土地」が多数存在するようになりました。
所有者不明土地は、管理が十分になされず荒廃したり、土地の利活用を阻害したりします。このため、国は、法制度の見直しを行い、相続登記の申請義務化のほか、相続土地国庫帰属制度などを新たに創設しました。
このうち、相続登記の申請義務化は、2024年4月1日に施行される予定です。これにより、相続によって不動産を取得した相続人は、所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をする必要があります。正当な理由なく義務に違反した場合は、10万円以下の過料の適用対象となります。
相談者も、相続人が複数いる場合、遺産分割協議が円滑にまとまらない事態に陥らないよう早めに遺産分割協議を行ってください。来年(2024年)の4月以降も相続登記を行わず、猶予期間も経過すると過料が科される可能性もあるので留意してください。
実家不動産の所有権の放棄ですが、相続放棄は被相続人の全ての権利義務の承継を拒否することをいいますので、不動産を含め一部の財産だけを放棄することはできません。
一方、放棄ではありませんが、2023年4月に施行された相続土地国庫帰属制度で、相続で取得した特定の土地を手放し、国庫に帰属させることが可能になりました。ただし、建物がないなどの要件を満たす必要があり、10年分の土地管理費相当額の負担金の納付も必要です。相談者も建物を取り壊して負担金を納付すれば実家の土地の国庫帰属が認められる可能性があります。