神戸新聞2023年9月20日掲載
執筆者:中澤 広明 弁護士
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父が亡くなり、実家の不動産の登記を調べると、 土地は曽祖父の名義でした。 曽祖父も祖父も故人で、曽祖父の相続財産は土地だけです。実家の土地を取得し、私の名義に変えるための問題点を教えてください。
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相続が発生して、遺産分割協議などが終わらないうちに相続人の1人が亡くなり、次の相続が始まることを数次相続といいます。最初に始まった相続を「1次相続」、次に始まった相続を「2次相続」といい、民法上、数次相続に限界はありません。5次相続や6次相続の場合、相続人が100人近くになることも珍しくありません。
ご質間の場合も、数次相続の状態であるため、通常の相続とは異なった間題点があります。
土地を1人で取得する方法としては、遺産分割協議を行う▽他の相続人に相続分を放棄してもらう▽相続分を讓渡してもらう-などの方法があります。いずれにしても、法定相続人全員の合意が必要ですので、相続人全員の所在を確認しなければなりません。行方不明の相続人がいる場合には不在者財産管理人の選任などの手続きを取る必要があります。相続人全員を探すだけでも手間がかかりますし、複数の行方不明者がいる事態も想定する必要があります。
さらに、土地を取得するために多額の資金が必要な場合も想定されます。すなわち、相続人は相続財産のうち法定相続分について権利を主張できますが、自分の法定相続分以上の遺産を取得するためには代償金を支払う必要があるためです。
数次相続では、長期間経過していることが多いため、時効による土地所有権の取得も検討の余地があります。しかし、時効の成立には、ご質間の方が「自分一人の所有である」と認識している必要があります。 相続人が複数存在する場合、遺産は全相続人の共有ですので、原則としてこの要件を満たしません。
手間やお金がかかるのであれば放置して実家に住み続けるとお考えかも知れません。しかし、2024年の4月から相続登記の申請が義務化され、罰則もあるため、質問者が亡くなられた後に4次相続が発生するとさらに相続人が増えるなどして、お子さんなどの相続人が苦労することになります。今のうちに手続きを行うことをお勧めします。