神戸新聞2023年8月16日掲載
執筆者:首藤 康智 弁護士
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母が亡くなりました。 相続人は私と私の兄 (長男) の2人です。先日、全ての財産を長男に相続させる旨の自筆証書遺言が見つかりました。遺言の内容に納得できないのですが、どうすればよいでしょうか。
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遺言書が有効であるかどうか、有効だとしても法定相続人(兄弟姉妹以外)に最低限保障された遺産取得分である遺留分の間題を考える必要があります。
まず、自筆証書遺言を有効とするには、遺言者が、遺言書の全文、日付、氏名を自書し、押印していることが必要です。
なお、自筆証書遺言の場合、遺言書の存在を知らせるとともに偽造などを防止するため、家庭裁判所による遺言書の検認が必要ですが、遺言書の有効性とは無関係です。
遺言の有効性では、遺言内容を理解し、遺言の結果を判断できる能力(遺言能力能力)の有無が重要になります。特に認知症など精神上の障害がある方の遺言については、遺言能力が争いになることが多いです。
一般に、遺言能力の有無は、精神上の障害の有無・程度、遺言内容、遺言の動機、作成経緯、相続人との人的関係などを総合的に考慮して判断されているようですので、一律に判断することはできません。
ちなみに、公正証書遺言の場合、検認は不要ですし、公証人が作成に関与するので、形式的な不備は基本的に想定できませんが、遺言能力がないと判断されることはあり得ますので、公正証書遺言でも遺言の有効性を争う余地はあります。
次に、遺言書が有効である場合、本件のような遺言内容であれば、兄弟姉妹以外の相続人は、法律上、遺留分を侵害されているとして、遺留分侵害額請求権を行使することができます。
本件だと、相談者は、長男に対して、遺産の4分の1に相当する金額の支払いを求めることができます。 なお、遺産の全てが不動産でも、金額に評価して金銭での支払いとなります。
遺留分は1年の消滅時効が存在するため、遺言書の有効・無効を争っているうちに1年が経過し、遺言書が有効であることが確定した場合、遺留分を行使できなくなりますので、遺言の有効・無効の紛争が長引きそうであれば、配達証明付きの内容証明郵便を送付するなどの措置を取ることをお勧めします。