神戸新聞2023年7月5日掲載
執筆者:横山 大輔 弁護士
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夫と死別し、 遺言書を作成しました。遺産は、夫から私が単独で相続した実家の土地と建物です。3人の子どもは仲が良いので、 子ども3人で仲良く分けてください」と書きましたが、問題はないでしょうか。
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相続は、時に「争続」と呼ばれます。仲が悪いから争うのだろう、うちに限つては大丈夫、という話をよく耳にしますが、相続発生前は円満な関係でも、相続を契機に紛争が生じることは、残念ながらままあります。では、仲が良い相続人の間でなぜ紛争が起こるのでしょうか。
今回のケースでは、遺産の土地、建物を「3人で仲良く分けて」と記載しています。割合については明確性を欠くものの、均等に分けるようにとの意図が一応は推測できます。
しかし、分け方については解釈の余地が大きいと言えます。
不動産の分け方には、①相続人全員の共有 ②相続人で物理的に分割 ③全員で売却してその代金を分割 ④1人が単独で取得し、他の相続人に対し代償金を払う-などの方法があります。
この点、相談者の書いた遺言では、遺言者の意図が、そのいずれであるのか、不明確です。
そのため、長女は「子ども3人で仲良く」と書かれている点を捉え、3人で共有してほしい意図だと解釈するかもしれません。遺言書には「先祖から受け継いだ財産」の文言もあり、次女は、次の世代に承継していく上では、単独で取得させた方が遺言の趣旨に沿うと考えるかもしれません。また、三女は、「先祖から受け継いだ財産」は、祖先に感謝しなさいという趣旨に過ぎないと解釈し、売却して代金を分けるのが最も合理的だと主張するかもしれません。
これでは、せっかく遺言書を残しても、みんなが困ってしまいます。
相続人が、親の生前の意思を真剣に探究する結果として理解に相違が生じ、感情的な対立を生むケースもあるのです。これは誰にとっても不幸なことです。今回のケースで火種となりそうなのは、多義的な解釈の余地がある「仲良く分けて」という文言(条項)です。
遺言書については、専門家に依頼するなどして、誰が読んでも同じ意味に解釈できる条項になるように作成することをお勧めします。