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2023年

死亡届を出す前に故人の預金を引き出せるか-全相続人の同意が必要

 神戸新聞2023年6月7日掲載
執筆者:関本 龍志 弁護士

 父が亡くなりました。 口座名義人が亡くなると口座が凍結されて預金が引き出せなくなると聞いたので、凍結される前にできる限り父の口座からお金を引き出そうと思っています。問題はあるでしょうか。

 金融機関が死亡届などによって預金者の死亡を知った場合、預貯金の入出金が停止されます。そのため、預金者が亡くなった後、死亡届を出さずに相続人の一部の方がATMなどで故人の口座から毎日上限額を出金するケースが見受けられます。

 しかし、相続人が複数いる場合、預金者が亡くなった後の預金は、遺産分割の対象となる全相続人の共有財産です。そのため、相続人が複数いるケースで、他の相続人全員の同意がなく、故人の預金を引き出すことは、他の相続人の財産侵害になり得ます。実際、相続人が故人の口座から預金を引き出した他の相続人に対して自分の相続分の返金を求めて訴訟を提起することもあります。それでは、 一部の相続人のみで遺産分割前に故人の預金を引き出す方法はないのでしょうか。

 まず、預金者が特定の相続人に対して特定の預金を相続させる旨の遺言書を残していれば、その相続人が遺言書を用いて預金を引き出すことが可能です。この場合、手書きの遺言書ではなく、公証役場で遺言書を作成しておくことがお勧めです。

 また、2019年7月1日からは、相続分と故人の預金額に応じて、遺産分割前にも一定の金額を引き出すことができる制度の利用が可能になりました。

 しかし、これらの方法で預金を引き出す場合には、故人の相続関係を明らかにする戸籍などの書類が必要になりますし、銀行の判断にも時間がかかるため、故人の死亡直後に預金を引き出すことは困難です。

 結局、故人が亡くなられた直後にトラブルなく故人の預金を引き出すには、全相続人が合意するしかありません。相続が発生する前から相続人間でよく話し合っておく必要があります。

 やむを得ず一部の相続人が故人の預金を引き出す場合、引き出したお金の使い道を他の相続人にきちんと説明できるように金銭の使途をメモしつつ、領収書を確実に保存しておくことが大切です。

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