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2023年

デジタルマネーでの給与受け取りは強制?-労働者から個別の同意必要

 神戸新聞2023年5月3日掲載
執筆者:中馬 康貴 弁護士

 今年4月からデジタルマネーでの給与支払いが解禁されたと聞きました。 キャッシュレス決済に疎く、従来通り銀行振り込みが良いのですが、会社が導入すると決めたら、従わなければならないのでしょうか。

 結論としては、「〇〇Pay(ぺイ)」などのデジタルマネーで給与の支払いを行うためには、雇用主と労働者との間で労使協定を締結した上で、個々の労働者に留意事項などを説明し個別の同意を得ることが必要です。そのため、同意なくデジタルマネーでの給与の受領が強制されるわけではありません。

 そもそも、給与の支払いは現金払いが原則とされており(労働基準法24条)、現在広く給与の支払い方法として普及している銀行口座や証券口座への振り込みも、労働者の同意を得た場合に限り、例外的に支払方法として認められています(同法施行規則7条の2第1項)。

 2023年4月1日から、新たな選択肢として、デジタルマネーでの給与支払いが可能となりました。 資金移動業者の指定申請手続きの関係で、実際にデジタルマネーでの給与支払いが行われるのは早くて数カ月先の見込みですが、給与の一部をデジタルマネー で、残りを銀行口座で受け取ることも可能です。

 デジタルマネーでの給与払いにっいて個々の労働者から個別の同意を得る際も、給与のデジタル払いを希望する個々の労働者に対して、留意事項の説明を行い、制度の内容を理解してもらった上で、同意書に必要事項を記入し、提出してもらう必要があります。さらに、給与の支払い方法の選択肢として、銀行口座か証券総合口座の選択肢もあることを併せて提示しなければなりません。

 このように、現状は、労働者からの個別の同意を得なければデジタル払いに移行することはできず、その手続きも慎重に設定されています。

 もっとも、キャッシュレス決済サービスを日常的に利用する労働者からすればメリットのある制度でもあり、先日、PayPayや楽天ペイが給与デジタル払いへの対応を表明しました。今後キャッシュレス決済がさらに普及すれば、デジタルマネーでの給与支払いを選択肢の一つとして導入する企業も増えてくる可能性があります。

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