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2023年

亡くなった父の借金 半年後に相続放棄できるか-原則は3カ月以内、例外も

 神戸新聞2023年3月1日掲載
執筆者:長尾 一樹 弁護士

 消費者金融が、半年前に亡くなった父の相続人である私に対して、父に生前貸していたお金の返済を求めてきました。父とはしばらく音信不通で、財産は何もないと思っていたのですが、相続放棄はできますか。

 民法915条は「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について(略)放棄をしなければならない」として、相続放棄ができる期間を3カ月と定めています。

 3カ月の起算点となる「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、被相続人の死亡日のことではなく「相続開始の原因事実」「自分が法律上の相続人となった事実」(ご質問のケースでは、お父さまが亡くなった事実)を知った日のことを指します。

 ただし、それが死亡の後日だとしても、可能であれば、死亡日から3カ月以内に相続放棄の手続きをとりましょう。なぜなら、「知った日」を起算点とするには、「その日に知った」という事実を裁判所に説明する必要が生じるからです。

 さて、ご質問のケースでは、お父さまが亡くなったことを知った日から3カ月が経過している場合、民法915条によると、相続放棄ができず、お父さまの借金を返さないといけないと思われるかもしれません。

 しかし、最高裁の判例によると、相続放棄ができる例外があります。

 「3カ月以内に(略)相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり」「被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて(略)相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるとき」(判例の一部を引用)には、相続財産の存在を認識できた時から3カ月以内であれば、相続放棄が可能とされています。

 ご質問のケースで、あなたとお父さまとの間で生前の付き合いがほとんどなく、相続財産(借金も含む) の有無の調査が困難などの場合には、この例外に当たり、相続放棄が認められる可能性があります。

 ただ、個別の事情によっては、他の場合でも認められることがありますので、3カ月経過後の相続放棄を希望される場合、専門家に一度相談されることをお勧めします。

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