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2022年

「みなし公務員」が賄賂を受け取った場合は-公益性有しており収賄罪に

 神戸新聞2022年8月3日掲載
執筆者:井上 篤 弁護士

 東京五輪・パラリンビック組織委員会の元理事が、大会スポンサ一側から資金提供を受けていたとして、受託収賄容疑で捜査が続いているようです。典型的な公務員ではないですが、 賄賂を受け取った場合には処罰されるのでしょうか。

 収賄罪は賄賂罪の一種で賄賂を受け取る犯罪です。賄賂とは自分の利益になるよう取り計らってもらうなど、不正な目的で贈る金品を言いますが、刑法上は金品だけではなく利益も含まれています。

 賄賂の罪は、原則として公務員が受け取ることで成立します。これに対して賄賂を贈る側にはそのような限定はなく、公務員以外の者が公務員に賄賂を贈っても、贈賄罪が成立します。

 このように賄賂の罪において公務員が受け取ることが要件とされているのは、賄賂罪を罰する目的が、公務員の携わる職務の公正とこれに対する社会の信頼を守ることにあるからです。

 公的立場にある公務員が、ある人物から賄賂を受け取り、その人物に対して立場を利用して便宜を図るようなことが横行すれば、公務員、ひいては公務員が所属している国や地方公共団体に対する一般市民からの信頼は失墜します。

 賄賂がはびこる社会では、「持つ者」と「持たざる者」との差異が生じ、社会的弱者が保護されません。

 こうしたことを防止するには公務員がその職務を公正に行うことが必要であり、そのことについて一般市民が信頼していることが必要なのです。

 一方、公務員でなかったとしても、携わる職務の内容が公務に準ずる公益性、および公共性を有している者は「みなし公務員」として賄賂の罪が適用されます。

 東京五輪・パラリンビックは国や東京都にとって重要な行事であり、組織委員会の理事や職員の行う職務は公務に準ずる公益性や公共性を有しています。このため、組織委員会の理事や職員は法律上、みなし公務員とされており、組織委員会の理事が賄賂を受け取った場合には収賄罪が成立するのです。

 トップアスリートたちが自らの限界に挑んだ東京五輪・パラリンピックの裏で、社会の信頼を損なうような犯罪が行われていたとすれば悲しいことですね。

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