神戸新聞2022年7月6日掲載
執筆者:廣田 翔生 弁護士
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最近のニュースで「懲役刑」 がなくなると聞きましたが、どういうことでしょうか。 懲役刑がなくなるということは、 犯罪者に対する刑罰が軽くなるということでしょうか。
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先月13日、「懲役刑」と「禁固刑」を廃止して「拘禁刑」に一本化する改正刑法が成立しました。施行(効力の現実の発生)は2025年が見込まれています。
懲役刑も禁固刑も、刑務所に収容して自由を奪う刑ですが、懲役刑は労務作業(木工、印刷、洋裁など) が義務づけられているのに対し、禁固刑はそのような義務はありません。禁固刑は、主に政治犯や過失犯(例えば過失運転致死罪など) に適用されます。
しかし、犯罪白書によると、20年の受刑者の99.7%を懲役刑が占め、禁固刑は0.3%にとどまる上、禁固刑受刑者も約8割が労務作業を希望して行い、近年は両刑を区別する実益の乏しさが指摘されていましまた、懲役刑自体にも問題が指摘されていました。刑法犯の摘発人数は年々減少し、20年に戦後最少となった一方で、再犯率(刑法犯摘発人数のうちの再犯者の割合)は上昇し、同年には過去最悪の49.1%に上りました。受刑者には、再犯防止などの観点から各種の指導(更生に向けたプログラム)も用意されているのですが、懲役刑は労務作業の時間が長すぎてそれらの時間が十分に確保できていないと言われていたのです。
「拘禁刑」への一本化により、労務作業と各種の指導を受刑者の年齢、特性、事情に応じて柔軟に組み合わせられるようになるとされています。薬物依存や性犯罪の受刑者に矯正プログラムを一層多く受講させる、基礎的な学力が足りない若年者に教科指導(平たく言えば勉強)の時間を増やす、高齢者に出所後に備えたリハビリを重点的に施す、などです。
再犯防止を重視した法改正と言えますが、拘禁刑でも労務作業は必要に応じて課されますし、身柄を拘束されて自由を剝奪されることには変わりません。ですので、犯罪者に対する刑罰が軽くなったと単純には捉えられないでしょう。
今回の法改正で再犯率が下がり、犯罪全体の数も減少すると良いですね。