神戸新聞2021年11月17日掲載
執筆者:野田 健人 弁護士
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ある社員に対して指導を行ったところ、同社員からその指導はパワー・ハラスメント(パワハラ)に当たるのではないかと指摘されました。パワハラと指導とはどのように区別されるのですか。
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職場におけるパワー・ハラスメント(パワハラ)とは、①優越的関係を背景とした言動であって②業務上必要かつ相当な範囲を超えており③労働者の就業環境が害されるものである-について、全てを満たすものを言います。
パワハラの定義については労働施策総合推進法で定められており、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、該当しません。
従って、業務上の命令や指導とパワハラがどう違うのかという判断基準については、それが業務上必要な命令や指導の範囲を超えた「嫌がらせ」であるかどうかということになります。
業務を適切に遂行するために、管理職などから叱責を受けることもあるでしょう。しかし、その叱責が適切な指導の範囲内であり、客観的に見て「嫌がらせ」の行為と言えなければ、パワハラには該当しません。
一方、指導とは名ばかりで、殴る蹴る、物を投げつけるといった行為はそもそも犯罪行為であり、パワハラに該当することは明らかです。
また、指導・注意の中で、「バカ」「辞めろ」「給料泥棒」などの暴言を吐く▽大勢の前で強い口調や大声で注意する▽失敗を執拗に責め立てる▽舌打ちなど軽蔑する態度をとる▽机を激しくたたいたり椅子やごみ箱を蹴ったりするなど威圧的態度をとる-といった行為があった場合は、精神的苦痛を与えるパワハラに該当します。
指導を行う際には、感情的にならない▽具体的な行動や問題点を指摘する▽人格否定をしない▽公然の場所での叱責を控える▽長時間にわたる叱責および大声など威嚇するような叱責はしない-といったことについて意識をする必要があるでしょう。
パワハラは円滑な職務の遂行を阻害するものです。未然に防止するためにはパワハラについて正しく理解し、管理職も含めた社員全体で共通認識をすることが重要です。