神戸新聞2021年11月3日掲載
執筆者:小西 裕太 弁護士
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友人から「自分の名前で銀行口座とキャッシュカードを作り、それを渡せば謝礼が出るという話を聞いた」と相談がありました。こんなことをしたら新しく預金口座も開設できなくなるのではないですか?
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銀行口座は便利な一方、特殊詐欺といった犯罪行為等に利用されることもあります。そのため銀行側は、犯罪行為等に利用されないよう、誰が、何の目的で銀行口座を利用するのかということに重大な関心を持っています。例えば申込者が他人に利用させる目的であれば銀行口座の利用を認めませんし、キャッシュカードの交付もしません。
しかし、他人に利用させる目的を隠して申し込まれると、銀行はその真意を知ることができません。本来は拒絶できたにもかかわらず、誤解をしたまま口座の利用やキャッシュカードを交付することになります。
こうした行為は、重要事項についてその真意を隠して、銀行において他人に利用させるものではないと誤解をさせ、口座を利用するという利益を得て、キャッシュカードという財物を得たことになりますので、刑法上の詐欺罪にあたります。
仮に特殊詐欺に利用されることを認識した上でこうした行為をした場合には、別途、特殊詐欺の共犯として詐欺罪が成立する可能性もあります。また、詐欺罪以外にも、現に自分名義のキャッシュカードを他人に譲渡した場合、別途、犯罪収益移転防止法28条1項前段により罰せられる可能性があります。
犯罪行為に該当し罰せられるだけではありません。特殊詐欺に利用されるなど、一定の場合には口座凍結がされます。口座が凍結されると「凍結口座名義人リスト」に名前が載ります。このリストに名前がある場合、従来、新規に口座開設を申し込んでも拒絶される取り扱いがされていました。こうした取り扱いについて、現在は各銀行の判断に委ねられているようですが、基本的には従来どおりの取り扱いをする銀行がほとんどであろうと考えます。
以上の通り、他人に譲渡する目的で自分名義の銀行口座やキャッシュカードを作ることは「百害あって一利なし」の行為ですので、絶対に応じないようにしてください。