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2021年

賃貸マンションで猫を飼育 契約違反で退去求められた-信頼関係破壊の有無が鍵に

 神戸新聞2021年10月6日掲載
執筆者:野村 優介 弁護士

賃貸マンションに住んでおり、猫を1匹飼っています。契約書にはペットの飼育について貸主の承諾必要とあり、貸主から退去を求められています。退去しないといけないのでしょうか。

 マンションの賃貸借契約において、借り主のペット飼育を禁止、制限する特約は一般的によく見られるものだと思います。

 今回のケースのように、ペット飼育について貸主の承諾が必要だと契約上定められている場合に、借り主が無断で猫を飼育することは、契約違反となります。

 しかし、契約違反があるからといって、それだけで退去しなければならないか(賃貸借契約の解除が認められるか)というと、そうではありません。家を借りる権利というのは居住の基盤となるものですから、わずかな契約違反を理由に簡単に退去しなければならないことになると、借り主の生活の安定が損なわれてしまうでしょう。

 そこで、判例などでは一般に、賃貸借契約は貸主と借り主の信頼関係を基礎として継続的になされる契約であることから、契約違反があった場合でも、その違反がいまだ貸主と借り主の信頼関係を破壊するほどではない場合には、契約の解除は認められない(退去させることができない)と考えられています。なお、この考え方を「信頼関係破壊の法理」といいます。

 では、今回のケースのように、マンションにおいて無断で猫を飼育するという契約違反が、信頼関係を破壊するほどの違反であるか否かですが、その判断は、厳密には飼育方法、しつけの程度、それまでに生じた損害の程度、貸主と借り主の交渉経過といった個々の具体的な事情によると言わざるを得ません。

 しかし一般に、猫の飼育においては、室内の柱や壁が損傷したり、室内が排せつ物などにより不衛生な状態になったり、その他近隣住民への迷惑になったりする恐れがある場合、裁判例でも指摘されています。

 そのため、契約に反して無断で飼育を始め、その後、貸主からもやめるよう言われたのに、それに従わず飼育を続けているような場合には、通常、信頼関係が破壊されている、つまり、借り主は退去しなければならないと判断されることが多いと思われます。

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