神戸新聞2021年6月2日掲載
執筆者:岩田 啓佑 弁護士
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私(70)には介護施設に入居している認知症の夫(80)がいます。子どもはおらず、夫には兄弟がいます。夫名義のマンションに居住していますが、夫が亡くなった場合には、私の名義になりますか?
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亡くなった人(被相続人)が遺言書を作成していない場合、民法に定められている法定相続人(被相続人の配偶者、子、父母、兄弟姉妹)が、相続することになります。
配偶者は常に相続人となりますが、その他は順位が定められ、第1順位が子、第2順位が父母、第3順位が兄弟姉妹です。第2順位の父母は、被相続人に子がいない場合、第3順位の兄弟姉妹、被相続人に子も父母もいない場合にそれぞれ相続人となります。例えば、被相続人に配偶者と子、母がいた場合、配偶者と子が被相続人を相続し、母は相続しません。
また、配偶者とともに相続する場合、順位によって、相続する割合である相続分が異なります。配偶者と子が相続する場合にはそれぞれ2分の1、配偶者と父母が相続する場合は、配偶者が3分の2、父母が3分の1、配偶者と兄弟姉妹が相続する場合には配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1の割合で相続することになります。
本件では、妻と夫の、兄弟が相続人になり、妻が4分の3、夫の兄弟が4分の1の割合で相続することになります。したがって、マンションの名義は妻単独の名義にはなりません。
相続の際にマンションを妻単独の名義にしたい場合には、夫に「妻に全て相続させる」との遺言を書いてもらう必要があります。
今回の場合、相続人となるのは配偶者である妻と夫の兄弟です。兄弟には法律上保証される一定割合の相続財産である遺留分が発生しません。そのため、前述の遺言書があれば、マンションは妻の単独名義になります。
もっとも、有効な遺言書を作成するには、遺言の内容と遺言の結果どのような効果が発生するのかを遺言者(この場合は夫)が理解できる状態でなければなりません。
今回、夫は認知症ということですので、その状態によっては有効な遺言書を作成することができない可能性もあります。