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2021年

交通事故でけが 賠償請求の時効が心配-民法改正で時効は5年間に

 神戸新聞2021年4月21日掲載
執筆者:川口 幸明 弁護士

交通事故に遭い、車が損傷し、足の骨を折るなどしました。間もなく事故から3年。加害者と裁判外で交渉を続けていますが、事故から3年で権利が消滅すると聞き、時効になるのではないか心配です。どうすればよいでしょうか。

 交通事故の損害賠償請求権の消滅時効期間は、車両・所持品等の損傷に関する被害(物損)も、人の生命や身体に関する被害(人損)も、被害者または法定代理人が「損害および加害者を知った時」(原則として事故日とされます)から3年間でしたが、民法改正(2020年4月1日施行)により、人損については「損害および加害者を知った時」から5年間となりました。

 また、改正民法施行前に発生した事故での人損に関しても、同施行日までに3年間の時効が完成していない場合、「損害および加害者を知った時」から5年間になりました。

 本件は2021年4月現在で「間もなく事故から3年」とあり、事故日は2018年4月頃かと考えられますので、施行日には3年間の消滅時効が完成していなかったことになります。したがって、物損は事故から3年が経過すれば消滅時効が完成しますが、人損については5年間、時効が完成することはありません。

 時効の完成を防ぐためには、改正民法の「更新」または「完成猶予」の措置を採る必要があります。本件では加害者と裁判外で交渉中とのことですので、加害者がご相談者の請求に対して既に一部支払いに応じたり、示談の案を示したり、加害者が損害賠償義務を負うことを確認する書面への署名押印に応じたりした場合、債務の承認に該当し、各時点から、物損については3年間、人損なら5年間の時効期間が更新されます。

 他方、加害者が一部支払いにも示談にも応じないといった場合、完成猶予の制度により、加害者に対し内容証明郵便で損害賠償請求の意思表示を行う「催告」で6カ月間延長されるほか、権利に関し協議を続ける旨の合意書面または同内容の電磁的記録を作成することで、原則として1年間(再度の合意により最長5年間)延長され、時効の完成が猶予されます。

 時効が間近に迫っているかもしれない場合や加害者との時効の更新に関する協議が奏功しないといった場合などは、速やかに弁護士にご相談ください。

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