神戸新聞2021年3月3日掲載
執筆者:尾上 富美 弁護士
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10歳の息子がお金を払わずにテレビゲームを持って店外に出てしまい、店長から呼び止められ「10歳でも刑事罰の対象となり、親が代わりに賠償すべきだ」と言われました。息子に前科がつき、私は賠償義務を負うのでしょうか?
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まず、前科についてお答えします。今回のケースで息子さんに前科がつくことはありません。
いわゆる万引き行為は窃盗罪という犯罪に該当しうる行為です。しかし、犯罪に関するルールを規定している刑法において、14歳未満の行為は罰しないと定められています(刑法41条)。息子さんは10歳ですので、ゲーム店での万引行為について罰せられるということはなく、前科がつくことはありません。
もっとも、前科がつかないからといって、警察が一切動かないというわけではなく、息子さんや親に対して事情聴取がなされることはあるでしょう。
次に、賠償義務についてお答えします。
ゲーム店の店長に対して親が賠償義務を負う可能性は高いと考えられます。私たちの生活に関する基本的なルールを定めている民法では、人が他人に対して賠償をするにあたり、自分のしたことの意味を理解していること、すなわち「責任能力」を必要としています(民法712条)。
例えば、赤ちゃんの手が動いて他人に当たり、他人がけがをしてしまった場合、赤ちゃんは自分のしたことの意味を分かっていないので、他人に対して治療費等の支払い義務を負うことはありません。本人に責任能力がないと判断された場合には、その人を監督する義務を負う人、つまり今回のようなケースでは、親が原則として賠償義務を負うと定められています(民法714条1項)。
責任能力が何歳から認められるかという点については、民法において決まっているわけではありませんが、一般的には12歳以上であれば認められる傾向にあります。 今回のケースでは10歳という年齢を考慮すると、息子さん本人に責任はなく、親が賠償する責任を負うことになる可能性が高いと考えられます