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2021年

業務とは関連ないのに会社がマスク着用命令-「安全確保」の点で合理的

 神戸新聞2021年2月17日掲載
執筆者:千邑 竜也 弁護士

コロナ禍で会社から感染予防のため「マスクを着用せよ」との業務命令が出ています。マスク着用自体が業務と直接は関連してないように思いますが、このような指示に従わなければならないのでしょうか。

 会社と従業員の間には雇用契約があり、会社は従業員に労働を命じ、従業員はその労働の対価として会社から賃金をもらう関係です。従業員がマスクを着用するか否かは労働の内容ではないため、従業員は会社の命令に従う必要がないとも考えられます。

 しかし、労働契約法5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするようにするものとする」と規定。つまり会社には従業員が安全に働くことができるよう配慮しなければならない義務があるとされているのです。

 実際に裁判例等でも、従業員の安全に配慮する会社の義務について言及されています。感染予防のためのマスク着用という業務命令は、そうした会社の義務履行に向けたルールの一環ということができます。

 その上で、従業員が会社の秩序を守って働くことは労働契約の当然の前提とされ、従業員に秩序を乱す自由があると考える人はいないでしょう。ですから、「従業員の安全」という秩序に向けられた合理的なルールであれば、従業員もそのルールに従う必要があるといえるでしょう。

 では従業員はマスク着用の業務命令に従わなければならないのでしょうか。

 これは業務の性質・内容・場所、会社の事業特性、社会における感染状況、マスクの準備状況といった諸般の事情によって異なります。

 他人と接触する機会が多い業務か否か、在宅勤務か否か、乳幼児や高齢者への接遇が多い業種か否か、マスク着用が難しい病気があるといった例外的事情が存在するか否かなど、さまざまな事情の中でその命令が合理的かを検討することになります。ただ現在の社会情勢では、会社が従業員に対し、業務時間内にマスク着用を命じてもその合理性が否定される可能性は乏しく、特別な事情でもなければこの業務命令には従う必要があると考えられます。

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