神戸新聞2020年11月18日掲載
執筆者:野田 健人 弁護士
-
最近、給料が減り、急な出費も重なり、家賃を2カ月連続で滞納しました。大家さんから2カ月分の賃料不払いを理由に契約を解除するとの通知がありました。出て行かないといけないのでしょうか。
-
賃貸借契約とは、賃貸人が賃借人に対して土地や建物の賃借物を使用・収益をさせることを約束する代わりに、賃借人がそれに対する対価として賃貸人に対し賃料を支払う義務(債務)を負うという契約です。
民法第541条は「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる」と定めています。この規定からすると、賃料をあらかじめ定めた期限までに支払えない場合には、1回の未払いであったとしても、賃貸借契約が解除されてしまうということになりそうです。
しかしながら、判例では、賃貸借契約はその特質上、契約解除ができる場合が制限されています。
判例では、賃貸借契約は当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるため、賃貸借契約上の債務の不履行があったとしても、賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊するに至らない場合は、契約を解除することは認められないとしています。
また、賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊したといえるかどうかについては、賃料不払いの回数だけでなく、不払いの額、不払いの態様、不払いに至った事情、賃借人の支払う意思や能力、賃借人の態度といった諸事情が考慮されます。
本件では、賃料2カ月分を滞納していますが、滞納に至る経緯などの事情からすれば、賃貸借契約の解除が認められないという可能性は十分に考えられます。
もっとも、賃貸借契約書上に特別の約定がある、滞納以外に信頼関係を破壊するような事情が存在する、来月も賃料が支払えない、今後も賃料の支払いが度々遅れるといった事情が重なってくれば、契約が解除されてしまうことも十分に考えられます。早い段階で弁護士などの専門家に相談されることをおすすめします。