神戸新聞2020年10月7日掲載
執筆者:上田 周 弁護士
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父が1カ月ほど前に亡くなりました。遺品を整理していたところ、父に多額の借金が存在することが判明しました。私にはとても支払うことができない金額ですが、父の借金を支払う必要があるのでしょうか。
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亡くなった父親に借金(相続債務)があった場合には、その債務は法定相続分通りに分割されて各相続人に相続されます。本件においても、相談者は法定相続分の範囲で父親の債務を支払わなければならないことになります。
しかし、相談者が相続放棄を行えば,初めから父親の財産の相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。その場合は、父親の債務を引き継ぐことはなく、借金を弁済しなくてよいことになります。
ただし、相続放棄の手続きには期間の制限がある上、プラスの財産(現金・預貯金・動産・不動産など)も承継できなくなります。
また、相談者が父親の遺産を一部でも処分してしまった場合には、単純承継をしたとみなされて相続放棄が出来なくなってしまうので注意が必要です。
相続放棄の手続きは、父親の最後の住所地(相続が開始した地)を管轄する家庭裁判所に申述書を提出して行います。管轄の家庭裁判所が遠方にある場合には郵送での提出も可能です。
なお相続放棄は、相続開始の原因となる事実を知り、それにより自分が法律上の相続人であると知った時から3カ月以内にその手続きを行わなければなりません(民法915条)。本件でも、相談者は原則として父親の死亡を知った時から3カ月以内に相続放棄の手続きを行う必要があります。
また、父親の財産(債務も含む)調査に時間がかかりそうな場合には相続放棄期間の伸長を求めることもできます。
相続放棄の手続きは各相続人が単独で行うことができますが、もしも母親(父親の死亡時に婚姻関係にあった人)や兄弟姉妹ら他の相続人がいる場合は、相談した上で、一緒に相続放棄手続きを行われてはいかがでしょうか。
また、相続放棄は他の相続人や後順位の相続人に影響を及ぼす可能性が高いので、一度弁護士に相談されることをお勧めします。