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2020年

賃貸マンション退去時に原状回復費を請求された-経年劣化なら負担の必要ない

 神戸新聞2020年9月16日掲載
執筆者:永井 麻里江 弁護士

 先日、10年ほど住んでいた賃貸マンションから引っ越したのですが、オーナーからクロスの張り替え費用など総額60万円近い原状回復費用を請求されています。言われるままの金額を支払うしかないのでしょうか。

 まずクロスの張り替えなどが必要な理由が問題となります。

 理由が経年劣化であれば、賃借人が費用を負担する必要はありません。民法621条では、賃借人は賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合、その損傷を原状に復する義務を負うとされています。しかし、同条では、通常の使用収益によって生じた賃借物の損耗や経年劣化について、賃借人は原状回復義務を負わないとしています。

 通常の使用収益とは、賃貸借契約で予定された使い方をすることです。例えば賃貸マンションなら、賃借人が日常生活を送ることは通常の使用収益に当たります。賃借人が日常生活を送る中で自然にクロスが剥がれたり変色したりしたということなら、賃借人が張り替え費用などを負担する必要はありません。

 また、災害といった不可抗力によりクロスの張り替えなどが必要になったという場合も、賃借人がその費用を負担する必要はないとされています。

 一方、賃借人が契約に違反した使用収益をしたり、故意に破損したりしたためにクロスの張り替えなどが必要になった場合はその費用を負担しなければならないでしょう。例えばペット禁止の賃貸マンションであるにも関わらず、賃借人がペットを飼育し、ペットがクロスを破損してしまったような場合です。

 なお賃貸借契約において、通常の使用収益によって生じる損耗や経年劣化の修繕などの義務を賃借人に負わせる内容の特約(通常損耗補修特約)を設けることは可能です。賃貸マンション契約の際は、契約書に通常損耗補修特約の条項がないか、条項があるのであれば、修繕義務を負う範囲が明確に定まっているかどうかを確かめた上で契約を締結した方がよいでしょう。

 ここまで、令和2年4月1日に施行された改正民法を前提として述べましたが、民法が改正される前に締結した賃貸借契約であっても、原則として同じ結論になるでしょう。 

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