神戸新聞2020年7月1日掲載
執筆者:國富 さとみ弁護士
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好きな芸能人が会員制交流サイト(SNS)上で政治的発言をしているのを見てがっかりし、「バカのくせにカッコつけんな」と書き込んでしまいました。これって名誉毀損になるんですか?
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SNSは誰でも気軽に発信できて、いろんな人の意見を聞ける便利なツールですよね。私もついつい時間を忘れて見入ってしまいます。今回の書き込みが名誉毀損に当たるのかという質問ですが、まず法律の条文から見ていきましょう。
刑法230条の名誉毀損罪の条文には「公然と」「事実を摘示し」「人の名誉を毀損した」と書かれています。あなたの書き込んだ文章がネット上に公開されており、不特定もしくは多数の人が読める状態であれば「公然」性が認められます。ただし、「バカ」とか「カッコつけんな」という言葉は、具体的な「事実を摘示」したことになりませんので名誉毀損罪には当たりません。
名誉毀損罪に当たる「事実」の「摘示」であると言えるためには、例えば「○○さんは不倫しています」とか「△△さんは会社のお金を横領しています」というように具体性が必要です。「バカ」とか「カッコつけてる」という言葉は、単なるあなたの意見や判断に過ぎません。
ただし、名誉毀損にならないからといって安心するのはまだ早いです。あなたの書き込みは侮辱罪に該当する可能性があります。
刑法231条には「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、勾留または科料に処する」と書かれています。この「侮辱」とは、侮蔑的価値判断の表示を言うとされています。具体性がなかったとしても、「バカ」「カッコつけてる」といったあなたの意見や判断は「侮辱」に当たる恐れがあります。
ここまでは刑事事件としての話です。刑事罰を受けるかどうかという話とは別に、被害者から民事上の責任として慰謝料を請求される可能性があります。
SNSは匿名だからといって、何を言っても許される場ではありません。書き込む前に、実名を出しても同じ発言ができるかどうか、一度考えてみることをお勧めします。SNSはたくさんの人が見ていますから、お互い気持ちよく利用したいですね。