神戸新聞2020年4月15日掲載
執筆者:大本 健太弁護士
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このたび退職することになったのですが、会社から「遅刻があったので最後の給与から罰金1万円を控除して支払う。引き継ぎなどもあるので給与を取りに来るように」と言われました。会社の主張は違法ではないですか。
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まず、労働基準法第24条では、賃金の支払いについて「直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と規定されています。そのため、会社が「罰金」として給与から一方的に天引きすることは法律違反です。
ただ、企業には企業秩序の維持確保のため、規律違反や秩序違反に対する懲戒権が認められており、従業員が遅刻を繰り返したような場合には、会社は懲戒処分の一つである減給として対応することが考えられます。
しかしながら、企業の懲戒権といっても無制限なものではなく、使用者は、懲戒の自由と手段を就業規則に明確に定めなければ懲戒処分はできず、就業規則に定めのない懲戒処分を行うこともできません。また、減給処分は1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、一つの賃金支払時期に処分を複数回行う場合、総額がその賃金支払時期における賃金総額の10分の1を超えてはなりません(労働基準法第91条)。
今回の場合、相談者が遅刻をくり返し、①遅刻が就業規則上の懲戒事由に該当する②罰金1万円が就業規則にのっとったものである③罰金の額が労働基準法第91条に定められた金額を超えない-といった極めて例外的な場合でない限り、罰金は違法と考えられます。
次に、給与の支払い方法(支払場所)については、就業規則や雇用契約書に給与は振り込みとすると書いてある場合や、これまでずっと振り込みで対応してきた場合、会社と労働者の間で給与の支払い方法について銀行口座による振り込みで支払うという内容の合意をしていると考えられます。ですので、そうした場合には、会社には給与を銀行口座に振り込む義務が認められる可能性が高いと考えられます。
今回のケースでも、これまでの賃金の支払い方法などによっては、相談者が給与を会社まで受け取りに行くのではなく、会社に対して口座振り込みなどの方法で支払うよう求めることも十分考えられるところです。