神戸新聞2020年4月1日掲載
執筆者:朝本 健介弁護士
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私は手が不自由で字を書くことができません。孫に私の財産を取得させるため、遺言を残したいと思っているのですが、代筆でも作成できますか?そもそも遺言にはどのような種類があるのでしょうか。
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遺言の種類には主に自筆証書遺言と公正証書遺言があり、それぞれの遺言の種類ごとに一定の方式が決まっています。これに従って初めて法律上の遺言となります。
契約書などは当事者間で比較的自由に方式を決めることができるのに、なぜ遺言は方式が法律で厳格に定められているのでしょうか。その理由は、遺言が問題になる頃には書かれたご本人は亡くなっていて、その正確性や真偽についてご本人に確認しようがないので、法律で厳格に形式を定め、間違いが少ないように工夫しているからです。
自筆証書遺言は文字通り遺言を自筆で書くというものです。遺言書と言えばこれをイメージされる方も多いと思います。
しかし、ご相談の事例のように、手が不自由で字を書くことができない方が誰かに代筆を頼んで遺言書を作成しても、代筆では「自筆」とは言えず、方式不備によりせっかく作成した遺言も無効となります。そのため、ご相談の事例では自筆証書遺言の方法で遺言書を作成することはできません。
一方で、公正証書遺言は遺言者が公証人に遺言の内容を言葉で伝え、公証人によって遺言書を作成・保管してもらいます。公証人は裁判官や検事などを長く務めた法律実務の経験豊かな人の中から選ばれます。公証人に支払う手数料がかかりますが、法律の専門家である公証人が遺言者の口述を聞き遺言書を作成してくれますので、方式の不備などで無効となることはまずありえません。
このほか、死亡の危急に迫った人がする死亡危急者遺言など特別な方式もありますが、特別な場合にのみ使えるものですので通常は利用することはありません。
ご相談の事例は相談者が字を書くことができないということですので、公証人により遺言を作成してもらうことのできる公正証書遺言を利用されることをお勧めします。公証人の手数料などはお近くの公証役場に問い合わせるといいでしょう。