神戸新聞2020年2月5日掲載
執筆者:與語 信也弁護士
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父は多くの土地を所有していましたが、3カ月前に亡くなりました。相続人は私と兄と妹の3人です。父は遺言を残しており、遺産は全て私が取得することになっています。このたび、兄が自分には遺留分があるはずだと言って土地の名義を移転するよう求めてきました。応じる必要はあるのでしょうか。
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遺留分とは、相続の際に、一定の法定相続人に対して、法定相続分の一定割合を保障する制度のことです。この制度は、元々は「家」の断絶を防ぐという古い考えに基づくものでしたが、そのような考え方が一般的ではなくなった現代においては、主に、法定相続人の生活保障や、遺産形成に貢献した家族の労力 の清算を目的とする制度であると解されています。
法定相続人が持つ遺留分は法定相続分の2分の1です。このケースでは相続人は3人ですので、兄の遺留分は父の遺産の6分の1(法定相続分3分の1のさらに2分の1)ということになります。
さてご質問ですが、ここでは、遺言の有効性や遺産の範囲については争いがないことを前提とします。従前、民法は、遺留分権利者がその権利を行使した場合、遺産のうち遺留分の範囲(このケースでは土地所有権の6分の1)について、当然に遺留分権利者に所有権が規属するとしていました。
これによれば、遺産である土地のうち6分の1は、兄に所有権があることになります。しかし、このように不動産が共有状態になると、その共有状態の解消を巡って新たな紛争を生じさせることにもなり、問題とされてきました。
そもそも、法定相続人の生活保障のためであれば、遺留分権利者に対して遺留分侵害額に相当する金銭を返還させれば足りるはずです。そこで、昨年の民法改正により、遺留分権利者が遺留分を行使すると、遺留分侵害額相当の金銭の請求権が発生することが明文化されました。
従って、本問では、兄は、父の遺産である土地の名義移転を求めることはできませんので、兄の要求に応じる必要はないというのが回答になります。しかし、兄は、あなたに対し、不動産を含む遺産総額の6分の1相当額の金銭の支払いを求めることができますので、金銭の支払いを求められた場合は、応じなければならないということになります。