くらしの法律相談(2017年~)

ヒマリオンの部屋ヒマリオンの部屋

2020年

賃貸ビルで漏水事故 誰に損害賠償求める?-早い段階で専門家に相談を-

 神戸新聞2020年1月15日掲載
執筆者:野田 健人弁護士

 ビルの一室を借りて喫茶店を営んでいます。当ビルの内装工事を請け負う事業者の下請け業者が雇っている職人のミスで漏水事故が起き、当店も損害を被りました。誰に損害の賠償を求めることができますか。

 工事中に下請け業者の職人の故意・過失によって第三者に損害を与えてしまった場合、当該職人は不法行為責任(民法709条)を負うので、当該職人に対して損害賠償を請求することができます。

 また、職人を雇用している下請け業者自体も、使用者責任(民法715条)を負うことになるため、損害賠償を請求することが可能です。

 さらに職人を現場で指揮・監督している元請業者については、第三者に対し使用者責任を負うことがあります。

 使用者責任が認められるためには「使用関係」が存在する必要があります。使用関係が存在するか否かについては、必ずしも雇用関係が存在する必要はなく、実質的に使用者が被用者を「指揮監督する」という関係があれば足りるとされています。

 本件でも、職人は元請け業者と雇用契約を結んではいませんが、使用関係が存在するとして、元請け業者に損害賠償を求めることも可能と考えられます。

 結局、本件では、職人に加えて、下請け業者や元請け業者に対しても損害賠償を求めていくことになるでしょう。

 損害の内容は、水漏れにより汚損した財物などが考えられますが、あくまでも損害の対象となるのは当該事故と相当因果関係がある損害に限られます。

 すなわち、あくまでも損害賠償の対象となるのは、事故時における財物の状態への回復であり、新品の状態へ戻すのに必要な費用ではありません。実際の裁判例でも、経過年数を考慮して減価割合をしているケースがあります。例えば、家具買い換え費用から経過年数を考慮して5割の減価分を控除し賠償額を認定している場合もあります。

 本件のような水漏れの事故の場合には①誰に対して請求を行うのか②損害として何を請求するのか③損害をどのように証明するのか-について難しい問題があります。そのような事故に遭遇した場合には早い段階で専門家に相談いただくことをおすすめいたします。

この記事をSNSでシェアする